第12話 注がれたのは愛情なのか?

 これは今から14年前の話。

ドゥラーク家・離れにて。


 一軒家ほどの大きさをした離れに、一人の男性が入っていく。


 40代程の男性……彼は、先代のドゥラーク公爵その人だ。


 中へ入り、数歩進んだ場所にある一つの扉を開け、部屋の中に入っていった。


 そこには、4~5歳程度の黒髪の少年と白髪の少年がいた。


 黒髪の少年は、床に置いた画用紙にクレヨンで何やら絵を描いており、白髪の少年は、静かに読書をしている。


 だが、黒髪の少年の左腕と白髪の右腕には管が刺されており、それはぶら下がっている点滴袋と繋がっており、中に入っている白い液体を彼らの体へ絶えず流していた。


 部屋へ赴いた男性の気配を感じ取った黒髪の少年は、クレヨンをおき、笑顔で画用紙を男性に見せ始める。


「パパ、おかえりなさい!! みてください!! ぼくね、パパをかいたの!!」


 満面の笑みでそう言う黒髪の少年に対し、男性は冷ややかな目を向けた。


「犬の遺伝子を入れたおかげで、気配を感じ取れるようだが……。私はお前の『パパ』ではない」


「ごめんなさい……『公爵様』」


 俯いてしまった黒髪の少年・ジュアン。そんな彼を男性はまだ、冷めた目で見つめていた。


「魔法をうまく扱える際に、必要不可欠な想像力を鍛えるために買え与えた画用紙とクレヨンを…こんな馬鹿げた遊びに消費するとは……。ジュアンお前、何様のつもりだ?」


「ごめんなさい……」


 俯きながら呟くジュアン。そんな彼とは対照的に、白髪の少年・ルエムは読んでいた本を床に置くと、ドゥラーク公爵に話しかけた。


「公爵様。今日、火の魔法で蝶々を作れました。そして、操ることができました。それと、公爵様。おれ、遠くの音も良く聞き取れるようになりました」


「前、公爵様が言っていた、ウサギの遺伝子の影響だと思います」


 ルエムの報告に、ドゥラーク公爵は彼と目を合わせず頷く。


「なるほど、無駄な事ばかりしているジュアンよりかは……まぁまぁだな」


 そう吐き捨てたドゥラーク公爵は彼らから離れ、左右に置かれているベッドの中央の戸棚を開け始める。


「あの……公爵様……、?」


「公爵様。今日は、どんなことをするのですか?」


 ジュアンとルエムの言葉を無視し、戸棚にあった薬品を手に取る。


「ルエムはウサギの遺伝子に魔物の因子を組み合わせ……。ジュアンには犬の遺伝子に魔物の因子を組み合わせた……」


 公爵は手にした薬品に、空気を抜いた注射の針を注す。薬品の瓶からすわれた青色の液体は、半分ほど注射の中へ入る。一本、トレイの上に置くと、また別の二本目の注射を取り出した。


「人間の体に定着するようにと、『複合因子安定液』を点滴で流しているが……」


 二本目の注射へ青色の液体が入る。半分までいれ終わったドゥラーク公爵は二本目もトレイに置き、ルエムとジュアンの方へと戻っていく。


「動物の特徴が見られている。『安定剤は外してもいいだろう』」


 冷たく吐き捨てられた言葉に、恐怖を抱いてしまうルエムとジュアン。


 怯えている二人を尻目に、ドゥラーク公爵はトレイを床に置くと彼の腕から管を外す。


 脱脂綿で止血した後、ルエムの右腕に一本、ジュアンの左腕に一本、青い液体の入った注射を注した。そして彼らの体に青い液体が流し込まれた。


 次の瞬間、注射を注された二人が突然倒れ、体が床の上で激しく跳ねた。もがき苦しみ始めた二人の体は意思に反して硬直と弛緩を繰り返し、声にならない悲鳴を上げている。


「ぅ、ぐぅぅっ、ぁあ"ッ……!」


 激しく跳ねもがき苦しんでいる二人の体からは、汗が流れており、床に染みていく。


「これは……、定期的に行う方が良いな」


 そう呟くドゥラーク公爵。彼を他所にルエムとジュアンは、全身に襲っている激痛に苦しんでいた。


 激痛に苦しんでいる彼らの声は時に人間のモノへ、時に獣のモノへと変わっている。


 それに比例して、彼ら二人の瞳孔も人のモノから獣のモノへ、順番に変わっていた。


      ーーーーーーーーーー


 あれから数十分後。投与された薬の反応が消え、疲れきっているジュアンとルエム。二人は肩で息をしている。


 疲れきった顔で倒れている二人に気づいた公爵は彼らの前に屈むと、手にしていた紙とペンを床に置き、ルエムとジュアンの頭を優しく撫で始めた。


「良くやった。お前たちのおかげで、良い結果が得られた」


 ドゥラーク公爵に頭を優しく撫でられたている二人は、呆然と公爵を見つめていた。


「ぱぁ……ぱぁ……?」


「こう……しゃく……さま……?」


 あまり呂律が回っていない彼らの言葉を聞いたドゥラーク公爵は、二人の頭を撫で続けながら言葉を続けた。


「さすが、『私の道具たち』だ。お前たちは役にたったのだ」


「ぼくたちは……パパのやくにたてたの……?」


「そうだとも、ジュアン。お前たちは『ディアボロス』と言う姓に似合う、良い活躍をやったんだ」


「こうしゃくさま……、おれたちに……いたいことは……しないのですか……?」


 ルエムの言葉にドゥラーク公爵は頷き、優しい声で答え始める。


「ルエム、怯えなくて良い。お前たちは、。怯えなくて良い」


「わかり……ました。ありがとう……ございます……、こうしゃくさま……」


 そう呟いたルエムは、ゆっくりと目を閉じる。


「パパ……ありがとう……」


 ジュアンもルエム同様、ゆっくりと目を閉じる。


 彼ら二人は、ドゥラーク公爵から貰えている優しさを噛み締め続けた。

 


 

 


 

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