第21話 ジュアンの雪遊び
12月4日 午前9時40分
王国『パラティーヌ』
ドゥラーク公爵家・廊下にて
洗濯し終わった衣服を持って廊下を歩いているのは、黒髪の少年・ジュアン。
前を向き、背筋を伸ばして歩いていた彼だったが、窓ガラスに目がいってしまう。
窓から見える庭の景色は雪が積もっており、白銀の世界が広がっている。
雪が目に映ってしまったジュアンは、外に出たくてウズウズしていた。
(雪……!! 潜りたい……!!)
目に映る、遊び相手と言う名の雪。彼は幼い頃から雪と共に遊ぶのが大好きだった。
幼い頃は『離れ』から出ることが許させれず、窓から積もっていく雪を見ることしか出来なかった。
けれど、ルエムが魔法を扱えるようになったある冬の日、ジュアンは彼にあるおねだりをした。
『ルエム! 雪! 雪作って!!』
ジュアンのおねだりを聞いたルエムは、小さな円を作り、そこで魔法で雪を降らし始めた。
その場所が幼いジュアンにとって、雪で遊べる遊び場だった。
(でも……やることが終わってからだな……)
昔の記憶を思い返したジュアンは、今にも雪に潜りたいのを必死に押さえ、早歩きで廊下を去っていった。
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12月4日 午前9時50分
王国『パラティーヌ』
ドゥラーク公爵家・庭にて
目の前に広がる雪。手ぶらで尚且つ、薄手の長袖姿のジュアンは、顔からダイブしてたくてウズウズしていた。
(洗濯物も畳んだし、掃除だってした。もうやることはない! あとは……)
体に傷が出来ていないか、腕・胴・足の順番に見ていく。順番に見ていきながら、鼻で匂いも確認する。
「……よし。ケガも、アザもない。血の臭いもなし……」
確認し終わった瞬間、ジュアンは思い切り雪に頭からダイブした。
雪に埋もれた頭を勢いよく上げ、顔についている雪たちをブルブルとふるい落とす。
喉の奥から込み上げてくるのは、喜びの感情。彼は声を出したかった。
それは吠え声に近い、彼の本能的な歓喜の表現だ。しかし彼の口から飛び出たのは、微かな息だけだった。
「フッ!」
その短い息と共に、ジュアンは満面の笑みで笑った。
そして、彼は地面に積もった雪に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、二本足のまま雪を思い切り両手で掘り始めた。
ジュアンの身体全体が雪の冷たさと自由を、本能のままに楽しんでいる証拠だった。
掘るのに満足したのか。彼は立ち上がると、今度は両手を雪に埋め、まるで水面に飛び込むかのように雪の海に身体を投げ出した。
(もっと冷たい!)
彼は、雪の中で身体をゴロゴロと転がした。
薄手の長袖の袖から雪が入り込み、皮膚に冷たい感覚が走る。それがまたたまらなく心地良い。
遊びに夢中になったジュアンは、雪の上に体当たりする。体当たりした瞬間、白銀の粉が勢いよく舞い上がった。
ジュアンは、雪という最高の遊び相手に夢中になっており、その姿はまるで、楽しそうに犬が無心で芝生や雪の上を転がり回るような、純粋で無防備な喜びの姿だった。
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12月4日 午前10時15分
王国『パラティーヌ』
ドゥラーク公爵家・庭にて
満足いくまで雪の上を転がったのか、ジュアンは腹を下にし、雪の上で止まる。
そして、彼の口から「はっ……」と言う言葉が息と共にこぼれ落ちた。
腹をしたした状態で、雪の上で休んでいる彼の元に、ルエムがやってきた。
「ジュアン、満足したか?」
「ルエム!」
ルエムの声を聞いた途端、ガバッと起き上がり、ジュアンは満面の笑みで彼の方を見つめる。
起き上がったジュアンを見るなり、無表情だったルエムの顔に、心配の色が滲み出てきた。
「ルエム、鼻が赤くなってるな。指も青くなってきている……。早く、屋敷に戻って暖炉で暖まろう」
手を指し伸ばされたジュアンは、ルエムの手を握りしめ、二人は屋敷の方へと戻っていったのであった。
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