​陽菜の「フード・フォーカス開発（FFD）」モデルの提言は、国際開発銀行（IDB）と多国籍企業のトップ層を動揺させた。彼らは、採掘権の放棄という前例のない要求を拒否するため、闇の勢力のロビイストが作成した偽の経済分析レポートを盾に、陽菜を攻撃した。

​IDBのチーフエコノミストが壇上に立った。

「星野氏の提言は、人道的感情に訴えるが、非現実的だ。このFFDモデルを採用すれば、地域の経済成長は停止し、雇用は創出されない。結果として、貧困は固定化されるだろう。私たちは、持続的な成長のために、短期的な効率を選ばざるを得ない」

​彼らが示した偽レポートは、FFDモデルが**「投資回収率ゼロ」で、「10年以内に破綻する」**と結論付けていた。

​陽菜は、東城隼人とアイコンタクトを取った。彼らは、この経済学的な攻撃が来ることを見越して、準備を進めていた。

​「チーフエコノミストの方。あなた方が示すのは、資源を掘り出すための経済学であり、命を育むための倫理が欠落しています」

陽菜は切り返した。

​陽菜は、スクリーンを切り替え、東城がナブア紛争地帯のデータを基に作成した**「真の経済分析レポート」**を投影した。

​東城隼人が冷静に説明を加えた。

「私たちは、ナブア紛争地帯のラシードたちのコミュニティでの実績に基づき、FFDモデルの経済効果を再評価しました。資源採掘は確かに短期的な利益を生みますが、その後に来る環境破壊、紛争再燃のリスク、そして医療格差と教育格差の拡大による人道的コストを考慮すると、持続的な負債となります。」

​東城は、詳細な数値を提示した。

​FFDモデルの真の投資回収率:

「教育と持続可能な農業技術への投資は、地域のフードロスを削減し、自給自足を可能にします。これにより、支援団体への依存度が低下し、15年間の総合的なコスト削減率は、採掘モデルを上回ります。」

​長期的な利益:

「子どもたちが教育を受けることで、将来的に高付加価値な産業に就く可能性が高まり、これが真の地域経済を成長させます。これは、**『知恵という資源』**への投資です。」

​陽菜は、再びマイクを握り締めた。

「あなた方の経済学は、食料を生産する土地の価値、子どもたちの未来の夢の価値、そして人を思う前向きな心の価値をゼロとして計算しています。だから、食料を捨てる開発が、正しいという結論になる。私たちの提言は、命の倫理を経済学に組み込むことです」

​陽菜の論理は、偽レポートの根拠を打ち砕き、会議の参加者、特に持続可能性を重視する若手エコノミストや途上国の代表から、圧倒的な支持を得た。

​闇の勢力は、最後の切り札である「偽の経済学」が、陽菜の現場の真実と知恵に敗れたことを悟り、焦燥の色を濃くした。

​しかし、この国際的な論戦の勝利は、陽菜が次に挑むべき、より巨大な権力構造との直接対決を予感させていた。