悪役令嬢の妹に転生したけど、お姉様が可愛すぎて救いたい!

海月くらげ

第1話 赤ちゃん転生ってマジ?

 目が覚めたら赤ちゃんだった、なんてファンタジーだけだと思ってたのに・・・。


 電車待ちの時間潰しに、お気に入りのスマホ乙女ゲーム、『恋する令嬢は秘密を抱いて』。略して恋ひみを開いた。

 侯爵家令嬢であるヒロインが、学園に入学して、攻略対象と出会って恋愛していく、王道ストーリーである。

 そんな恋ひみをしてたら、後ろから押され、ゆっくりと線路に落ちていく。

 手で押されたわけじゃない。体全体で倒される感じである。

 全部がスローになって見えた。死んじゃうんだっていう確信と絶望が脳裏に浮かんでくる。

 後ろが一瞬見えた。そこには、男子中学生が絶望している顔があった。

 (ああ、これ、ふざけてて当たっちゃっただけか)

 なんだか一瞬で冷静になってしまい、手を伸ばす男子中学生を見て、怒りすら湧いてこなかった。

 線路が近づき、足元が浮く。視界の端で光る、電車のライト。

 その後、強い衝撃を受け、目の前が暗くなった。痛みも、苦しみも・・・何もなかった。

 そう、私は死んだはず・・・だったのだが。

 (なんで赤ちゃん?てかここどこ?日本、じゃなさそうだし。中世ヨーロッパ風?かな?)

 私はゆっくり周りを見渡す。

 日本じゃなさそうなこと以外、特に不思議に思うことはない所だった。部屋は広く、シャンデリアが柔らかく光を落としている。

 厚いカーテンと薔薇の香りが漂う、いかにも貴族の屋敷って感じ。

 (転生したら赤ちゃん。ファンタジーだな・・・いっその事恋ひみのヒロインとかがよかったな〜)

 そんな事を思う私の前に、顔が現れる。

 顔を覗かせたのは、ピンクのストレートロングの髪に、淡い緑、所謂いわゆるミントグリーンの瞳の女の子だった。

 その子は私を見ると、怒っているような顔をする。

 怒られている理由がわからず、私は困惑するしか無かった。

 怒っていた候補としては人見知り説、泣くから身構えている説、私に混乱している説、機嫌が悪い説の四つである。

 (あれ?この子って・・・悪役令嬢!リリアーヌ・ヒルメス!)

 目の前にいた女の子はリリアーヌ・ヒルメス。恋ひみのどのルートでも、必ず悪役令嬢となる人だ。

 見た目は三歳くらいであることから、私はすぐに三歳下の妹に転生したとわかる。

 (最悪だ。悪役令嬢の妹で、あの破滅しちゃう家門の娘?ありえない!)

 ヒルメス公爵家は、リリアーヌが処刑される前日、全員で謀反を起こし、そして全員亡き者になり、家門も潰れる。

 そんな家門に転生したと知った私は泣きわめいた。その様子にリリアーヌは戸惑い、そして逃げ出した。

 私はすぐに来た、乳母らしき人にあやされる。

 (これからどうしたら・・・とりあえず、初対面で怒ってた理由とかただ不機嫌だからじゃん!絶対にそうだよ!関わらないでおこ)

 私はそう思いながら、乳母の腕の中で眠った。


 目を覚ますと、夜になっていた。

 起き上がってみようかな、と思い起き上がろうとしたけど、起き上がれず、せめて寝返りでもと思ったが、寝返りすらうてなかった。その事から、まだ生後数ヶ月なんだと実感させられた。

 (これからどうしたら・・・)

 私は寝返りをうとうと手足をバタつかせてみる。それでも寝返りはうてなかった。

 寝返りがうてず、起き上がれない体が、自分のものじゃないみたいで少しの恐怖を覚える。

 こんな状態で、破滅の運命をどうしたらいいというのか、赤ちゃんだから頭が上手く働かなくなり、いい案が浮かばなかった。

 (関係改善なんてもう無理だよ!初対面なのに怒ってたんだもん!)

 私は今後を思い不安に苛まれる。赤子なのですぐに涙が出そうになるが、私は何とか我慢しながら、布団を握り、とりあえず寝ようと目を瞑ってみた。

 目を瞑っても中々寝れなくて、瞑ったまま時間だけが過ぎていった時、足音がこちらに近づいてきていた。そして部屋の扉が開く。

 (え、こんな時間に誰!怖い)

 私は怖くなり、さらに目に力を入れて瞑った。

 (リリアーヌがいじめに来た?逃げられないのに!嘘でしょ?)

 私は薄ら目を開いて見てみる。そこにはリリアーヌではなく、男の人がいた。

 顔が上手く見えず、不安に思っていると、月明かりに照らされ、顔が見える。その人物はリリアーヌと私の父親、シリル・ヒルメス公爵だった。

 公爵の顔は彫刻みたいに無表情で固く、近づくだけで震えそうな威圧感も放っていた。

 (なんで公爵が・・・公爵は家族を顧みない、仕事人間なはず)

 私は思考をめぐらせて、有り得る可能性を導こうとした。そして一つだけ想像ができる。

 (まさか私を殴ったりする気!やだやだやだ!)

 私は公爵になにをされるのかわからず、体に力が入り、息をすることさえ忘れて身構えていた。

 すると、公爵は優しい手つきで私の頭を撫でて、おでこにキスをしてきた。そのまま布団を掛け直し、また撫でてから出て行った。

 私は状況が上手くわからず、目を見開いて、唖然とするしかなかった。

 (ナデラレタ?キスサレタ?ナンデ?)

 私は考えてみるが、分からないことだらけで、頭がおかしくなりそうだった。

 赤ちゃんになって不安な時に、姉が悪役令嬢で、家が滅ぶ家門で、公爵がゲームではありえないような奇怪な行動をして、私の頭は追いついていなかった。

 シリル・ヒルメス公爵は、厳格で無表情。常に怒っているような人で、家族にすら愛情がないとあるルートで書かれていたはず。

 そんな、家族に愛情表現を一切しないはずの人が、なぜ私の頭を撫で、おでこにキスをしたのかが、本当にわからなかった。

 私はゲームとは違う要素があるのか、この世界がゲームに似た別の世界なのか、全て分からず、混乱と不安しかないまま、赤ちゃんの眠気に勝てず眠った。

 ただ、公爵の手の温もりだけが、どうしても忘れられなかった。

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2025年12月13日 00:00

悪役令嬢の妹に転生したけど、お姉様が可愛すぎて救いたい! 海月くらげ @kurage1201

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