第55話 着陸、暗闇の再会


​陽菜が乗り込んだ偽装貨物機は、東城隼人の緻密な情報隠蔽のおかげで、制裁下の空域をかろうじて通過し、ナブア隣接地区から数マイル離れた、放棄された農地の臨時滑走路へと静かに着陸しました。夜の闇と砂塵が、彼女の存在を隠していました。


​機体が停止すると同時に、陽菜は急いで貨物室へ向かいました。彼女の心臓は、武装勢力に見つかるかもしれないという恐怖と、ようやく子どもたちの命綱を届けられるという希望で激しく脈打っていました。


​貨物機から降りた陽菜を待っていたのは、数台の簡素なトラックと、数人の屈強な地元民たち。そして、その先頭には、ひどく疲弊し、頬がこけたラシードの姿がありました。


​「ホシノ!なぜ……なぜお前が一人で来たんだ!」


​ラシードは驚きと安堵と、そして怒りが入り混じった表情で陽菜に駆け寄りました。彼は、陽菜の身勝手なまでの**「行動する勇気」**が、彼らの命を救う最後の手段になったことを理解していました。


​「制裁で止まった浄水システムを届けに来たわ、ラシード」


陽菜は息を切らしながら言いました。


「私の告発で皆を苦しめた。これは、私の倫理的な責任よ。子どもたちに安全な水を届ける。一刻も早く、浄水システムをムスタファ医師の元へ運ぶわ」


​ラシードはすぐに状況を把握し、冷静に指示を出しました。


「よし、急げ。この辺りは夜間パトロールが多い。東城のシステムのおかげで、俺たちの存在は今のところ知られていないが、ここからが最も危険な区間だ」


​彼らは、分解された**「希望の木箱」**をトラックに積み込み始めました。しかし、荷物を積み終える寸前、遠くの砂漠の方から、武装勢力の車両が近づくエンジン音が聞こえてきました。


​「見つかったのか?」


陽菜は冷や汗をかきながら尋ねました。


​「いや、違う。奴らは定期パトロールだ。だが、この滑走路を定期的にチェックしている。あと五分で奴らが来る!」


ラシードは焦りました。


​彼らは、急いで荷物を隠し、トラックのエンジンを始動させましたが、武装勢力の車両は予想よりも早く、光を点滅させながら滑走路の入り口に姿を現しました。


​陽菜は、ここで捕まれば、全ての努力が水泡に帰すだけでなく、ラシードたちにも危険が及ぶことを悟りました。彼女の孤高の覚悟は、最後の試練を迎えていました。


​「ラシード!私を置いて、すぐにシステムを運んで!」


陽菜は叫びました。


​「馬鹿を言うな!お前を見捨てるわけにはいかない!」


ラシードは拒否しました。


​武装勢力のヘッドライトが、彼らのトラックを照らし始めました。

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