第10話 勉強漬けになる聖女
11月27日 午後14時01分
王国『パラティーヌ』
ロスペン侯爵家・聖女の部屋前にて。
シャーベットが入った皿を乗せたお盆を持った、レンガ色の髪をした少年・エドガーは、シオンがいる部屋のドアを三回ノックする。
前までは中から返事があったのに、今に限って返事がない。
(なんで返事が無いんだ?トキ兄さんから、『ベリーのシャーベットを聖女様へ届けに行ってこい』って言われたのに……てか、なんで俺の分まで作るかなぁ…、
心の中で文句を良いながら、エドガーはドアノブを回す。鍵は空いている。
「失礼しまーす……って……」
部屋に入った瞬間、エドガーは固まってしまう。
彼の目には、机に頭を突っ伏した状態で座っているシオンが映っていたのだ。
「なん……え?何してんですか……」
エドガーの声が聞こえたのか、机から頭を離し、疲れた様子でシオンはこちら側へ顔を向けた。
「あ……エドガーくんじゃん……。いや……、ちょっと……ね……」
力の無い笑顔を浮かべるシオン。エドガーは、机の方へと歩きながら言葉を紡ぎ始める。
「この状況、ちょっとじゃないでしょ。何があったんですか……」
姉たちから『聖女には敬語を使え』と、口酸っぱく教えられているエドガーは、慣れない敬語でシオンに尋ねる。
「いや…ね。国王が、今日の夜に『聖女のお披露目会』をやるんだって。それで……家庭教師にしごかれたの……」
「あー、なるほどね……」
シオンに同情しながらエドガーは、机の上にお盆を乗せる。
「はい、これベリーのシャーベット」
「あ、ありがとう……」
目の前に置かれたシャーベットにお礼を言うシオン。エドガーは何も言わず、彼女の向かいの席に腰かける。
「俺の所にあるシャーベットは俺の分。護衛がてら、聖女様と一緒に食べろって言われたから」
「なるほどね、分かった」
シオンは、手にしたスプーンでシャーベットを一口すくい、口の中へ入れる。
「ひんやりしてて、美味しい……」
シャーベットの冷たく優しい味に感動しているシオンを尻目に、エドガーは食べ進める。
「てか、なんで聖女様はさっき、机に突っ伏してたの?」
エドガーの質問に、シオンは家庭教師にしごかれた時の記憶を思い出しながら口を開く。
「あのね…、今日の夜にお披露目会があるって言ったじゃない?」
「言ってたね、それ」
「お披露目会、そして夜会や晩餐会とか…、今後参加するであろう会のために、ダンスレッスンやら食事のマナーに作法…、その他諸々、教え込まれたの。しかも短時間で……」
「へぇ、それは災難でしたね」
全然、感情が籠っていないエドガーの声にシオンは反論する。
「ちょっ、全然何も思ってないでしょ!」
「俺、聖女じゃないし。女でもないしね。興味がないのは普通でしょ?」
エドガーの言葉に、ぐうの音も出ないシオン。
「ま、夜のお披露目会まで頑張ってください。聖女様」
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