レジは?
神在月ユウ
レジは?
三十代半ばの母親と未就学児の女の子が、スーパーの中を歩いている。
総菜売り場の前だ。
「ほら、どれにするの?」
「……う~ん……」
「早くっ」
「ん、これ」
母親の手には598円のお弁当が二つ、さっとカゴの中に入れた。
それからビールを一つ、チョコスナックを一つ、カゴに入れた。
親子は清算所に向かう。
このスーパーはセルフレジと有人レジがあり、セルフレジは十台、有人レジは二レーンある。ほとんどの買い物客がセルフレジを使用しており、有人レジはたまにしか使われないせいか、店員は一人しかいなかった。
迷わずにセルフレジに向かう。
「お母さん、あっちは?」
「こっちでいいの」
女の子は有人レジを指さすが、母親は構わずセルフレジに向かう。
母親は手際よくさっと商品バーコードを読ませる。
その際、弁当の一つは指でさっとバーコードを隠し、読み込ませたフリをする。
万引きだ。
もし捕まっても「ちゃんと会計した」と言い張り、商品と会計が一致しないと追及されれば「もしかしたらうまく読み込めなかったのかも」などと言えばいいと、母親は考えていた。
極端に金に困っているわけではない。
ただ、安いに越したことはない。知恵が働くと言ってほしい。
こんな、万引きされても文句を言えないような仕組みを用意しているスーパーにも責任がある。
そんなことを、この母親は思っていた。
「ねぇお母さん、レジは?」
再度、女の子が母親の袖を引いた。
周囲の買い物客が、女の子と母親に注目し始める。
(このバカ、アタシが捕まったらどうなるかわかってんのかよ)
母親は娘に、心の中で毒を吐く。
「いいから、済んだから」
「でも、お金……」
「うるさい、来なさいっ」
母親は女の子の腕を引っ張り、強引にスーパーから連れ出した。
女の子は名残惜しそうに、店員のいる有人レジを振り返った。
(なんでだろう)
女の子はお母さんの取った行動に首を傾げました。
(なんで、お母さんはあんな――)
お弁当を盗んだお母さんの行動に、納得がいきません。
(自分でやるレジじゃ、お金取れないのに)
キャッシュレス専用の、セルフレジを使ったお母さんについて考えていました。
(人がいるレジなら、お金が入ってるのに。店員さんがレジを開いてるときに、お金をごそっとつかめばいいのに。そうすれば、お弁当よりももっとすごいお金が手に入るのに。店員さんがこわいのかな?でも、レジのおばあちゃんはわたしのおばあちゃんよりももっとおばあちゃんだし、体も細いから、がつん、て殴っちゃえば、簡単じゃないかな?きっとよわっちいよ?)
そんなことを考えていました。
(おうちに帰ったら、お母さんに教えてあげようっと)
女の子はニコニコしながらお母さんと帰っていきました。
~おしまい~
レジは? 神在月ユウ @Atlas36
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