幕間 宗春

 ――暗闇から引きずりだされる感触だった。

 微睡のような、何かに抱かれているような。

 優しくも寒い懐に、ただ沈んでいたい。

 そんな感覚を衝撃と共に目覚めさせられた気分。

 目の前には嗤う幽鬼。

 直後に訪れた激しい怒り。

 まるで急に起こされ不機嫌に思いに――。

 いや、もっと原始的な。

 眠った赤子が起こされて泣きわめくような、一方的な癇癪。


 目覚めた先で、自分の置かれた状況を知った。

 小さく白い身体に大きな青い眼。

 言葉にならなかった。

 あの夜を越えた先で、よもやこのような状況になろうとは。

 不思議だったのは自分の感情だった。

 戸惑いも、悲しみもなく、あるがまま受け入れたような気持ちだった。

 それまでの記憶はないが、この身体になってから数か月生きていたからだろうか。

 頭の理解が追いつかなくても、心がそれを先に許容する、奇妙な感覚。


 同時に罰なのだと思った。

 あの夜、武士の魂の刀を捨て、大神に祈りを、呪いに縋った咎。

 その果てが、この姿だと考えた。

 

 諦めの中での苛立ちが、俺の心に一石を投じた水面のように波打った。

 

 昔の俺なら、切腹を選んだのだろうか。

 だが、手足すら未成熟なこの身では、それすら及ばない。

 声すら、機械に頼らないと出す事も出来ない。

 あの魔神を殺しきれなかった罪。

 それを濯ぐ為のおよそ二年という月日の、恥の日々とでも言うのか。

 リーシャと名乗った、異国の女との会話。

 俺を刺すように見つめる、瞳。

 その目の中にある情熱。

 まるで、炎のようだと思った。

 暗い澱みを照らす光明に、惹かれるものを感じた。

 リーシャの声が身を浸す液の振動を通じて聞こえた。

 ……少し、話してみたいと思えた。


 そして時が、理解という砂を積み上げていくようだった。



「――それで、あんたはこれからどうしたいの?」


 リーシャの問いは、俺の空っぽの心を穿った。

 見たら分かるだろう。

 俺は、もはや一人では何もできない。

 いや、既に人ではない身体で、これからもヘチマもない。

 そんな感情を、殺意を乗せてぶつけてしまった。


 声があれば笑っていただろう。

 あの夜の、魔神のように。

 自身の情けなさに。

 そして、自らの弱さ、に。

 

 だが、そんな俺でも。

 リーシャは、必要だと言ってくれた。

 力を貸してほしいと言ってくれた。 

 その真っすぐな、瞳で。

 

 止まった刻を、進めようと思えた瞬間だった。


 あの娘が、約束を守る限り、俺は。

 必ず死力を賭す。


 あの魔神を今度こそ討ち果たし、あの夜を、終わらせる。


 兄上。智姫。

 見ていてください。

 宗春は、必ず。

 いえ、今度こそ。

 お二人の運命を狂わせた元凶を打ち取りまする。

 

 一人では何もできぬ身ではありますが、どんな手段を用いても。

 必ずや。


 ……必ずや。


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