第14話 魅惑のキャンディです!

「あのねー、基本的に特殊な使い魔を召喚した場合は神殿から国に連絡がいくの。これは神殿側があえてその存在を広く周知することで、使い魔と召喚者を守るっていう意図があるんだ」

 

 キャンディはカバンの中から薄ピンク色の物が入った瓶を取り出すと、二本の棒と一緒に私に差し出した。

 

「食べる? これ亡くなったお母様の国のアメなんだ。水アメっていうんだよ。二本の棒で練って食べるの。練るとキラキラになるんだ」

 

 もう一つの瓶を取り出したキャンディは、瓶から棒でアメを取り出すと棒をもってくるくると回す。確かにつやが出てキラキラしていた。私も真似してやってみる。

 

「それでね、フワリンだっけ? 空間魔法とか浄化魔法を使える使い魔ってすごいじゃない? 王様がドラゴンに匹敵する使い魔かもしれないから、フワリンの今の能力と今後の成長について意見が欲しいってお父様に依頼が来たの。でも文献を調べてもよくわからなかったから、経過観察が必要だってことになってね……。あたしが同じクラスになるから調査するようにってお願いされたの」

 

 なるほど、フワリンが調査されて監視されるのは仕方がないと思う。だってそれだけ強大な力を持っているから。

 

「あ、でもね。実験動物みたいにするわけじゃないから。あたしはクリスタとちゃんと友達になりたい! そのうえでちょっとフワリンを観察させてもらえたらなって……駄目かな?」

 

 フワリンは「へっぷぷ」と鳴いてため息をつく。「人気者は困るぜ」だって。ノリノリじゃない。

 私は「大丈夫だよ」と言ってフワリンを小突いた。

 

「本当⁉ ありがとう! それじゃあ早速聞きたいことがあるんだけど、フワリンの作った亜空間は時間が止まるって調書にあったの。 でもあの泣き虫くんを飲み込んだ時、時間止まってなかったよね? 気づいてた?」

 

 そうだ、ルートさんに会った後で発覚した能力もあるんだった。私はキャンディにそのことを話した。空間の温度調整まで出来ると言うとキャンディの目が輝く。

 アメを食べきると、紙を取り出してものすごい勢いでメモをとりはじめた。覗いてみると、ミミズがのたうったような字だ。文官がよく使うという速記用の文字だろう。将来侍女になるなら役に立つかもしれないし、教えてもらおうかな。

 

「あ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃって!」

 

 私は「いいよ」と言ってアメを食べる。この国では砂糖は南の国からの輸入品しかないから高価だ。蜂蜜はあるけどちょっとだけ高いし癖が強い味がする。

 この水アメは変な癖もなく、甘みが強くておいしかった。料理にも使えそうだ。

 

「そういえば、フワリンが米料理を教えてくれたんだってね。この水アメも米でできてるんだよ! 頭を使うと甘いものが欲しくなるから、うちでは常にいっぱい作ってるの」

 

 私はとても驚いた。米がアメになるなんて信じられない。安い米でこんな癖のないおいしいアメが作れるとわかったら、みんな大喜びするんじゃないかな。

 フワリンを見ると「へぷぷ」と驚いている様子はない。どうやら知っていたようだ。

 

「あたしのお母様の国では米は結構食べてたみたい。あたしも小さい頃食べてたみたいなんだけど、あんまり覚えてないんだ。水アメのレシピ以外にも、書き残してくれてたらよかったのに。お父様もお兄様たちも、食にはあんまり興味ないからさ」

 

 頬を膨らませるキャンディに、フワリンは「へぷっ」と鳴いて同情しているようだ。

 

「フワリンの教えてくれる米料理って、もしかしてキャンディのお母様の国の料理なのかな?」

 

「どうだろうね。お母様の国はすごく小さい上に遠くて、雪が多すぎて他国ともあまり交流がない国なの。お爺様が未知の知識を求めて旅をしている時に、国で有名な才女だったお母様を見出して、農作の知識と引き換えに連れてきたんだ。だから国のことはよくわからないの」

 

 キャンディのお母様は早くに病で亡くなっているから、あまり覚えていないのだろう。ちょっと寂しそうで切なくなる。

 

「へぷ! へぷ!」

 

 フワリンが口を開けて、チャーハンとオムライスとドライカレーのおにぎりを取り出した。

 

「これって米料理? 食べていいの?」

 

 もしかしたらどれかの料理がキャンディのお母様の祖国のものかもしれない。そうでなくてもおいしいからきっと気に入ってくれるだろう。

 キャンディは薄く焼いた卵で巻いたオムライスのおにぎりをしげしげと見て齧り付く。

 

「おいしい!」

 

 フワリンは「へぷー」と鳴いて嬉しそうに浮遊している。キャンディは少しはお母様を思い出せたかな。

 それからキャンディは夢中になっておにぎりを次々に口へと運んだ。

 

「……ねえ、クリスタ。うちで作ってる水アメたくさんあげるからさ、またフワリンの料理食べさせてくれない?」

 

「その取引、乗った!」

 

 どうやらキャンディも毛玉メシの虜になったらしい。

 水アメはフワリンが作り方を知っているみたいだけど、作るのは大変だろうしもらえるならそうしたい。


 ちなみにフワリンが見せてくれた水アメの作り方は、炊いた米に麦を植える? という理解しがたいものだった。こんなに何がしたいのかわからない調理法は初めてで困惑した。これを最初に思いついた人は天才だと思う。

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