第19話 魔法実技です!
授業が始まって三日目。登校すると、教室の中ではみんなが騒がしくおしゃべりしていた。話題は今日から始まる魔法実技のことだ。
すでに登校していたキャンディとレヴィーに「おはよう」と声をかけると話に混ざる。
「キャンディもレヴィーも魔力量が多いよね。家で魔法を使ったことある?」
そう聞くと、キャンディーもレヴィーもうなずいた。
「僕の家は『海の守護者』なんて呼ばれているからね。小さい頃から魔法は厳しく教わったよ」
キャンディの家も「知のサード家」と呼ばれているだけあって当たり前に魔法が使えるようだ。ちなみにレヴィーの生家のノーム伯爵家は、この国で唯一海に面した土地をもっているから「海の守護者」と呼ばれているのである。
特別クラスはもしかしたら、すでに魔法を使ったことがある人しかいないのかもしれない。だって一人を除いてみんな貴族で、魔力量も成績も優秀な人の集まりだ。魔法が使えないのは、私と平民の子だけだろう。
「次の授業は校庭だ。みんな表に出ろ」
朝一の授業が終わって雑談していると、アスター先生が扉から顔をのぞかせて言った。……先生の周囲にコウモリが飛んでいる。先生の使い魔を初めて見た。どうして小さいのにいつも一緒にいないのだろう。でも濃い茶色の長髪を結ばずに振り乱して、いつも眉間にしわを寄せている先生の雰囲気によく似合っている。
校庭に出ると、隅の方に複数個の的が設置されている。木でできた簡素な的で、壊れることが前提で作られていそうだ。
「一人ずつ的に向かって使える戦闘用の魔法を放つように。今日の授業はそれぞれの能力の確認だ。使い魔の能力も見せてもらう」
この国では魔力を持つものはみんな、学校を卒業後に最低五年は魔物退治に参加しなくてはならない。貴族の跡取りの子などは事情によっては免除されることもあるが、基本的には全員だ。
「知っての通り魔物は魔力を持った動物だ。魔物は魔力を持つものを好んで食べる。人間も例外ではない。他の魔物を喰らうと、魔物は食った魔物の能力を取り込んで変質することがある。それがキメラ化だ。キメラ化した魔物は総じて強く、人間の生活を脅かす。一定以上の魔力量を持つものには、魔物を間引く義務がある」
キメラ化する前の魔物はさして強くないけれど、キメラ化した魔物は強い。本来は一つしか持たない固有魔法を複数個所持しているからだ。
実は使い魔も本来固有魔法を一つしか持たない。そして使い魔もキメラ化することがある。
フワリンは最初から固有魔法を複数個持っているから、召喚された時点でキメラ化していた使い魔ということになる。……何の魔物が混ざったら毛玉になるのかはわからない。しかしドラゴンはトカゲがキメラ化した使い魔だといわれている。
魔物と使い魔の違いは、人間に服従を誓っているか否かでしかないのだ。
「では次はクリスタ・フィストリア。使い魔の能力を見せてみろ」
キャンディの次に私の名前が呼ばれると、クスクスと笑う声が聞こえる。クラスみんなが、私が魔力量が少なすぎて魔法を使えないことを知っている。だから笑っているのだ。
勝手に笑っていればいい。私は魔法が使えないことを恥じたりしない。魔法が使えなくてもそれが私だと、ジュリー先生が言ってくれたから。
フワリンは私と一緒に的から少し離れた位置につくと、「へっぷー!」と鳴いて口を大きく開ける。クラスの子たちから「気持ち悪い」という声が聞こえてきたがフワリンも気にしていない、むしろこの状況を面白がっているようだ。
さあここで水魔法だ、と私は思ったのだが、フワリンのとった行動は違った。フワリンの口を起点に突風が吹き荒れる。砂埃が舞い、地面に刺さった的がギシギシと音をたて抜けると、フワリンの口に吸いこまれてゆく。的との距離は十メートルほど。……驚きの吸引力だ。
フワリンはざわめく周囲をよそに口から吸いこんだ的を取り出すと、口から火を出し燃やした。そして水をかけて消火する。「へぷっぷ、へーぷぷ!」……「終わりました先生!」じゃないよ。的に当てるって絶対そういう意味じゃないから。引き寄せてから破壊してどうするのさ。
「実に興味深い能力だ。次、ハリー・ウィズレッド」
新しい的を立てなおして、ウィズレッドくんが前に出る。手に持っている杖は恐らく、最も魔力との相性がいいとされる純銀製だ。さすが侯爵子息。お金持ちだな。
ウィズレッドくんはちらりとこちらを見ると、鼻で笑った。相変わらず腹のたつヤツ。
開始の合図と共に、ウィズレッドくんは魔力を込めて杖で魔法陣を描く。完成した魔法陣にさらに魔力を込めると、魔法が発動する。火、水、土、風と攻撃魔法の基本技を次々的に当ててゆく。
自己紹介で魔法が得意と言っていただけはある。でも少し気になることがある。「へぷ」とフワリンが鳴いた。「派手なだけ」と言っている。確かに。
前のキャンディは魔法の大きさこそかなり小さいが、的確に的の中央に当てていた。
ウィズレッドくんは全ての魔法が的より大きく、必要以上に魔力を消費していることがわかる。魔力量が多くないとできない芸当ではあるけれど、無駄遣いとも言える。
「……まあ及第点だ。次」
戻ってきたウィズレッドくんは、小ばかにするような表情で私を見る。もういい加減に私を目の敵にするのはやめてほしいな。
授業はそのまま進んでゆく。みんなの魔法を見ているだけなのは退屈だった。
「最後、モニークは免除とする。全員集合」
全員終わって先生の前に集まると、先生は紙を首を斜めに傾けて、先ほどからメモを取っていた紙を見つめる。
「あー、今後の授業は能力と性格のバランスを考えて組んだグループで行う。通常魔物討伐は一人では行わないからだ。このグループは卒業後もそのまま組んで魔物討伐を行うことが多い。仲良くするように。それではグループを発表する」
私にはキャンディとレヴィーと組むことになるだろうなという予感があった。だってクラスのほとんどが私と仲良くする気なんてないからだ。
「A班、キャンディ・サード。クリスタ・フィストリア。レヴィー・ノーム。モニーク。以上四名」
三人組かと思っていたら四人組だった。残りの一人と仲良くなれるか心配だ。
そのままグループ発表が終わって昼休みになったので、私たちは集まって、所在なさげにたたずんでいた最後の一人に声をかけた。彼女はウェーブのかかった、炎のような赤い髪の女の子だ。特別クラス唯一の平民である。
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