悪魔と天使のパラドックス
もちを求めて三百里
1ページ 天界への進出
「これより、悪魔不法入界について議会を執り行う!!」
悪魔である僕を取り囲み、鋭い目線を向ける天使たち。中には殺意を向けてくる者もいた。そんな天界での出来事。
なんでこうなったんだろう……。
いつも通り起きて、僕を崇拝してくれる子から捧げてくれたご飯を食べる。なんでも地上では三ツ星やらが付いてるものすごく美味しいご飯らしい。そして、趣味の生物観察のために必要なノートやペン、素材を収納する箱を肩掛けバッグに入れて外に出る。空を見上げればいつも通りの血のような真っ赤な空が見える。ここ悪魔が巣食う魔界では当たり前の光景だ。何かいないか探していると、黒髪で羽を持っている紳士そうな男性を見つけた。あれは……
「ラプラス、情報。」
「きみねぇ……会って直ぐにそれなのはいかがなものだと思うのですが。少しはしょうもないことで談笑とか考えないのですか?」
ラプラスは胡散臭い笑みでこちらを見る。情報屋としてはらしいといえばらしい表情ではあるけど。
「そうしたら、えっちい?ことも根掘り葉掘り聞かれるからやめときなってアスモデウスが言ってた。」
なんでもラプラスはそういう情報も集める変態なんだーって言ってたな。何故か分からないけど、くすくす笑ってた。
「……ニュウ、まさかその情報他の誰かに話してないですよね?」
「えっと……」
誰かに話したかな?あの時はアスモデウスのとこ寄った後に……ああ、そういえば
「ウェルに会ってラプラスについて知ってること教えてって言ってたから、話したよ。」
あの人、ものすごくラプラス関連だと情報が早いんだよね。さすがラプラスが好きってだけでラプラス直属の眷属になっただけはあるよね。髪色も水色だったのにラプラス様と同じにするんだーって言って黒髪にしてたっけ。地上だとオタクって言うんだってね。
「よりにもよってウェルにですか!?絶対、今頃その色欲にまみれた情報を集めてるじゃないですか!?」
ガシッと肩を掴まれ、めっちゃ真剣な顔でこちらを見てくる。
「いいかい、ニュウ。わ・た・し・は、そんな穢らわしもんなんぞ集めませんからね!!あの色欲魔の言うことなんて嘘ですから!!」
「え、あ、うん……。」
「それと、私は用事ができてしまったからまた今度。」
そう言ってラプラスは、元々ついているフクロウの羽と体内にしまい込んでいた悪魔の羽を広げ、ものすごいスピードで飛んでいってしまった。びっくりした。というか……魔界での未確認生物の情報、欲しかったんだけどな。……まあ、未確認生物がいるかどうかは正直期待はしてなかったし、いっか。魔界の生物、僕が知る限りだと全部調べつくしちゃったし。だとしたら地上の生物かな。
僕ら一般の悪魔は地上に行くためにはいくつかの方法がある。よくあるのが人間によって召喚されること。でもこれだと一時的にしか地上にいれない。何せ、地上にいる為の魔力の供給源が人間なので。流石に魔力が魂含めて少ないのである。ただし、依代があれば話は別らしい。長期間、なんなら永遠に地上にいれる。その代わり特別な依代でもない限り全くもって動けなくなるし、魔界に戻ることが不可能になるそうだ。実際、クマのぬいぐるみに入って数十年間動けず、最終的に神社でのお焚き上げをされてるところを見た事がある。シルファーが『わたくしに逆らったいけない子なの♥』って言って丁度燃えているところを見せてきたのだ。なんでこんなちんちくりんな悪魔である僕に見せたのかは今でもわからない。
次にまあまああるのが信仰の対象にされること。こっちの場合だと、一定量の信仰さえ途切れなければ長期間地上にいることが出来る。地上にある本殿と魔界にある自分の本殿を通じて行くのだ。僕がよく使ってる方法である。信仰といっても形だけではなく心からの信仰が必要で、信仰する人数が多ければいいってわけじゃない。実際、僕のとこは少数人しかいないけど信仰の質がいいから地上に行くことができているのである。ちなみに僕を信仰してる宗教は生贄だとかお布施の強制とか洗脳みたいなブラックは全部やってない。というかそういうのいらないし。地上にいれるだけの信仰があればいいし。
最終にほんっとに稀なのがいわゆる力技、もしくは技術力というやつである。名のある悪魔かつ最上位に位置する悪魔だとよくやる手法である。空間を割ったり、操ったりとかして行くのだ。なんでそんなこと知ってるかって?たまに悪魔の誰かに腕掴まれて一緒に地上に行くことがあるからね。中にはラプラスもそういうことをすることがある。なんでだろうね。
そんなふうに暇つぶしに小説っぽく説明を脳内でしながら目的地へと向かうとそこには魔界には不釣り合いなThe・自然が生えまくっている神社がぽつんとあった。いや〜僕の本殿魔界の端にあるから飛ぶにしても本当に移動が大変なんだよね。境内に降り立ち神社の本殿へと向かう。悪魔を崇めてる神社だから鳥居が黒いという訳でもなく、普通の神社そのものである。そして本殿に入り、三毛猫の姿になった後に猫しか通れないアスレチック迷路のような隙間を順番に通って行けば……地上である。
およ?鈴の音ってことは、丁度
相変わらず綺麗な舞を踊るね〜。普段はあんなにThe・太陽みたいな圧があるのに、舞を踊るときとか祈りを捧げるときは月みたいな神聖さがあるんだよね。……お、終わったみたい。
無癒はふぅと一息つき、汗を拭う。こちらに目線を向け、僕を認識するとパァと明るく笑顔を浮かべ走ってくる。が、ドンっと音が本殿に鳴り響く。無癒がずっこけたのである。うわぁ……痛そう。直ぐに無癒は起き上がり、スライディングで正座の形をとり、頭を僕に向かって下げる。
「ニュウ様、信者無癒まいりました!!お会いできて光栄です!!」
そのスライディング正座はいつの間に習得してるの?地味に技術力高いような……。
「うん、久しぶり無癒。舞、綺麗だったよ。」
「お褒めに預かり光栄でございます!!」
ペッカペカの笑顔かつ大声で無癒はそうこたえる。うーん、耳が痛い。人間だったら鼓膜破れてるんじゃないかな。
「ところでニュウ様は今回どのようなご用事で地上にいらっしゃったのですか?俺にできるようなことでしたら手をお貸しいたしますが。」
「あー、いつも通り僕の趣味関連のことだから大丈夫だよ。でも未確認生物とかの情報とかあったら教えてほしいな。」
「それでしたら……、」
無癒はスマホを取り出し、とあるニュースを僕に見せてきた。その内容は氷河期のころに生きていたとされる絶滅生物をDNAを用いて復活させたものだった。へぇー……復活ねぇ。でも、
「これ、復活じゃなくて新種になってる。元の生物と似たところなら沢山あるだろうけどでも、母体にしたのが現代にいる生物だったのが良くないんだろうね。特に歯の部分。肉食だけじゃなく、草食特有の歯もある。つまり雑食の可能性が大きいか。とはいっても肉食よりではあるか。それに祖が同じだからとはいえ、現代と氷河期時代の酸素濃度とか魔力濃度、空中に漂う細菌の違いもあるはず。特に魔力濃度とかに繊細な生物だから最悪直ぐに息絶える可能性の方が大きいか。母体の方の遺伝子が大きければ少しだけは長く生きれるかな。ねえ、」
「はい、ニュウ様。既に手配いたしております。とはいえ1週間はかかりますのでお待ちいただくことにはなりますが。」
さすが、僕の信者を長年やってただけあるね。僕が言う前にその生物に会いに行くための手続きやらをやってくれると信じてたよ。
「大丈夫。ありがとうね、無癒。」
「いえいえ、これしきのことは当たり前ですので!!あなた様に命じられればこの身すらも捧げましょう!!」
そんな自慢ありげに物騒なこと胸張って言わなくてもいいのに……。物騒なこと、嫌い。
「それはいいかな。そういうの僕苦手だし。それにしても……またおっきくなってない?胸。」
僕の目線の先にはメロン並に大きい胸がドンっと主張している。僕、あんなにおっきくないよ……。というか前はもっと小さかったはずなのに。え?そんなに会ってない期間長くないよね?だいたい1ヶ月あるかないかぐらいだよね?
「そうですね、また……おっきくなりました。俺にとっては邪魔でしかないですけどね。女ってやっぱり不便ですよね。」
まるで萎びれたワカメのように死んだ目をしながらそう呟いていた。お、おう……ご愁傷さまとしかいえない……。一応、他の貧乳女性が耳にしたら大多数から敵視される発言ではあるんだけど。
うーん、新種の子に会えるまで1週間となると今日は何をしようかってなるんだよね。地上の方もあらかた調べつくしちゃったし。……考えても思いつかないし、気分転換に町に降りるか。僕の神社を抜け、悪魔だとバレないよう人間に化ける。深い山をぬければ
町中を歩いていると、行きつけのカフェを見つけ、甘いものが食べたい気分だったので店内に入る。
「おお、ニュウじゃんか!!こっちこっち!一緒に食べよ〜。」
呼ばれた方向に目線を向ければ、そこにはオレンジ色の短髪を持つはっちゃけていそうな女の子が手招きをしていた。
「
僕はその手招きに応え、葛九がいるテーブルへと向かう。
「おう!1ヶ月ぶりやな〜!なに、また生物研究で外国に飛んでたんか?」
「うん。」
「かぁー、羨ましいわな〜。大学生やのによくそんなお金あるな。単位とか大丈夫なんか?」
純粋に疑問を浮かべたような表情で心配してくる。
「留学って形を取ってるし、成果も出してるから免除してもらったやつもあるかな。ほら、これ。留学先でのお土産、ヤクルスの羽。」
筏重
「ヤクルスって完全に暗殺特化な狩りをするあの!?」
葛九はものすごく驚き、その衝撃で手に持っていたカフェラテをテーブルに叩きつけた。
「うん、蛇に鳥の羽を持つあのヤクルスだね。デザート何か頼む?葛九。」
「いや、大丈夫や。それとデザートは奢るからスルーしないで詳しくヤクルスについて話せや。」
とんっと優しく肩に手を置かれたはずなのになんで圧を感じるのかな。ちょっと怖いよ、葛九。
「ハ、ハイ。あ、店員さん。これください。」
メニュー表を片手に、ハリネズミパフェと表記された部分を指差す。ハリネズミパフェ、可愛いし美味しそう。チョコのホイップで表現された針部分、バニラのアイスで表現している体、そして鼻と口部分はビスケットで目は麦チョコ。絶対に美味しいよね。
「はい、期間限定のハリネズミパフェですね。しばらくお待ちください。」
「へぇー、いつの間にそんなもんが出とったん……、」
葛九がメニュー表を手に取り、内容を見た瞬間ごんっと頭をテーブルにぶつけていた。なんならその衝撃か少し涙が出ている。
「高い……なんちゅう高いもん頼んでるんや。ウチ、最近金欠なんや……。」
どうやら涙を浮かべていたのは痛みからではなくお金の問題だったみたい。顔面青くなってるし。
「えっと……ごめん。やっぱり僕が払おうか?」
「いや、払うって言った以上は払う。だから出さんくていい。」
そう僕の提案を頭をふって断る。それからパフェを食べながらヤクルスはもちろんのこと、他の生物についての考察や可愛さを語り合った。やっぱり、同じ趣味の友達はいいものだね。新しい発見もあるし。楽しい。
「そういえば、葛九。何か新しい新種とかの生物の情報知らない?」
「そんなの知っとったらもう既にウチが研究内容として使ってるに決まってるやろ。」
「そうだよね〜。」
やっぱりいないか……。地上の生物、全部調べ尽くしちゃったのかな。最近だと、人間がDNAや品種改良の副産物といったのしか調べれる対象がいないしな〜。新種を見つけたっていうニュースが流れたかと思えばもう既に僕が調べ尽くした生物なことが多いし。
「……だったら、南極とか北極の地下深くに凍っとる絶滅生物を調べたらええんとちゃう?」
ああ、そっか。でもなー……、
「それって南極とか北極の氷を削るってことでしょ?流石にほとんどの生物が滅ぶ可能性があることはしたくないかな。」
凍ってる氷の中から現代の生物にとって対処すらできないウイルスやら細菌が出たら困るし。それに僕、空間系苦手だから氷割らずに絶滅生物の遺体なんて出せないし。葛九も最初はきょとんとしていたが、直ぐに細菌の可能性に思い当たったのか、納得した表情を見せた。
「確かに、それは厄介やな。まさしくパンドラの箱みたいなもんやしな。」
これからどうしようか、僕の趣味に打開策はあるのか頭を悩ませ、ふと外を見ると天使が丁度空を飛んでいた。天使か……。天使は基本的神に使える種族で、天界に住んでいる。神に課された仕事をずっとこなしてるイメージしかない。ワーカホリックってわけではないとは思うんだけど。後、悪魔以外の生物とかにはとにかく優しいイメージがあるね。僕たち悪魔に対してはどうなのかといえば殺意を抱かれるほど敵対視はしてるってのは聞いた事がある。なんでも昔に悪魔の中で上位の悪魔たちが天界までに乗り込んで、多くの天使や神様に喧嘩をふって大きな被害を出したらしい。それが原因で戦争から約千何百年もたった今も敵対関係らしい。だから当然のごとく悪魔は天界立ち入り禁止なんだって。天界……どんなとこなんだろう。やっぱり雲が床になってるのかな。他にも見た事ない生物とか……、生物?そうだ……そうだよ!!まだ僕が行ってない場所があったじゃん!!
僕は飛び跳ねるように椅子から立ち上がる。
「ん?ニュウ、どうしたん?」
「ごめん、ちょっといい考えが思いついたから、消えないうちに行ってくる。相談、ありがとう。」
「ああ、またいつものか。またな〜ニュウ。」
そう言って葛九は手を振ってくれるけど、それには目もくれず店を出る。すぐに空を見上げ、空高く飛ぶ天使を見つける。
いた!!周囲の人たち、そして天使にバレないよう気配を極限にまで消す。その際、人間として化けていた術を解き、元の悪魔の姿へと戻る。気配を消すときは元の姿の方が精度が高いからね。天使の後を気づかれないように飛んでついて行く。考えずについていっちゃったけどこの天使、天界に向かってるのかな?まあ、しばらくついてったらいつか天界につくか。
幸いにもこの天使は天界に帰る天使だったようで、突然止まり何かを呟いたかと思えば、空間がぱかりと割れ、大きな金属柵でできた門が現れた。その脇には門番と思われる槍を持った天使が配備されている。お、おお〜!!ここが天界の入口か。なるほど、空間をカラクリ箱(難易度ナイトメア)のように複雑化してなおかつ隠蔽してるのか。確かにこれなら入るのに時間がかかるし、これ少しでも間違えれば罠にかかる仕様になってるから余程の火力の持ち主か技術力の持ち主じゃないと解けないってことね。まあ、僕はついてくだけでいいから関係ないけど。
天使に引っ付くようについて行き、僕が目の前に見えているはずの場所にいるにもかかわらず門番の天使たちには全く気付かれずに天界へ入る。すると割れていた空間は元に戻り、門も閉じてしまった。閉じちゃった……。帰るときどうしよう。……他の天使について行けばいいか。
天界は僕が想像していた通りに雲が地面になっており、降りてみれば低反発マットみたいにふにふにしている。地面から違うなんて……さすが天界と言うべきなのかよく分からない。
門近くは天使の出入りが多いことが原因なのか生物は一匹たりとも見つからない。なので天使が少ないであろう方向へと向かう。魔界と違い、空全てが光源となっているようで光が降り注いでいる。かといって眩しいわけでもなく、逆に心地よい優しい光が点っている。夜とかあるのかな。魔界みたいになかったりするのかな。
結構奥まで進んで行くと、色とりどりの花畑が広がっている場所に辿り着いた。地面はなぜか所々大きな穴が空いており、落ちないよう慎重に覗くと青い空と海が見えた。え、これ落ちたら地上に真っ逆さま……?うん、落ちないように気をつけよう。
花畑を進んで行くと白いふわふわのモスにシャボン玉がついたような生物がぷかぷかと浮かんでいた。やっぱり、天界にもまだ僕が見た事ない生物がいたんだ。手帳を取り出し、そのモスの絵を描いていく。それにしても、羽がないのはシャボン玉みたいなのがくっついてるからかな?羽が退化して代わりにシャボン玉みたいのができたとか。もしくは羽がシャボン玉に進化したのか。どっちなのかが気になるね。シャボン玉の中は何で満たされてるのかな?よくあるのがラクダみたいにコブに水が溜まってたりする貯蓄タイプだけど、表面上は何も無いように見えるね。だとすれば魔力とかが溜まってるのかな。よく"見て"みるか。……え゛。浄化混じりの魔力がいっぱい溜まってるんだけど!?悪魔の僕が割ったら最悪"死"じゃん。……シャボン玉の強度もわからないし、触れないように気をつけよう。
それにしても今まで見てきたモスの中でもこの子たちは何となく脱力してるように見えるけど、天界ではこれがデフォなのかな。シャボン玉に身を任せるにしてもそんなに脱力してたら容易に食べられそうだけど。ドードーみたいに天敵がいないくて警戒心がないタイプなのかな。それが原因でドードーは絶滅してたけど。
そんなことを思っているとモスがついていないシャボン玉が僕の目線に入った。不思議に思い、シャボン玉が流れてきた方向を見ると、まるで夜空のような色合いをしたバクのような生物がシャボン玉を鼻から生み出していた。その周りにはモスたちがぷかぷか浮いて漂っていた。バクをよく見るために近づき、バクの絵を手帳に描いていく。あのシャボン玉、モスについてたのと一緒だよね。中の浄化混じりの魔力も一緒だし……。なんならバクが生み出したシャボン玉の方が濃度が高い。っあ……。
バクが口を開けたかと思えば長い舌を出し、ぷかぷか浮いているモスをむしゃむしゃ食べ始めた。あれ?天敵がいないからあんなに脱力してるって思ってたけど違う?
その謎に頭を捻らせているとまるでクリスタルのように大きく透明な羽を持ったモスがこちらにやって来た。するとバクがシャボン玉を出し、そのシャボン玉はモスにくっついた。モスはシャボン玉を離そうど羽を動かしもがいているが、それが余計にシャボン玉の中に入り込むこととなっている。シャボン玉に入っていった羽はシュワシュワ音をたてながら無くなっていき、最終的に僕が初めて見たシャボン玉のモスと全く同じ姿になった。また、どうにか抜け出そうと足を動かしていたが段々動きが緩やかになり脱力するようになった。その際、シャボン玉の中にある浄化混じりの魔力を見ると濃度が薄くなっていた。これ……もしかしてバクが食べやすいようにシャボン玉にモスがくっつきやすいようにして。尚且つ、抵抗を無くすために羽を無くし麻薬みたいな快楽物質ならぬ浄化混じりの魔力を取り込ませることでヤクやってる人みたいな状態にするってこと?多分、バク自身の動くスピードが遅いんだろうからそういう風に進化したんだろうけど……。天界でも生物は色々と物騒なんだね。
そんな風に天界での残酷さに打ちひがれていると、下から大きな気配が猛スピードで上に上がってくるのを感知した。幸い、上ってくる場所は僕がいる場所よりも少し離れているため待ってみる。すると、突然花畑の一部の地面から先端が尖った大きく長い魚がボガンと音を立てて空へ飛んで行った。魚自体は水色のメッシュが入った純白の魚で龍と言われてもおかしくないほど綺麗だった。すごい綺麗。というか、もしかして花畑にポツポツある大きい穴ってこの魚が原因?そりゃあ天使もここに寄り付かないわけだ。だって気づかず歩いてたら下からくる魚に激突するか、その魚が開けた穴に踏み外して落っこちるもんね。
魚を見るために上を見上げていたのがいけなかったのだろう。突然、ドンっと肩がぶつかった感覚をしたかと思えば前にすっ転んでしまった。いった……。何にぶつかった?
「ん?なんだ?何かにぶつかったと思ったのだが。」
そんな女性の声がして勢いよくそちらに頭を向ける。するとそこには白髪に海のような瞳を持った天使がそこにいた。……綺麗。透き通るような長髪、光の当たり具合で色の濃さが変化する水色のような青のような瞳。そして天界にはないような黒い軍服。けれどその全てが彼女という天使には綺麗だと僕は思った。……っは!何を考えてる、僕!!僕の力でこちらから触れなければ見えなくなってるとはいえ、今すぐここから離れないと。ただでさえ何も無い所でぶつかったことで違和感持たれてるのに、天界に悪魔がいたってばれたらどうなることか。
突然の天使にパニックっていたのがいけなかった。逃げようとして、足がもつれ丁度近くにあった穴に落っこちてしまった。やばい!!どうにかしようとすぐさまに"何か"を掴んだ。た、助かった……。登ろうと上を見上げるとそこには先程の天使がこちらを見下ろしていた。しかも、僕が掴んだ"何か"はその天使の足首だったようで……。
「っあ……。」
終わった……。多分、いや絶対今の僕の表情を鏡で写して見たら真っ青になってることだろう。それぐらい僕は命の危機を今ものすごく感じている。そんな僕に何を思ったのかは知らないが、天使は僕の首根っこを掴み上げた。そして、目の前の天使と同じ目線にまで持ち上げた。
「あの……えっと……その、勝手に入って、ごめんなさい。」
とりあえず謝った。だって、悪いことしてるのこっちだし……。しかし、目の前の天使はなんの反応も示さずこちらをじーっと見ている。あの……せめて何か反応を……。そんなことを思っていると大きな気配がこちらにやってきたかと思えば、金髪に黒のメッシュを入れた男性の天使が空からやってきた。
「よっ、ルドロ。何持ってんの〜?また部下いじめてたりしてんのか?」
「いじめてなどいない。」
「え〜?話は君の部下ちゃんから聞いてるよ〜?こーんなかわい子ちゃんをこんな……風に……持っちゃって……。」
チャラそうな天使が僕を見ると一瞬固まったかと思えば、驚いた表情をして叫んだ。
「あ、悪魔がマジモンの悪魔持ってるんだけどー!?え?ルドロちゃん?どゆとこ?」
困惑した様子でチャラそうな天使はルドロと呼ばれた天使に疑問を問いていた。
「ここで悪魔を見つけて拾っただけだ。それとちゃん付けするな。」
「へぇー、なるほどなるほどここで悪魔を……。ここで!?」
一瞬納得したような表情を見せたかと思えば、その内容を噛み砕けたのか顔を驚愕の表情へと変える。
「ああ、そうだ。」
チャラい天使はものすごく反応してくれるけど、ルドロって呼ばれてる天使はものすごく無表情で淡々としてて温度差がすごいよね。
「うわわわわ、やばいやばいやばい!!」
慌てた様子でチャラい天使はどこからかメガホンを取り出したかと思えばめっちゃ大きな声で叫び始めた。
「 緊急伝令!緊急伝令!!天界にて悪魔の発見&捕獲!!最上位天使は議会の間に集合!!繰り返す、 緊急伝令!緊急伝令!!天界にて悪魔の発見&捕獲!!最上位天使は議会の間に集合!!」
……やばい。このチャラい天使、もしかして伝令の天使ガブリエル?だとしたら今の内容、全天使に知れ渡ったってことだよね。……死ぬのはいやだな、まだ心残りとかあるのに。……サメさんに、もう一度会いたいのに。
「で、悪魔ちゃんはなんで天界に来たのかな?」
ガブリエルはこちらに向き直り、顔を覗きながらにこりとした表情で問いかけてくる。答えようとするもガブリエルの声で遮られる。
「来た理由次第では死んでもらうから、ね?」
声と表情は明るいはずなのに、僕を見る目と声色が鋭く冷たい感じがする。その殺意が僕の心臓を酷く高鳴らせ、冷や汗を滴らせる。正直言って、怖い。今までずっと平和主義で、趣味に没頭してた僕にとっては自分に殺意が向けられることが少なかったから。悪魔同士でも向けるのは殺意じゃなくて愉悦かちょっとした怒り。その果てに殺してしまったって場合が多いから。どの悪魔も本気で殺意を滾らせることなんて滅多にない。でも目の前の天使は本気で今にでも手が出てもおかしくないほどの殺意を浴びさせてくる。いつまで僕はこの殺意を受け止めていればいいんだろう。いっそのこと早く僕をその議会の間に連れていって欲しいぐらい。
「おい、流石にやりすぎだガブリエル。この悪魔を議会の間にさっさと連れていく必要があるだろう。」
その願いが叶ったのだろう。ルドロという天使が僕に向けられる殺意に終止符を打ってくれた。
「はいはい、わかったよルドロちゃん。にしてもルドロちゃんなら止めないでくれたと思うんだけど、どういう心境の変化?」
「お前の殺意を浴びながら飛ぶのはうざいというだけだ。それともなんだ?殺意を向けれないよう
夢身喰い?何かの生物の種族名なんだろうけど……。
「いやそれ俺の頭をアッパラパーなお花畑にしようとしてない?流石にごめんだから……じゃっ、先行ってるね〜。」
そうしてガブリエルは空へ飛んで行った。そしてルドロは僕を持ちやすいようにか、お姫様抱っこをし、飛び上がった。ってお姫様抱っこ!?え?普通、こういうのって縄とかで縛って抱えるとか俵担ぎするとかじゃないの!?しかもなんか落ち着くし!!
「えっと……なんでお姫様抱っこ?」
「ん?なんだ、落ち着かないのか?」
「あ、いや……そういうわけじゃなくて……。普通、こういうのって縄で縛ったりとかするんじゃないのかなって。」
ルドロは納得したような表情を見せ、
「なに、こっちの方が対処しやすいだけだ。お前は着くまでじっとしていればいい。」
と答え、優しい笑みを浮かべた。あの……その笑みはどういうことですかー!!
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