第13話:最終目的②


お互いが視界に入る陣形――円形に広がる8名の隊員たち。


――12秒経過


エレナの視界。


左斜め前6メートル先にいる男の頭上に、赤マーカーが浮かび上がった。


-ダンッ-


地面を蹴る音を響かせ、女性の隊員がエレナに接近する。


同時に、エレナは女性の方に身体を回転させ、女性と正対した。


――女性は一旦静止、腰を高くアップライトに構え直した。


前に出した左脚でフェイントを掛けながら、じわじわ、と間合いを詰めていく。


パンチがギリギリで届かない間合いだ。




――女性の上半身が右回転を始めた。


その直後、上半身の回転力を左脚に移行――その左脚が跳ね上がった。


-ブンッ-


風を切る音と共に、その左脚はエレナの胴体に一直線に向かっていく。


――エレナは、女性の上半身が回転を始めると ほぼ同時に、前に踏み込んでいた。


-トッ-


踏み込みで遠心力を殺された蹴りが、エレナの右前腕に防御され気の抜けた衝突音を発した。


女性の左回し蹴りは失敗。


――したのではない!


誘い込まれた。


エレナの踏み込みに呼応するかの様に、相手は左拳をエレナの顔面に撃ち――。




-バシィィ!-


左拳が、相手の顔面――厳密には、相手の付けたヘッドギア、を撃ち抜く音が響く。


相手は仰向けに倒れ、赤マーカーが消滅。


その光景を立ちながら見下ろすのは――


女性の左拳を躱し、同じく左拳でのカウンターを決めた、エレナ。




――エレナの組手を見ていたオウカ。


エレナの表情は、普段の ふにゃっ とした印象と違い、真剣そのものだった。




他の隊員たちが闘う音が響く。


そして――再び、エレナの組手が始まる。


右の真横、4メートル先にいる男に、赤マーカーが表示された様だ。


男は、ゆっくりとエレナの方を向く……と同時に、エレナに向かって歩き出す。


エレナも、ほぼ同時に 男に向かって歩き出す。




男は、右脚をやや大きく前に出しながら、左腕にパンチの予備動作――


フェイント。


右手がエレナの襟元を掴んだ。


と 同時に右足が地面に着き、背負い投げに移行する


「せあっ!」




――オウカは、エレナの動きの一部始終を見ていた。


男が背負い投げに移行するために体を左半転させる動きに逆らわず、自ら そちらに動き始めるエレナ。


いつの間にか、その左手は 男の右手首を柔らかく掴み――


加えて、エレナの右手は 相手の右肘の内側に そっと添えられていた。


同時に、相手に全体重を預けるかの様に、エレナの身体は左回転しながら――前のめりに地面へと倒れていく。




不意に――ずしん、と右半身のみの重力が数倍に跳ね上がった……。


そんな錯覚が、男を襲った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る