うつ病の女好き、男を好きになる
ぴよぴよ
第1話 男を好きになってしまった
少年の話をしようと思う。
なぜやろうと思ったのかと言うと、単純に好意が溢れ過ぎてどうにかなりそうだからだ。
別に恋とか狂信とかそういうわけではない。
ただ癒され過ぎて可愛過ぎて、とにかく好きすぎるからだ。恋ではない。
友人として好きなだけだ。
私は女の子が好きだ。女の子はみんな天使だと思ってるし、女の子は生きているだけで価値があると思っている。柔らかくて温かくて可愛い。
しかしそんな私が心を男に奪われる時が来てしまった。
まずお前の心を奪う少年とは一体どんなやつなのか。そこからだ。
第一印象は、「とっつきやすい子だなぁ、きっと人に可愛がられるだろうなという感じだった」
特にイケメンではない。
見目麗しい美女が大好きな私は、少年など全く寵愛の対象にしていなかった。
少年は純朴で穏やかな子だった。
落ち着いていて、悪くいえば平々凡々とした面白みのないやつだった。
何故か陰気な私を彼は気に入り、寮にいた頃、私の部屋に入り浸ったこともあった。
何でこいつは私なんか気に入っているのかと思った。でも私も彼のことは嫌いじゃなかったので、そばに置いていた。
そのうち、私たちは何度も会うようになった。お互いの部屋を行き来し、毎回バカ笑いした。私には兄弟がいないが、兄弟がいればこんな感じだろう。そう思わせてくれた。
しかし純朴で穏やかな彼が、私みたいな性格が悪くて、頭がおかしい人間といつまでも一緒にいるのは大変よろしくない。
寮から出た頃だった。
私は彼と物理的距離が開いた瞬間に連絡を経った。
今で言う、人間関係リセット症候群が発症した時だった。
きっと彼なら人望もあるし、こんなくだらない人間より、仲良くできる人がいるに違いない。彼の友人の中で最下層にいた私は、縁を切る決意を固めたのである。
非情なもので、別に縁を切る選択に一切の躊躇はなかった。しかし人間関係の煩わしさから解放されるという安堵感があった。
きっと彼は私がいなくても、普通で優秀で、楽しい仲間と楽しい日常を送るに違いない。
しかし彼と縁をほぼ切り倒して、数年経った時、突然少年は連絡をとってきた。
「は?なんで」と思ったが、連絡を見た以上、優しい彼を傷つけると思い、私は適当に返事をした。彼は私がさっさと縁を切りたいと思っているのを悟ったのだろう。
会話を終わらせようとしている時だった。
「俺のことなんだと思ってるの?」と怒られた。
まさか怒られると思っていなかったので、私はちょっと驚いた。私みたいな変人の陰気野郎がいなくなっても困らないだろう。十分人に恵まれているやつだ。
それにこれまで私に連絡を断たれて、困った奴なんて一人もいない。
この少年は、わざわざ連絡を寄越してきて、お説教までしてくる。
こんなやついなかった。
そこで私は、ちょっとこの状況に興味を持ってしまった。そこまでして私を追いかける人間がいなかったからだ。私を追う人間はどんなやつか観察してやろうと思った。
そこで私は、少年と常に連絡が取れる用のSNSを交換したのである。
この時はまさか底のない沼の中に無音で引き摺り込まれているとは思ってなかった。
きっと少年の陰謀に違いない。この私がここまで絆されるとは、あってはならない。
私は一人が好きだった。煩わしい人間関係とか無駄なストレスを好まなかった。一人でのんびりと思考を巡らせたり、自分の成長のために時間を使うのが好きだった。他人は資料として必要だが、生活に必要ない。
だから深い関係の友人が欲しいとか、ましてや恋人が欲しいなんて、ついぞ考えたことはなかった。
できたら面白いだろうなと思ってはいるが、どこまでも興味本位であって、相手にのめり込むことがない。
つまり孤独な人間だった。そして孤独が嫌なわけじゃないし、一人こそ至高だと思っていた。
しかし孤独な人間は標的にされることがある。それを予防するために、私は人間の前では努めて明るく振る舞った。芸人のようなこともした。
本当に人に心を開くことはなかったが、楽しく明るい盛り上げ要員になった。
そうやって生きるべきだと思っていた。
そんな私がである。とうとう一人、お気に入りの人間を見つけてしまった。
私のような人間が、人にのめり込むとどうなるか。
そんなのイカれるに決まってる。
人を好きになると何にも見えなくなるから不思議だ。恋愛的なものでなくとも、好きになったら永遠にそればかり考えてしまう。
細かい妄想を重ねて、一人で不気味に笑い、一人で赤くなったり青くなったりしている。
側から見れば不気味なことこの上ないが、こういう下らない時間が幸せでしょうがなかった。
そうだ、私は女の子が好きだった。
彼と好みの女性の話をしたこともあった。寮の部屋の中で、成人向けの動画を見せあい、どれがいいか、これはどうだなどと話したものである。
この時の私は、まさか彼に恋愛感情を持っているなど、自分でも気づいていなかった。
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