第2章 ヒヌシャ王国の次代

1話 反省する勇者

──仲間との約束。


我は決して破らぬと誓っている。

そもそも約束を大切にするのは当たり前だが、特に仲間との約束を破ってはならない。

自身にとっては考え無しのひと言だったとしても、相手にとってはそうではない場合も往々にしてあるのだから。

そして何よりも──勇者が約束を破るのはカッコ悪いからな。


「勇者さま、お腹が空きましたね」


見つけたから……。

一旦は取り戻したから……。

それで約束を果たしたとは言わないのが勇者の美学である。

首娘が筋肉合体……をさせるのかは悩ましいが、手元にあの筋肉……首娘の体がある状態でなければ、約束を守ったとは言い難いと考えている。


「これはかなりの空腹具合ですね。目的地の名物は何でしょうか?」


我とした事が、筋肉を意識し過ぎている傾向があるようだ。

あの仕上がりは尋常ではなかった。

見た目がある意味で精神汚染の域に達しているのであろう。

我にも効いているのだから中々に侮れない。


「ところで、体のない私でも……お腹が空いたと言っていいのでしょうか」


恐ろしい話だが、首娘の肉体にはあそこまで仕上がる潜在能力があるとも言えるだろう。

仮に薬物を使用しているとしても、あの大きさ、太さ、しなやか……おっと、また汚染か。


我の回復魔術が通らなかったという事は、首娘の肉体はあれで正常と認識しているのであろう。

首娘よ、まさか我を超える潜在能力が眠っているとはな。

我、驚愕。


「今なら野生動物でさえ、そのまま丸齧りできる気がします」

「それはやめてくれ」


下手な魔獣よりも恐ろしいからやめてもらおうか。

さすがに勇者の仲間が“生食丸齧り生首”では世間体が絶望的になってしまう。

せめて焼いてからとしたいところだ。

そこに我は協力を惜しまない。


「野菜派ではないのか?」

「最近はお肉も美味しく食べられますね」


何でも良いのだな……いや、待てよ。

もしかすると体に影響されているのではないか?

首と体が別々で元気にしている状況がそもそも理解できないのだ。

その可能性は否定できないな。


「何でも美味しく食べられるのか……良い事だな」

「はい!」


さて、体を取り逃がしてしまった責任を、我は痛感している。

往生際が悪いかもしれないが、仲間として約束を必ず果たす所存である。

幸いな事に首娘は不老不死なのだから、約束の期限を長めに見込んでもらいたいところだ。


「食べられる事が幸せです」


次に見つけたら、早々に確保する事にしよう。

グロサリアのような横槍が入ったとしても、手元から離れないように対策──即封印作戦の実施だ。

首娘よ、約束しよう──次は必ず取り戻す。


「それよりも、目的地の村について教えてください!」


我の固い決意を知らぬ首娘は、この先の村について気になるようだ。

我も詳しくはない。

あまり後方へ移動する機会がないからな。

中継地点という漠然とした感覚しか持ち合わせていない。

より後方の温泉は印象深く覚えているが、村の記憶は……そうだな、あれがあったか。


「山菜鍋が名物と呼べるかもしれぬ」

「なんと!山菜のお鍋ですか!これは期待できそうですね」


温泉地でも食べたが、村の味付けの方が好みであった事を思い出した。

出汁の味なのか、さっぱりとした中にもパンチが効いており、奥行きのある……。


──我、空腹。


「今夜は野宿になる。明日には村へ到着できるだろう」

「楽しみですね!」


街道は森の中に差し掛かり、森を出れば村が見えてくる。

明日は山菜鍋か……仲間との鍋も、きっと悪くはないのであろうな。



○○○



──焚き火を見ていると落ち着く。


これは多くの人類に共通して言える事ではないかと思う。

しかし、我でさえその理屈はわからない。

これが火事であれば、危機感を覚える者が多数派へと変わってしまう。

人とは不思議なものだ。


「お腹いっぱいですね……お腹は無いのですが」


獣を狩り、調理して食べた──生食ではない。

首娘に満腹という表現を使えるのかは疑問だが、きっと答えは出ない。

“満首”に変えるか否かの提案が精々になる。


「勇者さまって、料理も上手なんですよね」


当たり前だ。

料理ができればカッコイイだろう?

勇者修行の一環として、ある程度は習得済みである。


「この汁物って料理名とかあるんですか?」

「勇者汁だ」

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