第17話 魔法が使える人間は全員バケモノ

「危ない!!」


「えっ?」


 咄嗟に動いたエドガーはシオンを抱き抱え、前へと飛ぶ。


 数秒後、地面にシャンデリアが落ちる音が鏡の間に響き渡った。


 床に叩きつけられ、割れたシャンデリア。ざわめき始める鏡の間。


 そしてーー


「エドガーくん!? 足に……」


 エドガーの右足を見たシオンが、驚きの声をあげていた。


 彼の右足には、シャンデリアが落ちた衝撃で割れたガラスの破片によって、切り傷ができていたのだ。


「こんなの、どうてことないよ」


 起き上がりなからそう言うエドガー。騒音を聞き付けたアクレリアとトキが二人の元へ走ってきた。


「エドガー!? 聖女様!? ご無事で!?」


「トキ! 今すぐ、聖女様にケガはないか調べて!」


「あ、アクレリア姉さん。聖女様は傷ないよ、あと、トキ兄さん。聖女様を警護して欲しい」


 シオンを兄と姉に任せたエドガーは、立ち上がり辺りを見渡す。


 すると、彼の目に鏡の間から逃げる女性が写った。


(あいつが……犯人か)


 足にできた切り傷を気にせず、エドガーは走り出した。


      ーーーーーーーーーー


「ちょっと待って欲しいんだけど」


 女性が鏡の間から出ようとした瞬間、ドアに手をかけていた彼女の腕に鎖が巻き付く。


 鎖を辿っていくと、そこには淡い光を放つ魔方陣から鎖だし、冷ややかな目でこちらを見つめている燕尾服姿のレンガ色の髪の少年がいた。


「ねぇ、お前だろ? シャンデリアを聖女様目掛けて落としたのって。しかも、魔法でやったでしょ?」


「そ、それがどうたっていうのよ!! 聖女だとか知らない! あんな小娘に国を任せるなんて……」


 女性の叫びを聞いたエドガーは、面倒くさそうに頭をかきむしった。


「なるほどね……、『聖女を反対する人たち』か。貴族なのに……、頭でっかちだね。聖女って、シスターとか聖職者見たいなモノなのに……」


「尋問とかは……騎士とかに任せて……、俺はこいつを眠らせるか」


 魔法によってナイフを呼び出したエドガーは、自身の手首を切った。


 切られた手首から血が地面に滴り落ち、染みができ始めたと思ったら、そこから淡い光を帯びた魔方陣が浮かび上がってくる。


俺の家ロスペン侯爵家って、召喚魔法を扱える家系なんだ。そして、聖女召喚の儀式を取り締まったり、その文献を管理している一族」


「あ、でも……俺が今から召喚するのは、聖女でも妖精でもなんでもない。『魔物』だ」 


 彼の不適な笑みに怖じけつている女性をよそに、魔法陣が淡く光だし、その場に3歳程の見た目をした羽の生えた女の子が現れた。


 女の子はその場で、静かに浮いていた。


「可愛いでしょ? こいつ、妖精なんだけど肉食なんだよね。魔法で人間や動物を惑わせて食べる。そのやり方から、大昔に魔物に分類された」


 咳き込んだ後、エドガーは話を続ける。


「でもさ、召喚する時って、血や肉を使ってやらないといけないから、難儀なんだよね。召喚する前に、この妖精たちの腹を満たすって感じでやらないといけない」

 

 怯える女性を見たエドガーは、彼女に優しく微笑みかけた。


「大丈夫だよ、お前を食べさせたりしない。妖精ってさ、『眠りの粉』っていう粉を出せるんだって。それで眠られるだけだから」


「ば、バケモノ……」


 呟く女性を尻目に妖精は右手を前にだし、ふぅと、彼女の方へ息を吹き掛けた。綺麗な金色の粉が舞い、女性の顔へと降りかかる。


 金色の粉を浴びた女性は目を閉じ、その場に倒れてしまった。


「バケモノって……、魔法が使える人間は全員バケモノだろ」

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