ジョーカーとスペードの3
生徒会に入るというイレギュラーはあったが、上手く事が進み丸く収まった。
「どうぞ三葉君、お茶よ。淹れたてだから火傷に気を付けて」
「わざわざすみません」
なのになぜ俺はまたわざわざお昼休みに生徒会室に呼び出されたのだろう。しかもお弁当を持って。
「金城会長、わざわざまた呼び出してどうしたんですか?俺が生徒会に入ったならそれで一件落着なんじゃないんですか?」
「ええ、あなたが入ってくれて一件落着よ。安心して、別にいきなりこき使おうって話じゃないから」
「本当ですか?いまいち信用できないんですが」
この人は自分のためなら手段を選ばない印象が強い。実際その術中にハマり俺も生徒会に入ることになったわけだが。
「前に生徒会の仕事は忙しくないときは週一程の頻度って話したの覚えてる?」
「勿論覚えてますよ。あぁ、その仕事の日を教えてくれるんですか?まさか早速忙しくなるとかですか?」
「そのことなんだけど三葉君。貴方、来なくていいわ」
これから沢山生徒会の仕事が雑務が始まり、仕事を頼まれると考えていた。しかし実際に金城会長から言われた言葉は俺が考えていたことの180°逆であった。
「なんですか、入って早々クビですか」
「そんなわけないでしょ」
「じゃあ何でですか?少なくとも受験勉強とかで忙しい3年生の先輩方よりは暇があると思うんですが。難しい作業なら別ですけど事務作業くらいなら出来ますよ」
「別にあなたの能力を疑ってるわけでもないわ」
そう言うと金城会長は自分の前に置いていたお茶をひとすすりする。俺もその後に続きひとすすりする。何茶かは分からないが、とても上品な味がする。これは入れ方なのだろうか、それとも値段なのだろうか。どちらにしろ普通ではない。
「私の考えでは貴方は大小問わず何でもそつなくこなすし、初対面でも人と協力して期待以上の成果を残すタイプ」
「なら尚更良いじゃないですか」
「だけどそれと同時にでも相手の事を気にかけすぎて自分の体調を疎かにするタイプでもある」
「自分の体調くらいしっかりと管理できますよ」
「でも0ではない。もし私が絶対に力を借りたい時に ダウンしていた場合それじゃあ困るわ。大富豪でいきなりジョーカーは使わないでしょ?ここぞって時に取っておくのが定石よ。あとどうやら目立ちたくないみたいだからこの方があなたにとってもプラスでしょ」
自分の体調を疎かにするという部分はあまりピンとこないがここ数日だけの会話で俺がこれ以上言っても無駄だという事は理解できている。この会長自身が手伝わなくても大丈夫というのなら恐らく大丈夫なのだろう。
俺は一つ先輩との話で気になることがありそれについて質問してみる。
「会長、質問なんですが、さっきの話で俺を大富豪のジョーカーに例えましたが、もし相手にスペードの3がいたらどうするんですか?」
何てことのない例え話に何となく質問してしまった。失敗した、やめておけばよかった。
「そこは大丈夫よ。スペードの3も手札にあるから」
「そう…なんですか?なら分かりました」
「話は分かりました。では会長から話があるまで俺は休ませてもらうことにします」
「ええそうして。協力してほしい時はしっかりとお願いするから」
話が終わり俺と会長両方がお弁当袋を広げ始める。うわ!なんだあの弁当。美味そうは美味そうなんだけど一学校に持ってくるレベルじゃないだろ。なんだ、蛍光灯でも入っているのか、輝いて見える。
「どうしたの、そんな顔して」
「いえ…ただおいしそうだなって思って」
「一口食べる?」
「こんな高級そうなもの良いんですか?」
「別にいいわよ、自分で作った物だし」
「え!これ自分で作ったんですか!?」
「料理は嫌いじゃないわ、ハッキリ言って趣味ね。凝った料理、珍しい料理だって作ったりするわ」
「凄いですね。それじゃあこの卵焼き失礼します」
自分の箸で会長の弁当箱に入った卵焼きを摘み口に運ぶ。美味い!ただ卵を溶いて焼いただけじゃない、出汁が入れられている。学生の手作りお弁当レベルじゃない。
「ものすごく美味しいです!」
「それはよかった。作った甲斐があったわ」
「趣味とはいえここまで上手に作れるなんて…先輩がここまで料理好きになった理由は何ですか?」
楽しく理由を語ってくれると思った。しかし帰って来たのは少しため息をつくような、悩んでいるような反応だった。
「あなた、どんな料理でも美味しいって言って食べてくれる人のことどう思う?」
「え?素晴らしい人じゃないですか。ちゃんと食育が身についているなって思います」
「そう、素晴らしいのよ。じゃあ捉え方を変えて自信作、失敗作両方全く同じ反応で美味しいって言われたらどう思う?」
「あ~それは~」
確かにそれだと失敗作でも美味しいなら料理の腕が高いとも捉えられる。しかし自信作でも同じ反応なら料理のレベルが失敗作と変わらないのかという何とも形容しがたい気持ちになってしまう。なんでも美味いと言うなら尚更かもしれない。
「確かにそうなると意地でもいい反応をしてもらいたいですよね。という事は会長は誰かのために料理を頑張ってるって事なんですね」
「そうね。あいつも貴方ぐらいいい反応をくれれば良いのに。どうせ明日になったらいつも通り美味かったとか言って洗った弁当箱を渡されて終わりよ。実際心から美味しいとは思ってくれてるんだろうけど」
「お弁当って事はその人も天稟学園に通ってるんですね。良いじゃないですか、こんなおいしいご飯作ってきてもらえるなんてその人は幸せ者ですよ」
「だといいけど。何せどんな気持ちでいるのかは分かりやすいけど、何考えてるかは分かんない奴だから」
この会長を相手にして先輩にこのような感想を持たせるなんて、流石会長の知り合い。一筋縄じゃない。
「凄いですね。どんな人なんですか?」
「この生徒会の副会長よ。貴方も生徒会に入ったんだからその内話す機会が出来るわ」
「生徒会って有名ですけど副会長はあまり有名じゃないというか認知度が低いですよね、実際俺も誰か分かりませんし」
「滅多に副会長として出てこないから一年生は知らなくても無理ないわね」
生徒会副会長…まだお会いしたことは無いが話を聞く限りものすごい人なのだろう。いつ会えるかは分からないが、少しだけ会うのが楽しみだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「太陽ご飯喰おうぜ!」
「ああ、さっき体育だったから腹減ったな~」
俺は自分のカバンから綺麗な布に包まれた弁当箱を取り出し机に置き弁当を広げる。相変わらず一高校生の俺にはもったいない弁当だ。
「お、それ金城さんのだろ!その小さな卵焼きで良いから一個くれよ!」
「やだよ、お前だって自分の弁当あるだろ」
「弁当って言ったってコンビニ弁当だよ。だったら卵焼きと俺の弁当の具材と交換でどうだ?」
「無理」
「良いじゃねぇかよケチ。お前はいつでも食えるんだから」
「お前逆の立場だったら交換するか?しないだろ」
「ちぇ、いいな~俺も金城さんの手料理が食べてぇ」
「頼んだら作るぞあいつ」
「それが出来たら苦労しねぇよ。まぁいいや。そういえばよう太陽この後の数学で―――」
相変わらず美味いなこの弁当。日に日に上達している流石は美琴だ、もう完全に胃袋を掴まれている。
俺は弁当をしっかりと味わいながら昼休みを過ごした。
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