特命捜査班 雨に消えた影

ちはるんるん

第1話 深夜のシグナル

深夜の街は、雨に洗われて青白く光っていた。

水たまりに映る街灯の光は、揺れる水晶のかけらのように煌めき、霧と混ざり合って幻想的だ。


特命捜査班の刑事、鏑木悠真はパトカーのハンドルを握りながら、その光景をぼんやりと眺めた。

「こんな夜に…またか」

直感が、胸の奥で静かに警告している。

その瞬間、携帯電話が震え、現場からの通報が割り込んだ。


現場は都心の古びたアパート。

雨に濡れた階段を上るたび、古い木の床が軋む。

扉を開けた瞬間、空気が一瞬、凍りついた。


部屋には散らばった書類と、埃をかぶった一枚の写真が残されている。

写真の中で、被害者の背後にかすかに影が写る。

立つはずのない存在が、霧のように揺れている。


鑑識が小声で告げた。

「鏑木さん…これは自殺じゃありません」


雨粒が窓を伝い、光の筋となって床に落ちる。

その筋の先で、部屋全体が淡く揺れるように見えた。


鏑木は地面に落ちていた、小さなメモを取り出す。

そこには 「35.710063 139.8107」 とだけ書かれていた。

文字の端がにじみ、微かに揺れている。

直感が告げる――これは、過去に解決した連続事件と同じ匂いだ。


胸の奥で、過去の未解決事件の影が静かに広がる。

「絶対、見逃さない…」

雨音と霧に包まれた街で、鏑木は小さく呟いた。


しかし、この夜の美しさは、恐怖の序章に過ぎなかった。

街灯の向こうで、誰かが静かに笑っている。

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