第46話 捨てる食料の価値、命の投資へ
陽菜の、「フードロス削減分をFFDモデルの資金保証に充てる」という提案は、国際開発銀行(IDB)の総裁が築いた「資金の壁」を打ち破る、革新的な一撃となりました。この提案は、経済大国の倫理的責任と経済的合理性という、二つの弱点を同時に突いたからです。
IDB総裁は、陽菜の主張の論理的な強力さに顔色を変えましたが、依然として抵抗を試みました。
「星野顧問。あなたの提案は理念的だ。だが、フードロスの削減は各国の国内問題であり、それを国際的な開発資金の法的保証に充てるには、国際条約や法改正が必要だ。これは、数年、あるいは数十年の時間を要する。ナブアの子どもたちは、そんなに待てないだろう」
総裁は、**「国際的な制度の壁」**という、新たな巨大な壁を提示しました。
陽菜は、この官僚的な抵抗に対しても、東城隼人との綿密な準備に基づいた反撃に出ました。
「総裁。私は、数十年の国際条約の改正を待つつもりはありません」
陽菜は毅然と答えました。
「私たちは、**『共感の連鎖』**を通じて、それを実現します。東城さん」
東城隼人は、事前にIDBの規定を精査し、抜け穴を見つけていました。彼は立ち上がり、データを提示しました。
「IDBの現行規定では、**『目的が明確な国際的な慈善信託』からの資金は、審査委員会を通過することで、緊急資金として利用できる可能性があります。私たちは、世界中の良識ある市民、フードロス削減を真剣に考える企業、そして政府から、『フードロス削減分相当の金額を、未来の世代の教育と食料保障に充てる』という単一目的の『グローバル・フード・エシックス信託(GFET)』**を即座に立ち上げます」
東城は続けます。
「私たちは、この会議に参加している各国政府に対し、まず**『GFET』への倫理的参加を求めます。これは条約ではなく、行動する勇気を示すための、『人を思う前向きな心』による、国際的なコミットメントです。数億ドル規模の初期資金があれば、FFDモデルは直ちに実行可能**です」
陽菜は、会議室にいる全ての代表に、倫理的選択を迫りました。
「あなた方は、自国で捨てる食料の価値を、未来の子どもたちの教育と命に変える行動を選択できます。この信託に参加することは、自国のフードロスに対する倫理的責任を果たすことの、最も具体的な第一歩です。数十年後の条約を待つのか、今日の飢える子どもたちに手を差し伸べるのか。今、ここで、希望の連鎖を始めるかどうかを決めてください」
陽菜の提案は、官僚的な手続きを**「倫理的なコミットメント」**で飛び越える、極めて大胆かつ実現性の高い道筋を示しました。
この信託への参加は、各国にとって、国際的なイメージアップと倫理的責任の証明となるため、多くの国が賛同の意を示し始めました。
IDB総裁は、もはや制度的な壁を盾にすることはできず、陽菜の知恵と行動力に完敗を喫しました。彼は、陽菜のFFDモデルと、GFETの立ち上げを、IDBの新しい倫理規定として受け入れることを表明せざるを得ませんでした。
陽菜は、フードロスという先進国の闇を、世界の希望へと転換させるという、偉大な勝利を収めたのです。
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