第17話 使い魔タッグは最強です!
その日の放課後、レヴィーに明日から一緒に昼食をとらないかと声をかける。
「え? 本当にいいの? 邪魔じゃない?」
「邪魔なわけないよ。一緒に食べよう!」
そんな会話をしていると、フワリンがトットの周りを旋回し「へぷーへぷ!」と鳴いた。
「……トット?」
困惑した様子でトットを見るキャンディに「どうしたの?」と問いかけると、トットの魔力が急激に減少したのだという。魔法を使ったのかな。
「おかしいな、今まで鑑定を使ってもここまで魔力が減ることはなかったのに……」
するとフワリンがふよふよと飛んでいって、こちらを振り返って「へぷー!」と鳴いた。「ついてこい!」と言っている。キャンディとレヴィーも、それぞれ自分の使い魔に押されていた。
仕方がないのでついて行くと、昼食をとったあの温室へとたどりついた。
何をする気なのだろうと思っていると、フワリンは口から皿に乗った丸パンを出した。
「へっぷー!!!」
フワリンの目が七色に輝く。トットはフワリンの横で一緒にパンを見つめている。するといきなりトットが「にゃーん!」と鳴いて前足でフワリンを引っ叩いた。勢いよく飛んでいって壁にぶつかり、悔しそうに「へぷー」と鳴くフワリンに、私は一体何を見せられているのだろうと思う。
「まって、まさか……!」
キャンディはキャンディで急いで紙を取り出し、何度も魔法を使ってはトットにはり倒されるフワリンの様子をメモし始めた。
私はレヴィーと顔を見合わせて、とりあえず落ち着くまで待とうと、一緒に床に座ってショコラのブラッシングをした。
カピバラって毛が固いんだな。フワリンは毛が細いからブラッシングは柔らかいブラシじゃないと駄目なんだよね。
ショコラは床に座るレヴィーの膝の上に寝っ転がって、歯を削るための木を齧りながら「キューキュー」と鳴いている。意外とかわいい声だ。
ちなみに歯が伸び続けるという使い魔は多くて、授業中もカリカリ木を齧る音が聞こえたりする。ネズミとかウサギとか、使い魔として召喚されることが多いのだ。
穏やかなレヴィーとは、話をしているうちにすっかり打ち解けて、色々な話をした。
馬車通学だと聞いたから、馬車を待たせてしまっているのではと心配すると、二学年上のお姉様の授業が終わる時間に来てもらう予定になっているそうだ。今日はお姉さんの方が一コマ長いみたい。
「いいな、僕も徒歩通学にしようかな。そうしたら放課後とか一緒に勉強できるでしょ?」
それはとてもいい考えだと思った。レヴィーの成績は特別クラスでも真ん中より上の方だ。それぞれ得意分野があるだろうから、わからないところを教えあえるだろう。
レヴィーが徒歩通学に抵抗がない子でよかった。
そんな風に穏やかな時間を過ごしていると「にゃーん!」「へっぷぅ!」という歓声が聞こえてきた。「キュー!」と眠っていたショコラが起き上がって歓声に加わる。
必死にメモを取っていたキャンディがこわばった顔で振り向いた。
「レヴィー……ごめん、怖いと思うけど、協力して」
キャンディはフワリンが魔法をかけていたパンをレヴィーの前に置く。使い魔たちは歓声を上げるのをやめてじっとレヴィーに注目した。
「多分トットはレヴィーの体を詳細に鑑定したんだ。トットの鑑定魔法は、あたしが思ってたよりずっと精密だった……。フワリンは浄化魔法を使える。浄化は言い換えれば、特定の物質の無力化ができる魔法だよ。トットがレヴィーの体を調べ、レヴィーにとって良くないものをフワリンに伝えた。フワリンはテレパシーも使えるからね。そしてフワリンは、パンからレヴィーにとって良くないものを完全に浄化した。恐らくこの推測はあってる」
レヴィーは茫然と目の前に置かれたパンを見る。少し体が震えているように見えた。
「少しでいいから食べてみて! もし駄目だったら、抱えて聖女様の所まで走るから! 上級生はまだ授業中だし、大丈夫!」
レヴィーはごくりと唾を飲みこむと、震える手でパンを掴んだ。本当に小さく、小さくパンに噛みつく。かなり勇気がいっただろう。みんなは祈るように、その様子をじっと見ていた。
何分経っただろう。レヴィーがパンを飲み込んでから、しばらく無言の時間が続いた。
レヴィーの目が潤んだと思ったら、その目から涙があふれだしてくる。
「苦しく、ない。かゆくもならない。本当に? パン、食べれた。食べれたよ!」
みんなで抱き合って、歓声を上げて喜んだ。レヴィーは残りのパンに齧りついて「パンってこんなにおいしかったっけ」と笑っている。
フワリンレシピのパンだから。普通のパンよりずっとおいしいんだよね。
「へっぷー! へぷぷぷ!」
フワリンから「フワリンは『アレルゲン除去』をおぼえた」と伝わってくる。どうして説明口調なのだろう?
涙を流しながら「おいしい!」とパンを食べるレヴィーに、些細なことはどうでもいいかとみんなで笑った。
「よし! お祝いだー!」
キャンディが叫ぶと、フワリンが口からたくさんのパンを出した。そのすべてに「へっぷー!」と魔法をかけてゆく。
「パン祭りだー!」
昼につくった甘いミルクの紅茶をもう一度作って、みんなで食べられるだけパンを食べた。たくさん作っておいてよかった。
「ねえ、これ、少し持って帰ってもいいかな。母上に話したいんだ。友達の使い魔が僕でも食べられるパンを作ってくれたんだよって……ずっと心配をかけていたから……。アレルギーが治ったわけじゃないけど、きっと喜んでくれると思うんだ」
私は「もちろん」と言って袋にパンを詰める。フワリンが「へっぷー」と鳴いてレヴィーの周りを飛んでいる。レヴィーはフワリンに弾んだ声で言った。
「みんなフワリンのおかげだよ。ありがとう!」
「へっぷー! へぷぷぷ! へぷー!」
伝わってきた言葉は「おいしいは幸せ」だった。
フワリンは色々とおかしいけど、みんなを幸せにしてくれる最高の使い魔だ!
☆☆☆
このお話を読んだアレルギーをおもちの皆様へ。
アレルギーで辛い思いをされている方は多いと思います。こんな簡単に解決できる問題ではないと、ご不快に思われた方がいらっしゃったら申し訳ありません。
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