第17話 法廷という名の戦場


​陽菜は、東城隼人から提供された内部資料を手に、国際的な法務チームと連携し、故郷のNPOへの金融圧力を仕掛けるコンサルティングファームに対する訴訟準備を完了させた。東城の資料は、金融のプロである彼らが、いかに巧妙かつ合法的な手続きの抜け穴を使って、NPOの信用を毀損し、融資を停止させたかを克明に示していた。


​「彼らは、戦争や紛争地帯の貧困から利益を得るために、平和な国の善意まで標的にした。これは、単なる経済犯罪ではなく、倫理と人道に対する攻撃です」


陽菜は法務チームに強く訴えた。


​訴訟の提起は、国際的な金融界に大きな衝撃を与えた。表向き慈善活動にも積極的な大手のコンサルティングファームが、人道支援NPOを潰そうとしたというニュースは、陽菜の告発が単なる「グローバル・ハート」内部の問題ではないことを、改めて世界に知らしめた。


陽菜の**「叫び」**は、法廷という新たな戦場を得て、その響きを増した。


​その頃、「グローバル・ハート」本部では、陽菜が依頼したデータ分析の結果が、ついに提出された。過去の紛争地帯への支援物資の輸送データと、同時期の国際的な鉱物取引データの間には、明確かつ不自然な相関関係が示されていた。


​特に、支援物資が特定の輸送業者に渡された直後、武装勢力の支配地域から産出された紛争鉱物の取引量が急増しているというパターンが浮かび上がった。


これは、**「支援物資が、紛争鉱物の対価として闇取引に使われていた」**という、陽菜の仮説を裏付ける動かぬ証拠だった。


​バーネット統括は、この報告書を見て顔面蒼白になった。


「これは…これは組織の存続に関わる問題ではない。世界の安全保障に関わる問題だ」


​陽菜は、その報告書を手に、理事会を招集した。


​「私たちは、この世界の教育や医療格差を是正するために活動してきた。しかし、我々の善意が、世界の闇の構造に利用され、紛争を永続させる燃料になっていたことを、このデータは証明しています」


​陽菜は、もはや組織の顧問という立場を超え、世界の不正義に立ち向かう代弁者として、理事会に、この報告書を直ちに国際連合の関連機関と、不正取引を捜査する国際機関に提出するよう要求した。


​理事会の中には、なおも組織の保身を図ろうとする抵抗もあったが、陽菜が法廷闘争という外部の「光」まで武器にしたことで、彼らは逃げ場を失っていた。


​「沈黙は、この犯罪の共犯者になることです。私たちには、透明性と行動する勇気をもって、この闇を断ち切る責任があります」


​最終的に、理事会は陽菜の要求を全面的に受け入れた。報告書の公開と国際機関への提出が決定した。この瞬間、「グローバル・ハート」は、過去の汚点から解放され、真に倫理的な国際支援組織へと生まれ変わる第一歩を踏み出した。


​陽菜の戦いは、一つ目の組織という名の砦を攻略し、今、世界の金融と資源の闇へと、その矛先を向けていた。彼女の「叫び」は、法廷と国際機関を通じて、世界中の**「合法的な闇」**を震撼させることになる。

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