第25話:中枢神経系⑤
――日が昇る一刻前。
オウカは森の中にいた。
静寂を闇が包み込む。
森の奥にある断層の前に、オウカはいた。
右手には、削りたての鉛筆の様な──全長15センチ程の棒手裏剣が握られている。
視線の50メートル程先には、十重二十重に重なるミルフィーユの様な硬い地層。
――風で、木の葉が舞っている。
-ヒュオッ-
右腕を振った。
棒手裏剣は一直線に飛んでいき、空中の木の葉を貫通。
そのまま50メートル先の断層に音もなく突き刺さる。
左手の手甲から、次の棒手裏剣を取り出し――右腕を振る。
2枚目の木の葉を貫通し、断層に突き刺さる2本目の棒手裏剣。
3枚目、4枚目、5枚目の木の葉が舞う。
3本目、4本目、5本目の棒手裏剣が飛び、貫通し、断層に突き刺さる。
――次に、この国の侍が使う ”日ノ国刀”――の模擬刀を手に取る。
ずしっ、と その本物の日ノ国刀と同等の重量が伝わってくる。
その重量は、侍が命よりも大事にするという武士道の重さを象徴しているようにも思えた。
――オウカの目の前に、オウカがイメージで創り出した ”仮想の敵” が現れた。
オウカは左手で模擬刀を納めた鞘を持ち、右手を刀の柄の部分に構える。
居合の構え。
……刀身の重さを鞘ごしに左手に預ける。
――柄を持つ右手を前方に飛ばすと同時に、鞘を持つ左手を後ろに引き、刀身は一瞬で鞘から放たれる。
刀身が鞘から解放されると同時に、右手の小指を引く。
結果、刀身は自らの重量で前方に勢いよく飛んでいく――
-スアッ-
常人には到底反応できない速さの斬撃。
周りの木々が、風圧で少し揺れた。
――仮想の敵は、オウカの居合術を紙一重で躱し、ガラ空きとなったオウカの左半身めがけて 右斜め上から――刃を振り下ろす!
同時にオウカは、刀を持つ右手を引く。
同時に、オウカの身体は刀の重量に導かれる様に前進していく。
日ノ国刀に引っ張られる推進力を利用して、刀の右側へと身体を移動させる。
敵の袈裟斬りを、ギリギリで躱したオウカ――は!
右手に持った刀の重心を、敵がいる方向へ――前へと倒す。
すると、刀身は自らの重量で 勝手に前へと進んでいく。
その前進に付いていくように進むオウカの右腕と全身。
切っ先が、敵の喉元を貫いた。
――刺突。
敵は、音もなく、砂埃を舞わせる事もなく、倒れていく。
日ノ国刀の重みを利用して、武術の足運び――”運足” で、自分の身体を自由自在に操る訓練だ。
オウカは、右手に握った日ノ国刀に目線を落とす。
シーナ国で訓練された太極剣や倭刀によるシーナ剣術は、まるで舞っているかの様な――柔軟性を活かした変幻自在の動きが印象的だ。
対して、日ノ国剣術は直線的で――動きが極端に少ない印象だ。
シーナ剣術に比較すると、柔軟性など感じられない様に見える。
――しかし、重厚な重みを感じる日ノ国刀を扱うには、身体全体の動きを一致させて力を出すことが必要だ。
それには、鍛え抜かれた柔軟性が不可欠。
身体の柔軟性・体幹、加えて自身の体重移動から生まれるパワーを日ノ国刀に込める。
日ノ国刀を持つ右手の微細な操作で、そのパワーは倍加していく――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます