第14話 ワクワクの寮生活のはずが

 礼拝堂にて。

 学園の敷地内にある寮についての説明会が行われていた。 

 

 俺も時間に遅れることなく参加している。

 席はほぼ埋まっており、多くの新入生が……男たちが寮を利用することは一目で分かる。

 

 ちなみに、寮は有料である。

 

 俺も王立学園側から推薦状は貰ったけど……寮費の免除とかは特に無かったから、ちゃんと払わないとな。

  

 といっても、王都の宿屋と比較してかなり格安。

 

 配られたパンフレットには、綺麗な内装や設備一覧が載っていて、「こんな場所にこの値段で住めるなんて、最高だろ……!」と、逆に感動するぐらい。


「1年生専用の男子寮は、2人部屋になっている。朝と夕食は寮内にある食堂を使用するように。それと大浴場だが、利用可能時間は朝5時から夜の0時までだ」


 加えて、朝夕食の2食付きと大浴場も使える。最高すぎるだろ!


 ちなみに、今説明してくれているのは寮母さんではなく……男の方が多いこの世界では、寮父さんである。


 寮父さんが淡々と説明を続ける。

 

 周囲の新入生たちはメモを取ったり、頷いたりしており、俺も同じく集中して話を聞いていた。

 

 寮についての理解も深まり、ワクワクもしている。


 2人部屋ということは、同じ部屋になる男とは仲良くしとかないとな!

 学園でも気軽に話せる友達にも繋がってくるだろうし。


 説明会もそろそろ終わりが近づいてきたなと思っていた時。


「それと、最後に……。寮のことについて全部説明をしていておいてなのだが……」


 寮父さんはどこか歯切れの悪い様子で、その続きを話し出した。


「1年生専用の男子寮の1部屋だけ……実は、内装工事が長引いていてなぁ。今年の男子は奇数で入学してきたと聞いている。だから……1人だけは、現時点で部屋が用意できていないことになる」

「えっ……じゃあ、1人だけ野宿になるのか?」

「んなわけないだろ。ここは名門の王立学園なんだから、ちゃんと補助があるはずだ。きっと、学園付近の宿屋でしばらく暮らすことになるんだろ」

「とはいえ、その1人はちょっとだけ可哀想だなぁ」

「なんか、1人だけハブかれた感じするしな」


 寮父のその言葉に、その場にいた生徒たちがざわつき、憶測が飛び交う中で。


「……」

「ん?」


 不意に、寮父さんがこちらの方を。俺と目を合わせてきた気がした。

 

 まさか、と思った次の瞬間。


「――フェイ・オルクス」

「え……あっ、はいっ!」


 フルネームを呼ばれて思わず、席を立って大きな返事をした。


「悪いが君だけは……しばらく、別のところで過ごしてもらうことになる」

「え……。あ、はい……」


 寮父にそう告げれて、俺は頷くしかなかった。

  

 男子1人だけは、部屋の用意ができてないことが関係しているのだろう。

 んで、その1人に俺になった……と。


 別に、宿でも仮部屋でも住めるのなら何でも構わないのだが……。


 しかし、なんで名指しなんだ?

 

 この場で、みんなの前で悩んだ様子もなく、言えるってことは最初から決まっていたってことだよな?

 

 説明会の前にこっそり伝えてくれても良かったのでは……?


 疑問が次々と頭に浮かぶ。

 

 そして、周囲の男たちも同じことを思ったみたいで……。


「なんでアイツ? しかも、名指しで」

「あれじゃね? 入学試験の点数が1番悪かったからとか?」

「身分も見た感じ、平民っぽいよなー。さすがに、貴族位の生徒に言うわけにもいかないだろ」

「なんか、可哀想だわ〜」


 ひそひそ声が飛び交う。

 だけど、その内容はしっかりと聞き取れた。


 ここは男女比3:1の貞操逆転世界であり……。

 貴族、平民の格差が存在する異世界でもある。


 って、考えた時に……やっぱり、俺になるか、と妙に納得したのだった。


◆◆


 説明会終了後。

 

 しかしながら、寮父さんに「君は礼拝堂で待つように」と言われていた。

 

 その寮父さんも何故か、去っていってしまい俺は1人残されていた。


 別に、待つのはいいのだけど……。


「お腹空いたなぁ〜」


 俺は、腹をさする。


 生徒会長と会っていた、あの後。

 昼飯を食べるため、急いで飯屋を探したが……どこもかしこも混雑しており、入れずしまい。


 王都には、田舎のように食べ物を屋台形式で売っているところは見当たらず、前世のようにコンビニなんてものもあるはずがなく……。


 結局、何も食べることができず俺は説明会に向かったのだった。


「はー、腹減った〜。話終わったら絶対美味いもの食べよっ。いや、話の内容に次第によっては、宿探ししなきゃだけど……」


 そんな時だった。


 ガチャリ、と。礼拝堂の入り口の扉が開く音がして、振り向く。


「おっ、やっと来て……」


 そう思ったけれど、視界に入ったのは思っていた人物とは違っていて。


 寮父さんでもなく、学園の教員でもなく……。


 薄紫色の長髪に、吸い込まれそうなほど綺麗なピンク色の瞳。

 シミひとつない白い肌、可愛い顔立ち。

 全体的に華奢でありつつ、制服のスカートから伸びる脚は、黒色のストッキングに包まれている。


 何よりも、頭には模様の入った白色のベールを被っていた。


 言わずもがな女の子であり、美少女である。


 それも、『聖女様候補』と呼ばれていたあの子であった。


「……」

「……あ」


 そんな彼女と、バッチリ目が合ってしまった。


 まあ、この礼拝堂にいるのは俺だけなので、自然と目に入ったということだろうが……。

 

「今、お1人ですか?」

「え……ええ、まあ……」


 話しかけられたので、戸惑いながらも答えた。

 というか、声も可愛いな……。


 ぽけーっと眺めてしまっていると、彼女がほんのりと染めながら口を開いた。


「ふふっ。そんなに緊張なさらないでください。かくいう私も、緊張していますが……。でもこれからは、一緒の学園で学び、一緒に生活をするのですからね」


 そんな優しげな声色に、ハッと意識が戻る。


 見た目も、態度も、言葉遣いも……全てにおいて、聖女様の良質があるなぁ。


 って、なんでこんなところに聖女様候補の彼女がいるんだ?


 もしかして俺、ここを出た方がいいのか?


 そんなことを聞こうとした時。


 ぐぅ〜〜!!


 静かな礼拝堂に俺の腹の音が盛大に響いた。

  

 当然、聖女様候補である彼女にもしっかり聞かれてしまったわけで……。


 恥ずかしさもあるし、どういう反応をされているかも気になるし……。


 恐る恐る、彼女の顔を伺うと……。


「お腹が空いているのですか? こちらにサンドイッチがあります。良かったら召し上がりませんか?」


 彼女は、手に持っていた小さな袋を差し出して、ニコリと微笑んだ。

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