創作ノートー完結した自作小説について、制作過程で使ったメモや「仕様書」を公開します
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創作メモ『あなたにこの味を教えてあげるー無味の食卓で微笑む令嬢と「一口目」の姫』
先ごろ完結した
『あなたにこの味を教えてあげるー無味の食卓で微笑む令嬢と「一口目」の姫』
https://kakuyomu.jp/works/822139837276700553
の創作メモです。
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1、最初の着想
最初の着想は、
「モノ」(とそれを扱う行為)を介して関係を表す
というものでした。
これは他のだと
・『乾くまで、あなたに触れない』(古書とその修復)
https://kakuyomu.jp/my/works/822139836785251820
・『ミツバチのささやき(El espíritu de la colmena)』(蜜蜂とその世話)
https://kakuyomu.jp/my/works/822139836752313290
にも共通するものです。
ここでは、《食べ物と調理》をモチーフに。
《食べ物を介して、対照的な二人の関係》
が発想のスタート点になりました。
いろんな対照関係が考えられるわけですが、今回はシンプルに
・食べられない人ー食べられるようにする人
という関係を採用しました。
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最初の発想カードはこんな感じです。
(登場人物)味覚障害と料理女子
1.精神的な味覚障害のお嬢様セレブ女子
2.作るの大好き、食べるのもっと好きな食物学科の女子
ここからキャラクター設定を掘り下げて行きました。
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2、キャラクター設定
### 🌹 **1, 精神的な味覚障害を持つお嬢様セレブ女子**
* 名前:姫宮 綾乃(ひめみや あやの)
* 年齢:19歳
* 外見:
* 透き通るような白い肌と長い艶やかな黒髪。
* 優雅な佇まいと凛とした目元が印象的。
* 常に上質な服装と香水を身にまとい、所作は完璧なまでに洗練されている。
* 性格・特徴:
* 生まれつき裕福で不自由ない生活を送ってきたため、何にでも退屈を感じがち。
* 精神的ストレスから味覚障害を抱え、何を食べても無味に感じる。
* 食事を楽しめないことを悟られないよう、完璧に演技をしている。
* 本当に心を許した相手にのみ弱さを見せるタイプ。
### 🌸 **2, 料理を作るのも食べるのも大好きな食物学科女子**
* 名前:春風 奈月(はるかぜ なつき)
* 年齢:19歳
* 外見:
* 明るくショートカットの茶髪で、元気いっぱいな笑顔が魅力的。
* 健康的で活動的なイメージのファッション。清潔感と親しみやすさを併せ持つ。
* 性格・特徴:
* 好奇心旺盛で前向き、常に美味しいものを求めて探求心にあふれている。
* 食品開発や料理の研究に情熱を注ぎ、味覚が非常に鋭敏。
* 自作の料理を人に振る舞うことに喜びを感じ、人の喜ぶ顔を見るのが至福。
* 綾乃の味覚障害に気づき、それを克服させたいと願うようになる。
### 🌷 **二人の関係性と百合要素**
* 奈月は、綾乃が自分の料理を食べてもどこか満足していないことにいち早く気づき、気になり始める。
* 奈月は綾乃の抱える問題を知り、彼女の味覚を取り戻そうと試行錯誤を重ねる。
* 綾乃は最初こそ奈月の行動を迷惑に感じるが、次第に奈月の純粋な優しさや真摯な努力に惹かれていく。
* 食を通して二人の距離が徐々に縮まり、料理を介した深い精神的つながりが恋愛感情へと昇華されていく。
### 💗 **濃厚な百合ポイント**
* 綾乃が生まれて初めて奈月の料理に微かな味を感じた瞬間に、心を強く揺さぶられる。
* 奈月が綾乃に料理を教えるシーンで、後ろから手を添えて味見を促すなど、甘やかで親密な描写。
* 綾乃が「味覚を失っても、あなたの想いは感じられる」と告白し、二人だけの特別な関係性を築く。
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3、設計の掘り下げ
この2人の設定を、物語設計・心理・象徴・演出面まで掘り下げて考察して行きます。
ここには全体のストーリー構成や文中シーンに使われたモチーフがほとんど出てきます(使わなかったもの、出てこないものも、もちろんあります)。
# 二人の核テーマ
* **「味=感情のメタファー」**:綾乃の“無味”は、抑圧・孤独・演技の習慣化の結果。奈月の“旺盛な食欲”は、世界への肯定と関係欲求の表象。
* **回復ではなく変容**:味覚が100%戻ることがゴールではなく、「無味の世界に意味と色が差す」ことが到達点。
* **ケアと合意**:一方的な“治療”ではなく、ケアの受け渡し・合意形成が愛へ昇華していく過程。
# 心理プロファイルの掘り下げ
## 姫宮綾乃(精神的な味覚障害)
* **適応戦略**:完璧な所作=“社会的味付け”。外的評価で味の不在を隠す仮面。
* **トリガー**:他者の期待・格式ばった会食・「正解の反応」を求められる場面がストレス源。
* **欲求**:「演出しなくても愛されたい」「何かを“美味しい”と感じる自分を取り戻したい」。
* **脆弱性**:快/不快の自己内評価が鈍っており、選好を語る語彙が欠落しがち(“なんでもいい”と言いがち)。
## 春風奈月(作るのも食べるのも大好き)
* **駆動力**:フィードバック中毒になりやすい(喜ばれることで自己効力感)。
* **危険域**:他者の問題を“料理の腕”で解決しようとするメサイア化。綾乃のコンディションに過干渉のリスク。
* **成熟課題**:「食べさせる」から「ともに味わう」へのパラダイム転換。沈黙・逡巡の価値を学ぶ。
# 関係ダイナミクス(段階設計)
1. **礼儀の味(偽の協和)**
* 綾乃は“おいしい”と正解反応、奈月は微細な違和感を感知。
* カメラは銀器の冷光・白皿の空虚を強調。音は控えめ(カトラリーの乾いた音)。
2. **否認と露見(最初の衝突)**
* 奈月の「本当に、味わってる?」で綻び。綾乃は「無作法よ」と反発。
* テーマ:誠実さと体面の衝突。ここで“無味”の事実はまだ言葉にならない。
3. **共同実験期(境界の試作)**
* 味・温度・食感を変数に、極小ポーションの反復試作。
* 綾乃の内観を引き出すため、“言語化の訓練”を導入(例:3語だけで感想/連想色を言う)。
* 同意の確認を台詞に明示:「今日は休む/続ける」を綾乃が決める。
4. **微かな味の瞬間(転回点)**
* 風味の“輪郭だけ”がふっと立つ(完全回復ではない)。
* 何が効いたかは単一要因に還元しない:**安心・触覚・記憶・文脈**の総和として描く。
5. **再発と再編(第二の谷)**
* 名家ディナーやメディア露出で症状反動。奈月は“自分のせい”と自己嫌悪。
* ここで「治す関係」から「支え合う関係」へ言語転換する誓いの場面。
6. **新しい味覚=関係の定義(終幕)**
* “味がある時もない時も、一緒に食卓をつくる”という合意。
* クライマックスは大皿ではなく、小さな茶碗蒸し一つ/ほうじ茶一杯など**ささやかな儀式**で。
# 象徴とモチーフ設計
* **器と空白**:高級な白磁=空虚、手作りの欠け器=不完全の温度。
* **温度勾配**:熱々→ふうふう→ぬるむ、の時間が“関係の距離”に同調。
* **香りのレイヤー**:味覚が鈍くても届きやすい**香り**・**触感**を強調(柚子皮、山椒、焦がしバター、蒸気)。
* **食感の譜面**:カリ/とろ/しゃく/ぷる。音の記述で“味以外の記号”を増やす。
* **手**:後ろから手を添える調理指導=“借景の親密さ”。触覚ケアは合意のセリフで安全に描写。
# 倫理とケア(甘さの厚みを支える土台)
* **ラベリングの慎重さ**:綾乃の状態を“治す対象”ではなく、経験として描く。
* **合意の可視化**:触れる前・食べさせる前に短い同意確認(反復描写)。
* **境界線**:奈月は“今日は料理しない”提案もできる人物へ成長。休むことを関係の一部に。
# 劇的装置(シーンの具体アイデア)
* **目隠しテイスティング**:視覚ノイズを遮断し、香りと温度の差だけで“輪郭”を探す。
* **音だけの晩餐**:暗闇の学食で、音(湯気、煮立つ音、箸が器を叩く)を主役に。
* **雨と柚子**:雨の日、濡れた袖の冷たさ→温かい湯気と柚子のトップノートで“世界が動く”瞬間。
* **家族との対峙**:格式食卓で奈月が“正解のリアクション”を拒否し、静かにスープを冷ます時間を確保する。
* **二人の台所の誓い**:吊り棚に二人だけの器を一つずつ掛け、使うたびに少しずつ艶が増す。
# 料理設計(実在感と演出)
* **初期**:味輪郭が立ちやすい単香・単調理
* 例:出汁の利いた**卵豆腐**、**塩むすび**、**白身魚の椀**。
* **中盤**:香りの二段仕込み
* 例:**焦がしバター+レモン**のホットケーキ端切れ、**炙り〆鯖**の香り演出。
* **転回**:記憶の鍵
* 例:幼少期の**ミルク粥**の再現(器・スプーンの素材まで再現)。
* **終盤**:共同制作
* 例:二人で包む**水餃子**(成形の不揃い=関係の個性)。茹で上がりの“ふくらむ感”を触覚で描写。
# 言語表現の工夫
* **官能を“舌以外”で書く**:温度差、重量、湿度、香りの立ち上がり速度、口内の“影”。
* **語彙の回復をドラマ化**:綾乃が“おいしい”以外の語を獲得していく(「丸い」「遠い」「鈍い光」→「ほどける」「追いかけてくる」)。
* **対話のリズム**:奈月の短文・平叙、綾乃の敬体・間。関係が近づくほど文体差が溶ける。
# ストーリー構造(短編〜中篇)
* **短編**:一夜の雨→茶碗蒸し→微かな味→黙って手を重ねる。
* **連作**:季節の献立4篇(春の香り、夏の音、秋の温度、冬の光)。
* **中篇**:学祭出店を通じて“外の目”と対峙し、二人の作法を社会に接続。
# リスクとアンチパターン
* 「料理で治してあげる」一方向の救済物語化/医療の矮小化。
* 味覚回復=恋の成就の単純連動(回復が揺らいでも関係は揺らがない構図を)。
* 上流階級表象の記号消費(肩書きより「時間の使い方」「沈黙の教育」を描く)。
# ラストイメージ(濃厚だが静かな余韻)
* 冬の朝、湯気の立つ台所。二人は同じマグを両手で包み、
綾乃「…今朝は、少し、甘い香り」
奈月「砂糖、入れてないよ」
綾乃「うん。たぶん、あなたの声」
——“味が戻った”ではなく、“世界があたたかい”で閉じる。
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