第7話:神国破壊⑦


――長い黒髪の女性。


その美しい顔に、まるで お花畑にいるかのような表情を浮かべて、独り言をつぶやいている。


……独り言が、徐々に早まっていく。


それに呼応するかの様に、目線・顔の角度は上がっていく。


やや上の虚空を仰いでいると突如、独り言が止んだ。


同時に顔は元の角度に……いや、やや俯き加減になり、真顔になった。




――中肉中背のツイストパーマの少年。


彼は、(赤マーカーが表示されたであろう)短髪の男と睨み合い、長袖に包まれた両腕をダラッと垂らし 間合いをジリジリと詰めていく。


あと一歩、いや半歩踏み込めば手が届きそうな距離。




――少年は、左斜め前の方向、


試験官の1人がいる方をチラッと見て、視線を再び睨み合いに戻す。


――が!


突如 試験官の1人がいる方を再び視線を戻し、必死の形相で声を響かせる。


「え?……なんで この人に向けて そんな危険なモノを!」


反射的に、短髪の男の頭部と上半身が、同じ方向(本人から見て右斜め後ろ)に向けて回転し始める。


――少年の右脚が、弧を描きながら短髪の男の頭部へと飛んでいく。




死角から頭部への回し蹴りを食らい、崩れ落ちる短髪の男。


――その光景を見ていたオウカ。


ほう、応用パターンとして ”相手を守るフリして接近、攻撃” というのも ありえるな。


今の状況に当てはめると、


”相手をかばうように、左手を突き出して接近➜右拳で殴る”


…という戦術も可能。


まあ、相手が術中にハマったふりをしていたら、盛大にカウンターを食らうリスクもあるわけだが。




――その状況を見ていたのは、オウカだけではない。


他の受験生も同様に見ていた。


そして、試験官たちは何も言わない。


正当な戦術と判断したようだ。




――直後、オウカの視界に2つの赤マーカーが表示された。


加えて、1つの緑マーカー。


つまり、”2名vs2名”


緑マーカー つまり味方は、先ほどオウカと戦い地面とハグした大柄の男。


赤線マーカー2つ つまり敵2名は、長い黒髪の女性 と ぽっちゃり体型の男。


大柄の男は、ぽっちゃり体型の男に向かって間合いを詰めつつ、顔面に向けて右の拳を放つ――




――その様子を目の端で捉えつつ、


両目を見開きながら鬼気迫る表情で、一直線に5メートルの距離を突進してくる女を迎え撃つべく体勢を変えるオウカ。


-ゴッ-


後ろから、大柄の男が放った拳撃 および それを食らった相手が 奏でる、鈍い音。


それを認識しつつ、オウカは女の体勢が急激に高度を下げていくのを認識。


狙いは、タックル――いや右腕の筋肉に力みが生じていく。


女の体勢は、タックルの高度を維持したまま、左へ旋回する飛行機のように左に傾いていく。


-ブンッ-


左に傾く女からオウカの顔面に向けて繰り出されたのは、充分に体重を乗せて ぶん回す右のフックパンチ。


同時に、左手はオウカの腰に伸びていく――


ふむ、一歩踏み込んでガラ空きの顔面にカウンターをブチ込む――いや、ギリギリで躱してみよう。


-フォッ-


右のフックが空を切る――同時に、オウカの腰には 女の左手があった。


刹那、空を切った右の拳は開かれ――その五指はオウカの右肩を ぐっ、と掴む。


ほう、そうくるか――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る