賢者無双、魔王の師匠になる。
茶電子素
答えは「筋肉」
俺は筋肉賢者。
神託によって賢者に選ばれた理由はただひとつ。
――筋肉の知識が誰よりも豊富だからだ。
魔法?知らん。
歴史?退屈だ。
政治?聞くだけで眠くなる。
だが「上腕二頭筋を効率よく肥大させる方法」なら三日三晩語り続けられる。
今日も村の広場で、俺は子どもたちにスクワットを教えていた。
「背筋を伸ばせ!腰を落とせ!そうだ、膝はつま先より前に出すな!」
子どもたちは笑いながら真似をする。俺は誇らしい。筋肉は裏切らない。
そこへ、勇者一行が駆け込んできた。
「賢者殿!魔王軍が攻めてきました!どうか知恵を!」
俺は胸を張った。
「任せろ!筋肉はすべてを解決する!」
勇者は期待に満ちた目で俺を見つめる。
「……で、戦略は?」
「まずは全員、腕立て百回だ!」
「は?」
「筋肉があれば恐怖は消える!筋肉があれば剣は折れない!筋肉があれば魔王だって殴れる!」
勇者は頭を抱えたが、俺はすでに走り出していた。
村の外では魔王軍のオークたちが暴れている。
「おお、いい肩だな!だが僧帽筋が弱い!」
俺はオークの肩を掴み、強制的にショルダープレスをさせた。
オークは混乱し、筋肉の悲鳴に耐えきれず倒れる。
次に現れたのは魔王直属の魔導士。
「愚か者め、火球で焼き尽くして――」
「お前、姿勢が悪いぞ!」
俺は魔導士の背中を押し、正しいデッドリフトのフォームを取らせた。
腰に負担がかかりすぎて、魔導士は自滅した。
戦場は筋トレ講座と化した。
敵も味方も、俺の指導に従ってスクワットや腕立てを繰り返す。
気づけば、誰も戦っていない。ただ全員が汗を流し、筋肉を鍛えている。
そこへ、魔王が姿を現した。
「貴様が筋肉賢者か……!我が軍を混乱させおって!」
漆黒の鎧に包まれた巨体。だが俺は怯まない。
「魔王よ、その胸筋は立派だ。だが左右のバランスが悪い!」
「なに……?」
「ベンチプレスの重量を片側だけ盛っただろう!」
図星だったらしい。魔王は顔を赤らめた。
俺は魔王にバーベルを差し出した。
「正しいフォームでやれ。筋肉は嘘をつかない」
魔王は無言でベンチに横たわり、俺の補助でバーベルを上げ下げする。
一回、二回、三回……。
やがて魔王は涙を流した。
「……私は、ずっと強さを求めてきた。だが、間違ったやり方で……」
「筋肉は裏切らない。だが、鍛え方を間違えれば裏切られたように感じる。お前は孤独だったんだな」
魔王は嗚咽しながら俺に抱きついた。
鎧がきしむほどの力強さ。
「賢者よ……私に正しい筋肉の道を教えてくれ!」
「もちろんだ。俺は筋肉賢者だからな!」
こうして戦争は終わった。
勇者は呆然とし、村人たちも唖然とし、魔王は俺の弟子になった。
世界は平和になったのだ。筋肉によって。
夜、焚き火の前で俺は思う。
知識は力だ。だが、俺の知識は筋肉だけ。
それでもいい。筋肉はすべてを繋げる。
明日も俺は誰かにスクワットを教えるだろう。
それが、筋肉賢者としての使命だからだ!
賢者無双、魔王の師匠になる。 茶電子素 @unitarte
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