第7話 ミステリとハートフル⑤
ここがルリタが泊まっていた宿か。
三階建ての簡素な建物が渡り廊下で2棟繋がっているつくりで、これまでこの世界に来てから見てきた建物と同じように窓はどこにも見当たらない。
ここまで大きな建物でも窓がないというのは、この世界に慣れてきた俺でもさすがに気持ち悪さを感じざるを得なかった。
入口らしき正面の扉を開けると、目の前のカウンターの向こうに白髪の老婆が座っているのが目に入る。
あの人がルリタが言っていた宿のオーナーだろうか。
「すみません。オーナーさんですか?」
俺が話しかけると、老婆は顔を上げて俺を訝しげに見つめる。
「なんだい。ここに泊まりたいのなら13歳以上だって証明できるものを出しな」
「あ、いや、宿泊客ではなくて、ちょっとお話を伺えないかと……」
「話? 私も暇じゃないんだ。手短に頼むよ」
少し気難しそうな印象を受けるが、話は聞いてくれそうだ。
「先日、この宿に泊まっていた男が警備隊に連れていかれたと聞いたんですけど、それについて何か知っていることがあれば教えてほしいなと思いまして」
俺が話を持ち出すと、オーナーは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに俺を訝しむ顔に戻る。
「その話がどうかしたのかい。あの男は妹と一緒にここに泊まっていたはずだけど、いつの間にか妹もいなくなってたんだ。
もしかして、兄妹が払ってない分の宿泊料を払いに来てくれたのかい」
ルリタは俺とあった日に勝手に宿を出てきたんだな。
「えっと、それはもちろん払わせてもらいます。
でも、俺が聞きたいのはそうじゃなくて、男を連れて行った警備隊に何か変なところがなかったかなんですけど」
「そうなのかい。あんたはあの兄妹の知り合いなんだね」
「まあ、そんなところです……」
兄とも妹とも知り合いでは、あるよな。
「おにいちゃん、なんかこのおばちゃん怖くない?」
宿に入ってからずっと黙っていたエリーが俺だけに届くような声で聞いてくる。
「確かに、人当たりはあんまりよくないな」
でも、聞いたことは教えてくれそうだし、まるっきり性格が悪いっていう訳でもなさそうだぞ。
人当たりはよくないけど。
「聞こえてるよ」
「「す、すみません!」」
少し気まずい空気が流れる。
「それで? 警備隊がどうかしたかって、そんなの警備隊に直接聞けばいいじゃないか」
「その、どうやらここに来た警備隊は本物じゃなかったらしくて、収容所にもあの時連れていかれた男がいなかったんです」
「本物の警備隊じゃない? どういうことだい」
「俺もよくわかってなくて、だからその現場を目撃したオーナーに話を聞きたいんです。ちょっとした事でもいいので教えていただけませんか?」
オーナーはそこで黙って考えるように上を見上げる。
正直、オーナーが何もヒントを持っていなくても、それはしょうがないだろう。
警備隊が突然押しかけて冷静でいることは難しいだろうし、その時の記憶があやふやというのは十分考えられることだ。
「そういえば、あの男を馬車に乗せた後、収容所とは逆の方向に向かってたね」
そう言うとオーナーは右を指さす。
「あっちにまっすぐ行って突き当りを右に曲がったら収容所が見えるだろう?
でも、あのときは、記憶が正しいなら、ここを出て左側に向かったはずだよ。 こんな老人の言うことを信じるか疑うかはあんた次第だけどね」
「いやいや、そんな疑うだなんて……」
この情報は、とりあえずは信じるしかないな。
他の人にも聞き込みをして本当かどうかを確かめる必要はあるが、何でもかんでも疑っていては話が進まない。
「ここに来たときに、奴らは警備隊を名乗っていたんですか?」
「そうに決まってるだろう。警備隊の恰好した男たちが警備隊だと名乗ったから私は部屋に入れたんだ。どこのだれか分からない奴らをただで通す程、私はボケてはいないからね」
「それはそうですよね」
やっぱり、人当たりが……。
「やっぱり人当たりがよくないって思ってる顔だね」
「そんなことないですっ!」
やけに鋭いな。
さっきもエリーにしか聞こえないくらいの声で話してたはずなのに反応してきたし。
「他にも何か気づいたことはありませんでしたか?」
「もうないよ」
「だったら、オーナーさん以外の目撃者の方にも話を聞きたいんですけど、誰か知らないですかね」
「まだ、ここにいるつもりかい。まあ、あの兄妹の部屋の隣に泊まっている若い男は、あの騒動のときに覗きに来てたから何か聞けるかもしれないね」
♦謝謝♦
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不器用者、天職に就く? 長短冊 @korotto3
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