第二章
聖女様は奇才の子を寝かしつけたい
第19話 聖女様、部屋に床暖房を作る
12月4日 午前9時32分
王国『パラティーヌ』
ロスペン侯爵家・聖女の部屋にて。
お披露目会から一週間後、王国は『聖女フィーバー』から一転して、雪化粧に覆われていた。
「さっむ!」
そう言って身を縮ませるのは、パラティーヌ王国の若き聖女・シオンである。
「だ、暖炉付けているけど……この部屋、広くない!?」
彼女の叫びは部屋に響き渡り消えていく。
シオンの愚痴通り、聖女専用の部屋は広い。
白いレースが下がっている天蓋付きのキングサイズのベッド。勉強用や客人が来たとき用に使われる二人以上の白い椅子と幅が広い白の机。
極めつけは、部屋の広さだ。気軽に走りまれる程の広さを持っている部屋なのだ。
他にも大きな暖炉やクローゼット、本棚にティーポットなどが入った大きな戸棚などなど、他にもあるのだが…部屋が広すぎる。
(これ、暖炉の暖かさじゃダメだ……なんとかしないと……あっ)
抱えていた頭を上にあげるシオン。
「聖女の力でなんとかしよう!!」
そう思い立った彼女の行動は早かった。
素早く椅子から立ち上がり、辺りを見渡す。
「部屋の広さはこのぐらいだから……床暖房見たいな暖かさだと、部屋全体が暖かなるよね……」
シオンは、手を前で握り合わせ目を瞑る。
「心の中で願った『願い』をそのまま言葉に乗せて……『床よ、部屋よ。床暖房のように、心地の良い暖かさを帯びて』!!」
握り合わせたシオンの手が、淡い金色に光る。すると、部屋全体と床が暖かくなり始めた。
「成功した!? やったぁ!! めちゃくちゃあったかい!!」
閉じていた目を開け、手をほどいたシオンは、その場をぴょんぴょん跳び跳ねて喜びを表す。
「暖炉の暖かさも負けず劣らず暖かいけど、それを助けるために、床を床暖房見たいに暖かくして、壁には…壁暖房みたいに暖かくしたんだよね……」
一人で満足しているシオンの耳に、扉を三回ノックする音が入ってきた。
「あ、はーい」
シオンは扉の方へと駆け寄り、扉を開けた。
そこに立っていたのは、疲れが溜まっている顔をしているアクレリアだった。
「聖女様、大丈夫ですか……? 部屋から大きな声が聞こえてきたモノですから……」
「あ、いや…大丈夫ですよ、何もないので! それより……アクレリアさんの方こそ大丈夫ですか? 疲れが溜まっている様で……」
「え? あぁ、私の方も大丈夫ですよ。聖女様」
元気の無いアクレリアの笑顔を見たシオンは、彼女の手を掴む。
「絶対、疲れが溜まっているでしょ!! 一緒に休みましょう!!」
「え、あ、聖女様っ!?」
アクレリアは、シオンによって部屋へと引きずり込まれたのであった。
ーーーーーーーーーー
机の上には、コーヒーが入った二人分のティーカップ。アクレリアとシオンは互いを見つめ合っていた。
「アクレリアさん、単刀直入に聞きます。疲れている理由って何ですか? 嘘とか言わないでくださいね」
念押しされたアクレリアは、シオンから視線を外しながら言葉を紡ぎ始めた。
「実は…、一週間前にあったお披露目会以降、聖女様を嫁に向かいたいと言う旨の手紙が多く来ているのです……」
「えっ、マジですか……」
シオンの驚きにアクレリアは頷く。
「はい。お披露目会であった事件の後処理は一段落付いてますが……、今は……聖女様を嫁に向かいたいと言う手紙の処理が大変で……」
(マジか……、聖女ってそんなにスゴいんだ……)
「せ、聖女様って……人気なんですね」
「えぇ、そうなんです。聖女は魔法とは別の力を使う存在。そんな存在の血を家系に残したいっていう人たちは、ごまんといます」
コーヒーを一口飲んだ後、アクレリアはまた口を開く。
「ですが、聖女様の嫁ぎ先はもう決まっています」
「えっ!? それ本当ですか!?」
驚きの声をあげるシオンに、アクレリアは頷いた。
「はい。王族かドゥラーク公爵家。または、私共ロスペン侯爵家の内、どちらかになります。ドゥラーク家とロスペン家は、王族の遠い親戚に当たります」
(うわぁ……、選択肢三つだけ……)
「で、でも……アクレリアさん。
シオンの言葉を聞いたアクレリアは、目を見開いていたが、次の瞬間には優しく微笑んだ。
「えぇ、承知いたしました。聖女様のお気持ちを飲みましょう」
ーーーーーーーーーー
「所で…、聖女様。部屋が心地いい暖かさなのですが……」
突然、投げかれられたアクレリアの言葉に、シオンは意気揚々と答え始めた。
「はい! 実は部屋が寒くて、聖女の力を使って、床暖房や壁暖房を作ったんです!!」
「ユカダンボウとカベダンボウ……? それらは…知りませんが……。素晴らしいですね、聖女様。部屋の温度まで自由に変えれるなんて」
「あはは…、私ってより聖女の力が強すぎなだけですけど……」
シオンは、恥ずかしそうに頭をかいたのであった。
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