第6話 ミステリとハートフル④

「これが可愛くていいんじゃないかな?」


 エリーが黄色い花を手に取って、俺に見せてくる。

 その花の見た目ははバラに似ていたが、茎に棘は見当たらず、こういった微妙な違和感からも異世界を感じる。

 

 それにしても、黄色は太陽のように明るいエリーによく似合うな。


「それもいいかもな。何種類か選んで花束にしてもらうか」

「うん!」


 ルリタからサングラス男を探してほしいという話を聞いて、とりあえずルリタを俺の家で預かることに決めた。

 エリーはルリタと一緒に過ごせることが嬉しそうだったし、母も俺が事情を話すと、使っていない父の部屋を使えばいいとあっさり了解してくれた。

 

「じゃあ、これとこれを2本ずつと、あとはこの青いやつ1本をまとめて花束にしてください」

「おにいちゃんお金足りる?」

 

 エリーが俺を心配そうに見上げてくる。

 

「そんなことお前が気にすることじゃない。それに、俺はもう働いてるんだぞ」


 実際、新聞配達で稼いだお金はこれまであまり使ってこなかったため、花を買うくらいは何も問題はなかった。

 

「ルリタ、喜んでくれるかな?」

「お前が渡せばきっと喜ぶよ」


 ルリタに話を聞いた翌日、つまりは今日だが、俺はさっそくサングラス男がどこにいるかの手がかりを探しに出かけることにした。

 まずは、ルリタが泊まっていた宿のオーナーに話を聞こうと思い、ルリタに宿の場所だけ教えてもらった。

 ルリタは、いつ気を失ってしまうか分からないので、俺が行って済む用事のときは家に残ってもらうことにしている。


 エリーには家でルリタの話し相手になってもらうつもりだったが、俺が出かけるときにどうしてもついて行きたいと言ったので、仕方なく一緒に行くことにした。

 

 家を出るとすぐにエリーが「おにいちゃん、ルリタにお花をプレゼントしよう」と提案してきた。

 ルリタは今すぐにでもサングラス男(エリーはそう呼んでいないが)を探しに行きたいのに、家からなかなか出られなくてもどかしいと思うから、部屋にお花を飾って少しでも気を楽にしてくれればというエリーの気遣いだそうだ。

 そんなことを考えてもいなかった俺は少し恥ずかしくなった。


「エリーは先に帰っておくか?」


 俺がそう言うと、エリーは首を横に振る。


「おにいちゃんが買ってくれたんだから、一緒に渡さないと」


 俺は気遣いのできない最低男なのに、一緒に渡そうなんて言ってくれるのか。


「エリーは本当に太陽かもしれないな」

「なにそれ?」

「そのままの意味だよ」


 * * * * * *


 花屋を出ると、切り株になった街路樹と道路の向かいにある目的地の宿が目に入る。

 花屋に行くとなったときについでに切り株も見れると思っていたが、実際に見ても当たり前にただの切り株でしかなく、特にサングラス男を探す手掛かりにはならなそうだった。


 街路樹が切り倒されたことについて花屋の店員にも聞いてみたが、その時間は店はやっていないので、ということで情報は得られなかった。

 新聞にあったサングラス男を目撃したという人物に話を聞くことができれば何か分かることがあるかもしれないから、今度探してみてもいいかもしれない。


 この街路樹の件については、いまだに俺はルリタに話すべきかを判断しかねていた。

 このことがサングラス男の失踪に関係あるかもしれないという疑念は、宿と花屋が道路の向かいに位置していることでより深まっていたが、兄が悪いことをするはずがないと信じている彼女にこのことを伝えるのに気後れしていた。




 ♦感謝(謝罪)♦

 いつも読んでくれてありがとうございます!

 今回は少し短くなっています。

 申し訳ありません<(_ _)>

 それでもコメントや☆をつけてくれると嬉しいです!


 


 

 

 

 

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