応瑒の漢詩

報趙淑麗

朝雲不歸,夕結成陰。

離羣猶宿,永思長吟。

有鳥孤栖,哀鳴北林。

嗟我懐矣,感物傷心!


趙淑麗に報ゆ

朝の雲は帰らず、

夕べには陰(かげ)を結んでたなびく。

群れから離れた者は、夜をひとり宿り、

永く思いつづけて嘆きの歌を口ずさむ。

一羽の鳥がただ独り止まり、

北の林で悲しく鳴いている。

ああ、わたしの思いよ、

なんと心を動かされ、胸が痛むことだろう。


ーー


公讌

巍巍主人徳,佳㑹被四方。

開館延羣士,置酒于斯堂。

辨論釋欝結,援茟興文章。

穆穆衆君子,好合同安康。

促坐褰重帷,傳滿騰羽觴。


宴会の詩

そびえ立つように高く尊い、主人(主催者)の徳。

すばらしい集いの席は、四方から人々を惹き寄せる。

館を開いて多くの士(学者・文人)を招き、

この堂に酒を設けて饗応する。

議論を交わして胸のつかえを解き、

筆を取りて詩文を興じる。

おごそかで立派な多くの君子たちは、

心を合わせ、和やかに安らぐ。

席を詰めて向かい合い、重ねた帷(とばり)を少し開ければ、

杯がめぐり、羽觴(うしょう:羽のついた杯)が舞うように飛び交う。


ーー


別詩 其一

朝雲浮四海,日暮歸故山。

行役懐舊土,悲思不能言。

悠悠渉千里,未知何時旋。


別れの詩 其の一

朝の雲は四方の海へとただよい、

夕暮れには故郷の山へ帰ってゆく。

旅の途(みち)にあって故郷を思えば、

悲しみと恋しさに胸がいっぱいで、言葉も出ない。

はるか千里の道のりを行く我が身、

いつ故郷に帰れるのか、それもわからない。


別詩 其ニ

浩浩長河水,九折東北流。

晨夜赴滄海,海流亦何抽。

遠適萬里道。歸來未有由,

臨河累太息,五內懐傷憂。


別れの詩 其のニ

はてしなく広く流れる黄河の水は、

九度も曲がりながら東北へと流れてゆく。

朝も夜も絶え間なく大海へとそそぎ、

その海の流れさえ、どうして引き戻せようか。

私は遠く万里の旅へと出て、

帰るすべもいまだに見つからない。

川のほとりに立ち、幾たびも深くため息をつく。

胸の奥深くまで、悲しみと憂いが満ちている。


ーー


闘鶏

戚戚懐不樂,無以釋勞勤。

兄弟游戲場,命駕迎衆賓。

二部分曹伍,羣雞煥以陳。

雙距解長綵,飛踊超敵倫。

芥羽張金距,連戰何繽紛。

從朝至日夕,勝負尚未分。

專塲驅衆敵,剛㨗逸等羣。

四坐同休贊,賓主懐悦欣。

博奕非不樂,此戲世所珍。


心はそわそわして落ち着かず、

仕事の疲れもどうにも晴れない。

兄弟たちが遊びの場に集まり、

馬を出して多くの客人を迎える。

二つの隊に伍(軍隊の単位)に分け、

群れた鶏を華やかに整列させる。

どちらも長い装飾紐を解き放つと、

鶏たちは飛び跳ね、互いに競いあう。

小さな羽に金の鶏冠を広げ、

連戦はなんと目まぐるしいことか。

朝から夕方まで至るが、

勝敗はまだ決まらない。

競技場を鶏たちは専ら駆け回り、

強い者も逃げる者も群れの中で飛び交う。

四方に座った人々は声を合わせて称賛し、

客も主人も心から楽しみ喜ぶ。

勝負や賭け事が楽しいからではなく、

この遊びそのものが世に珍重されるのだ。


ーー


侍五官中郎將建章臺集詩

朝鴈鳴雲中,音響一何哀!

問子遊何鄉?戢翼正徘徊。

言我寒門來,將就衡陽棲。

往春翔北土,今冬客南淮。

遠行蒙霜雪,毛羽日摧頹。

常恐傷肌骨,身隕沈黃泥。

簡珠墯沙石,何能中自諧?

欲因雲雨會,濯翼陵高梯。

良遇不可值,伸眉路何階?

公子敬愛客,樂飲不知疲。

和顏既以暢,乃肯顧細微。

贈詩見存慰,小子非所宜。

為且極歡情,不醉其無歸。

凡百敬爾位,以副飢渴懷。


朝の雁が雲の中で鳴く、その響きはなんと哀れなことか!

「どの国を旅しているのか」と尋ねられ、翼をたたみつつそわそわと迷うばかり。

私は寒門(身分の低い家)に生まれ、

衡陽の地で羽を休める身である。

春には北の土地へ翔び、

今冬は南の淮水のほとりに客としている。

遠く旅をする中で霜や雪に晒され、

羽は日に日に傷み疲弊していく。

常に思う、肌や骨を痛めやしないか、

この身が倒れ、黄土に埋もれてしまうのではないかと。

珠を落として砂や石に当てても、

どうして音が整って響こうか。

雲や雨が集まる時に合わせて、

翼を洗い、天高き梯(はしご)を昇りたいと思うが、

よい機会はなかなか訪れず、

眉を伸ばして見上げる道はどれほど遠いことか。

公子(主人)は客を敬い愛し、

酒宴を楽しむ中で疲れを知らない。

穏やかに笑顔を交わすことで和やかさを示し、

細かなところまで目を配ってくださる。

贈られた詩を見て慰めを得るが、私はまだそれに値する者ではない。

ただ、ひとときの歓びを極め、

酔って帰れなくなるほど楽しむわけではない。

すべての事において、公子の位を尊び、

飢えと渇きに耐えながら心を満たすのである。

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