卓球部員 異世界にいく

@gata73

プロローグ

「え...?」

視界が真っ白に染まり、俺(楽間蓮(らくま・れん))が気づいた時には、

自身は荘厳な大広間の石畳に倒れていた。

周囲にはクラスメイトたちの悲鳴と困惑の声。「ここ、どこ?」

ゆっくりと体を起こすと、玉座に座る国王アルベルト・フォン・エルデリアと名乗る初老の男性が、威厳のある声で告げた。

「ようこそ、勇者たちよ」

彼らは魔王の脅威に対抗するため、伝説の召喚術で異世界から呼ばれたのだという。

クラス全員、三十二人がここにいる。


国王の隣に立つ魔法使いが、天職(この世界での役割)を判定するため、

一人ずつ水晶に触れるよう促した。

判定は出席番号順に進んだ。

クラス委員長の相川健太は眩い光と共に「勇者」の資質を与えられ、周囲はどよめいた。次々と「戦士」「魔法使い」「僧侶」「聖女」など、立派な職業がクラスメイトたちに与えられていく。

幼馴染の田中美咲は「聖女」となった。みんな、特別な力を得ることへの期待に胸を膨らませていた。

そして、俺の番が来た。淡い期待を抱きながら水晶に手を触れると、

灯った光は弱々しかった。 「これは...『卓球部員』...?」

魔法使いが首を傾げ、周囲がざわめいた。

「卓球部員?」「職業なの、それ?」

魔法使いは困惑しながら、卓球部員の能力は「基礎ステータスは平均的」「特殊能力は『サーブ』『レシーブ』『スマッシュ』」であり、戦闘スキルとしては活用法が不明だと報告した。

広間は沈黙に包まれ、俺は立ち尽くすことしかできなかった。


全員の判定後、俺たちは城の一室に案内され、翌日からの職業別訓練が告げられた。

廊下で興奮気味に話すクラスメイトたちは、誰も俺に話しかけてこなかった。

明らかに「ハズレ」を引いた俺は、一人与えられた部屋でベッドに腰を下ろした。

「...なんだよ、これ」

卓球部員

県大会一回戦負けレベルの俺が、この世界で何ができるというのか。

ノックの音と共に、幼馴染の美咲が入ってきた。

「大丈夫?」と心配する美咲に、俺は力なく笑った。

「卓球部員だぞ?この世界で何ができるんだよ」。

美咲は「何か意味があるはずだよ」と優しく慰め、

「私、聖女だから、困ったら力になる」と言い残して部屋を出た。

俺は窓の外の二つの月を見上げ、「...帰りたい」と呟いた。


翌日、訓練が始まった。勇者や戦士たちは剣術、魔法使いは魔法の訓練へと分かれていく。

最後に騎士団長が俺の名を呼んだ。「お前の職業は...『卓球部員』だったな」。

騎士団長は正直に「どう訓練すればいいか分からん」と告げ、

とりあえず基礎的な体力訓練と剣術の基礎を教えることになった。

訓練は散々だった。剣術には職業補正がなく、俺はまったくついていけない。

「やる気あるのか?」と騎士に呆れられる日々。

魔法の訓練も適性がないと告げられた。

俺に残されたのは、召喚時に手に握っていたラケットだけ。

訓練場の隅でラケットを振りながら、それが戦闘で何の役に立つのか分からなかった。

訓練三日目、美咲が声をかけてきた。

「回復魔法、ちょっとだけ使えるようになったよ」と嬉しそうに報告する彼女に、

俺はラケットを地面に置いて言った。

「...ダメだよ。俺には何もできない。卓球部員なんて職業、この世界じゃ何の意味もないんだ」。

美咲は優しく「きっと、蓮にしかできないことがあるはずだよ。まだ見つかってないだけで」と励まし、去っていった。


訓練開始から一週間、クラスメイトは成長していく中、

俺は「他の者たちの訓練の邪魔になる」と騎士団長に告げられ、訓練の輪から外れた。

「自主トレでもしていてくれ」と言われた俺は、訓練場の隅で一人ラケットを振り続ける日々。クラスメイトたちからの声かけも、次第に減っていった。

訓練開始から二週間が経った夜、眠れずに城の中庭に出ていた俺は、

一人の少女に声をかけられた。

「あなた...楽間蓮さん、ですよね?」

彼女は、この国の第三王女、エリシア・フォン・エルデリアだった。

エリシアは、自分も魔力が弱く「役立たずの王女」と呼ばれていることを明かした。

「だから...あなたを見ていて、何だか親近感が湧いてしまって」

彼女は、隅で一人諦めずに練習する俺の姿を「かっこいいな」と思っていたという。

俺は「俺、ただの役立たずです」と自嘲したが、

エリシアは「私も、役立たずです。お揃いですね」と静かに言った。

エリシアは興味津々に卓球について尋ね、ボールを打ち合い、駆け引きをするその競技を「何だか、素敵ですね」と評した。

そして、「きっと、その『卓球』、この世界でも役に立つはずです」と言い切った。 「私、信じてます。楽間さんが、自分の力を見つけることを」。

エリシアの言葉は、ほんの少しだけ、俺の心を軽くした。

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