第2話
タンクトップ姿のお姉さんが、僕の傍まで来て心配してくれた。
「あ、はい……。大丈夫です」
「いやいや、すごい音だったぞ?」
お姉さんは、倒れている僕の身体を起こして、ペタペタと触ってくる。
上半身から、ペタペタと。
筋肉のつき具合を調べているような、少し揉んで来ているような……?
「あ、えっと……、大丈夫ですよ……?」
「こういう時は、油断が命取りになるから」
そう言いながら、お姉さんの手は下半身にもやってくる。ペタペタというよりも、モミモミという方がただしかもしれない。僕の筋肉という筋肉をモミモミと揉んでいった。僕はどうしようもなくて、されるがままに揉まれるしかない。ちょっと恥ずかしいところは、やめて欲しいけど……!?
一通り筋肉を揉むと、原因を突き止めたようで、僕のつま先を抑えるとグッと力を入れて押してくれた。
「君、足がつったんだろう? こうやって伸ばしておいた方が良いぞ。放っておくと悪化するからな」
「は、はい……、いたたた……」
僕はお姉さんにされるがまま、足の健を伸ばされた。伸ばされると痛さがぶり返してくる。
痛さで余裕はないのだけれども、毎日眺めていているだけだったお姉さんが僕に触れていると思うと、なんだか緊張する。
お姉さんは僕の足を気遣ってくれているようで、パンパンに膨らんでいる胸筋を僕の太ももに密着させながら、一生懸命にグーっと足の健を伸ばしてくれる。胸筋には硬さはなく、女性特有の柔らかみを兼ね備えているようだった。
「あ、あの……。えっと、もう大丈夫そうです…………」
「おいおい、遠慮するな? こういうのは初めが肝心だからな?」
ぐりぐりと足を伸ばしながら、胸筋もぐりぐりと押し付けてくる。
「あ、ありがとうございます……」
何に対するお礼かわからなくなってるけど、こんなに一生懸命にしてくれるのだから、お礼を言わないわけにはいかないよね。
お姉さんにされるがまま、もう片方の足もしっかりと伸ばされる。
ストイックに筋トレしていた最中だったから、タオルで拭ったとしてもすぐに汗が湧いてきていて、それが僕の太ももを湿らせてくる。
それは全然イヤじゃないし、むしろ……。
……って、何を考えいてるんだ、僕は。
普通だったら、男子の方が助ける立場になると思うけど、この状況は情けないな……。
お姉さんの処置は終わりに近づいたのか、少しづつ力を緩めてくれた。
「トレーニングは、加減しながらやらないと怪我するぞ? 自分の体調を考慮しながらやるんだぞ?」
「は、はい。わかりました」
「うん、わかればよろしい!」
そう言って笑うお姉さん。
綺麗な女性の笑顔。
爽やかで、カッコいい笑顔だ。
僕だけに向けられた笑顔……。
――ドクン。
急に僕の心臓が筋トレを始めたようで、力強く動き出した気がした。
お姉さんは、一通り僕の足に触れると、「大丈夫そうだ」と頷いた。
問題無いと判断してくれたようで、お姉さんは元板位置へと戻り、また真剣な表情でダンベルを上げ始めた。
お姉さんは、本当に筋トレが好きなんだろうな……。
また、二人でそれぞれにトレーニングをする空間に戻った。
この状況で、またランニングマシンをやるのも気が引けてしまう。
お姉さんに、ちゃんとしたお礼を言いたいけれども、お姉さんは自分の世界に入っているようで、邪魔をするのは申し訳なく感じる。
またお姉さんを眺めてしまっていると、どうやらトレーニングの一セットが終わったのだろう、ダンベルを置くと鏡の前でポージングし始めた。
タンクトップから覗く腕の筋肉は、綺麗に隆起している。
やっぱりカッコいいという感想しか出てこない。
女性の身体を、こんなにマジマジ見てたらいけないんだろうけど、ついつい見惚れてしまう。カッコイイのだから仕方がない。
すると、お姉さんは僕の視線に気が付いたようだった。
「おっ? 君も、この筋肉に目が行ってしまうのか? どうだ、すごいだろ?」
「は、はい!」
ひょろひょろの僕と比べると、天と地ほどの差がある。
男性と女性で筋肉の付きやすさは違うっていうけれども、女性なのにすごく引き締まった筋肉をしている。
僕も気持ちを伝えないとと思い、言葉を絞り出す。
「すごくいい筋肉をしていると思います。か、カッコいいです!」
「はは、君もこのくらい付けるといいぞ?」
「僕も筋肉付けたいです!」
お姉さんのカッコよさから、思っていた言葉がスッと出てきた。単純にお姉さんくらいのボディになれたらカッコいいという憧れから出た言葉だった。
すると、お姉さんは笑顔で答えてくれた。
「そうか、それなら筋トレ手伝ってあげようか?」
「……へ?」
「最近、良く見るから。君、頑張ってるなーって思ってるぞ? 良ければ、筋トレ手伝ってあげよう!」
そうして、爽やかに笑うお姉さん。
こんなお姉さんに手取り足取り、筋トレを指導してもらえるの、僕?!
「少しづつで大丈夫! 私と一緒にやっていこう!」
こうして、綺麗なお姉さんが僕のパーソナルトレーナーになることになったのであった。
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