第15話 商人と富豪と聖女様
11月27日 午後19時35分
王国『パラティーヌ』
王宮・鏡の間にて
国王への挨拶が終わったシオンたちは、貴族や大臣と言った上流階級の者たちへの挨拶やら談笑相手に追われていた。
それが一段落した時、シオンたちの方に二人の青年がやって来た。
「アクレリアさん、お久しぶりです」
声が方を見ると、灰色の髪をした青年と赤毛の青年がこちら側へやって来ていた。どちらも、仕立ての良いシワ一つない燕尾服を着ていた。
「クラウド……久しぶりって……、昨日ぶりでしょ?」
「ん? そうですか? まぁ、それらは置いといて。見てください、アレクリアさん! カチェルさんに仕立てて貰ったんですよ!」
子供のように『見て見て』と言わんばかりに、己が身に付けている燕尾服を自慢しているクラウドに対し、アクレリアは嫌な顔を浮かべていた。
「はい、はい。すごいですねー……」
「ちょっと!? なんですか、感情が籠っていない感想は!?」
「貴方がうるさいのよ。それに、この燕尾服はカチェル本人が仕立てたヤツじゃなくて、カチェル家の専属のデザイナーに頼んだだけでしょ」
アレクリアの発言に、クラウドは驚きのあまり言葉を失ってしまう。そんな二人を見ていたカチェルは、笑いながら言葉を紡ぎ始めた。
「あははっ! アクレリアの言う通り。この燕尾服は、俺の家の専属のデザイナーに仕立てて貰った服なんだよ!」
「か、カチェルさん……」
豪快に笑うカチェルに、泣きそうな顔を向けるクラウド。アクレリアはため息をついた後、彼らに疑問を投げ掛ける。
「で? なんで私たちの所に来たの? 大臣とか私たちのような貴族も他にいるでしょうに」
「アクレリアさん、違うのですよ。僕たちは……、聖女様とエドガーさんにお話があって」
「話?」
首を傾げるアレクリアを無視して、クラウドはシオンの方へと向く。
「お会いできて光栄です、聖女様。私は、クラウド・フェルト。フェルト家の当主を務めております。以後、お見知りおきを」
深々とお辞儀をするクラウドを見たシオンは、慌ててお辞儀をする。
「あ、えーと…、私は…シオンと言います! クラウドさん、よろしくお願いします」
「私の事は、どうか『クラウド』と。それと、お近づきの印にこれを……」
クラウドはシオンに、ラッピングされた小包を渡す。
「こ、これは……」
「こちらは香水でございます。聖女様に似合う、とても愛らしく気品のある香りです」
「あ、ありがとうございます……」
戸惑いながらも感謝の言葉を口にするシオン。クラウドは、次にエドガーの方へと向き直った。
「エドガーくん。貴方にはこれを」
エドガーに手渡されたのは、少し大きめの包みだった。
「え、これって……」
「新しい羽ペンとインクに筆記帳。それと、『魔導物理学』に『魔力統計学』と『古代魔術記号論』の三冊をおまけで同封してあります」
クラウドの言葉に、エドガーは目を輝かせる。まるで、新しい玩具を貰った子供のように目を輝かせていた。
「クラウドさん……。この前、俺が言ってたの覚えてたんですか……」
「えぇ。『長いこと使っていた羽ペンが壊れ、インクも使いきってしまった』と、エドガーくんぼやいていましたから。あと本なんですが…、最近新しく出た新刊ですよ」
「あ、ありがとうございます!!」
エドガーは嬉しそうにクラウドにお辞儀をする。それを見たクラウドは微笑んでいたが、カチェルはシオンに小声で話していた。
「聖女様。エドガーはツンツンしているように見えて、実はあんな感じで子供らしいんだ。仲良くしてやってくれ」
「えっ?あ、はい。分かりました」
「エドガーをよろしくな。って、自己紹介がまだった……。俺はカチェル・フィミリーレ、貴族でも商人でもない富豪の一族の当主。まぁ……アクレリアやクラウドよりかは……身分は低いけど……、王宮に招かれる程の地位はある」
「アクレリア共々、よろしくね」
カチェルは優しく微笑む。
「あ、はい。よろしくお願いします」
シオンは、カチェルにお辞儀をしたのであった。
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