第21話:中枢神経系①

早朝。


──国衛隊の訓練開始の3時間前。


「44……45……」


オウカは、右の拳を床に突き立てて体を上下させている。


片手での拳立て。


この鍛錬法は、単純な腕力を上げるだけではなく、全身の筋肉を連動させる技術の向上も期待される。


結果、強力な拳撃を可能にする。




──訓練開始2時間前。


「スゥー……ハッ……」


片手での15kgの棒の素振り。


この鍛錬法は、剣を使うときに剣自体の重みを利用して、素早い体移動を可能にする。


二刀流という戦術も可能だ。




──訓練開始1時間前。


「……」


目を閉じて片足で立っている。


オウカの足を支えるのは、地面……ではなく、丈夫な”鞠”(まり。球体)


身体のバランス感覚を極限まで研ぎ澄ます訓練。




――訓練開始45分前。


もう少し鍛錬できそうだ。


オウカは、シーナ武術で使われる刀剣・”太極剣” ……の模擬刀を手に取る。


模擬刀を鞘から抜くと、真っ直ぐに伸びた刀身が姿を現す。


薄く軽く、しなやかな刀身だ。




シーナ武術の筆頭に挙げられる太極拳――の動きをそのまま拡張するかのように、オウカは太極剣を扱う。


連続的で円運動・流れるような動き――


シーナ国軍で修行させられた格闘術――の鍛錬法だ。




――訓練開始30分前。


オウカが玄関をドアを開けると、眼下に朝日に照らされた街が広がる。


丘の上にある一軒家の寮から、エレナとの待ち合わせ場所である 自然公園まで走り出した。






――国衛隊基地・鍛錬場。


-チャッ-


日ノ国刀を持つ。


居合の構え。


「それじゃ、投げるよー」


テニスボールが投げられ、宙を舞う。




――日ノ国刀は、太極剣に比べて、2倍は重い。


腕力で振るのではなく、刀を ”身体の延長” と見なし一体化するイメージが より重要になる。


-スゥッ-


抜刀と共に、斬る。


テニスボールが上下に綺麗に分かれ、地面に落ちる。




「――オウカ、めっちゃ筋が良いな」


”侍族” である女教官が口を開く。


意図的に遅く動いて、剣術鍛錬をしていたオウカ。


遅く動くことで、自分の身体の内部の骨格や筋繊維の流れを感じ取り、より精度の高い身体操作を目指せる――と同時に、強さを悟られない為でもある。


その身体操作を、褒めてもらえたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る