第4話 ミステリとハートフル②

 長い銀髪が目立つ、おとなしそうな見た目の少女が、俺の前で目を潤ませている。


「どうしたんだ、まずは落ち着いて」


 俺がそう言うと、少女は必死にこらえていたであろう涙が止まらなくなってしまったようで、下を向いて大声で泣き出してしまった。


「おにいさまが、おにいさまがぁ……」

「ほら、まずは深呼吸しよう」

「おにいさまがぁ……」

「はい、吸ってー、吐いてー」

「おにいさまぁ……」


 全く泣き止む様子がない。

 こんなときにどうすればいいのかが、兄弟どころか年下の親戚すらいない俺には分からなかった。


「うぅ……」

 

 周りは相変わらずの静寂で、少女の泣き声は暗闇の町に吸い込まれる。

 こんな時間に面識のない新聞配達員に助けを求めるということは、彼女の言う「おにいさま」に相当ひどいことが起こっているのだろう。

 そんなことを俺がどうにかできるだろうか。

 とにかくまずは話してもらわないことにはどうしようもない。


「少しは落ち着いてきたか?」


 俺の問いに少女は首を縦に振って答える。

 目は真っ赤に腫れているが、気持ちは静まってきたようだった。


「す、すみませんでした。急に泣き始めてしまって」


 彼女は申し訳ないと頭を下げる。


「大丈夫。それより君のお兄さんに何があったのか話してくれるか?」

「はい。おにいさまが連れていかれて――」


 そこで突然、目から生気が抜けたかと思うと、少女は倒れた。


 * * * * * *


 水に濡らしたタオルと麦茶を注いだグラスをお盆にのせ、自分の部屋に向かう。

 ドアを開けるとベッドに横になっている少女が目に入る。


 まだ、起きる様子はないな。


 突然体勢を崩した少女を何とか抱え込み、気を失っていることを確認したため、とりあえず家に連れていくことにした。

 残りの新聞は彼女を寝かせた後に急いで配らなければならないな。

 そう思いながら、前にバックパック、背中に少女を抱えて家に向かった。


 タオルを少女の額にのせる。

 彼女に熱があるという訳ではなかったが、気を失った人間に対してあまりに何をしていいのかが分からなかったがための行動だった。

 彼女は無表情で、何かにうなされたり苦しそうな様子は全くない。


 このまま安静にしておくのがよさそうだな。


 グラスを机に置き、部屋を出る。

 今のうちに残りの新聞を配ってしまおう。

 俺が戻ってくるころには目を覚ましているかもしれない。


 * * * * * *


 目を覚ますと、丸太の天井とパジャマ姿の少女の姿が目に飛び込んでくる。


 きれいな栗色の髪をした自分とそう変わらない年の少女。


 彼女は心配そうに、そして不安そうにこちらを覗いていた。


 * * * * * *


 急いで配達を終わらせ、家に戻る。

 玄関の扉を開けると、少女を寝かした奥の部屋から話し声が聞こえる。

 

 「エリー、おはよう。起きるの早かったな」


 話し声の正体は、エリーと目を覚ました少女のものだったらしい。

 二人は俺のベッドに腰かけて楽しそうに話していた。

 出会って間もないはずの二人の間には和気あいあいとした雰囲気が流れている。

 やはり年が近いと話が合うのだろう。


 エリーと話して、心も落ち着いている今なら、何があったかを詳しく話してくれるかもしれないな。


「おはよう、おにいちゃん。ルリタ、好きな子できたことないらしいよ」

「もうそんなところまで行ってるのかよ」


 まあ、女子の会話の主成分は恋バナだもんな。


「ルリタっていうのか」

「はい、ルリタ・ケナコルトと申します」


 お辞儀。

 出会ってすぐのときにも少し感じていたが、礼儀正しい少女だ。


「俺のことはアルって呼んでくれ」

「アルさまですね」


 様づけは礼儀正しすぎるな。


「エリーはちょっと居間で待っててくれるか? 俺はルリタと大事な話をしなくちゃいけないんだ」

「うん! ルリタまたね!」


 エリーが手を振って部屋を出ていくのを見たルリタが、不思議な顔をして俺のほうを見ている。


「どうかしたか?」

「いえ、エリーさんは本当に素直でいい妹さんなのだろうなと」


 お前も同じくらいの年齢だろ!


「じゃあ、話してくれ」

「はい」


 ルリタは真剣な顔で何があったのかを話し始める。


「今回、私がアルさまに助けを求めたのは、おにいさまがアルさまのことを話していたからです」

「俺のことを?」

「はい、新聞配達中に突然話しかけたおにいさまに新聞を読ませてくれたと」

「新聞を……」

「はい」

「もしかして、あのサングラス男か?」

「サングラス男?」

「なんでもない。続けてくれ」


 そうだ、あいつは普段サングラスしてないんだった。

 でも、確実にあいつのことを言っているに違いない。

 あの男がこんな礼儀正しい少女の兄だということが信じられないが、彼女が嘘をつく理由もないし、そうなのだろう。


「おにいさまと私はこの町で生まれたわけではありません。おにいさまの職業は行商人で、私と売り物をリヤカーに載せて、様々な街を訪れていました」


 そのリヤカーを街路樹を運ぶのに使ったのか。


「行商人といっても国をまたぐほどの長距離の移動をするわけではなく、この国の大きな街を回っています」

「この町は、そこまで大きいとは思えないけど……」


 これは異世界転生してから新聞配達員として働くうちに感じていたことだった。


「私たちもこの町を訪れるつもりはありませんでした。でも、私が移動中にゴナバに足を噛まれたせいで、この町に寄り道せざるを得なくなってしまったのです」




♦感動♦

ここまで読んでくれて感謝!

読み続けてくれたりコメントとかしてくれるとうれしいです!



 


 




 






 


 


 


 

 

 

 









 

 

 



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