4-5

 その日の夜、駿はベッドの上で今日の試合の事を振り返りながら寝転がっていると、果奈から「今から電話しても大丈夫?」とメッセージが来る。


 果奈からそんなメッセージが送られてくるのが珍しかったので、嬉しさあまり、反射的に「大丈夫」と返信すると、すぐに果奈から電話がかかってくる。


「電話なんて珍しいけど、何かあったの?」

「何かあったって訳じゃないんだけど、ただちょっと話がしたくて。実は今日、美生と一緒に料理の特訓してたの」

「そうなんだ、何作ったの?」

「肉巻きときんぴら」


 肉巻きという言葉を聞いた途端、果奈が弁当で作った塩辛い肉巻きを思い出してしまう。


「へ、へ〜」


 何て返せば良いのか分からなくなり、なあなあな言葉で返してしまった。


「絶対今、前回の弁当の事を思い浮かべたでしょ!」

「そんな事無いって」

「本当に?」

「本当に本当」

「でも大丈夫、美生に教わったところもあったけど、上手くいったよ」

「美生の教えがあったとはいえ、2回目出来たのは凄いと思うし、何より、果奈が俺の為に頑張ってくれた事が嬉しい。次に作る弁当、今から楽しみ」


 嬉しさのあまり思っていたことを本音で果奈に告げてしまい、自分で言った言葉なのに、恥ずかしくなった。


 その言葉の後、果奈から言葉がしばらく返って来ず、心配になる。

 

「果奈、聞こえてる?それともそっちで何かあった?」

「うんうん、何でもない。次に弁当を作る時、楽しみにしててね。私、お風呂に入らないと行けなくなったから電話切るね。それじゃあ、また明日」

「分かった…また明日」


 お風呂に入ると言って、果奈は電話を切ったがあまりにも急に電話を切られたので、腑に落ちなかった。



——その頃、電話を切った果奈は枕を抱きしめていた。


(何やってるの私〜お風呂なんてとっくの前に済ませてるじゃん。それに私から電話かけたのに、一方的に切るなんて…やってる事、最低過ぎるでしょ)


 駿との電話を切ってしまった後悔していた。

 

(そもそも駿がいきなりあんな事を普通に言うのもどうなのかと思う。しかも、駿がそういう事を言う時って、私が油断している時ばかりだし…油断していた私も悪いけどさ)


 心の中で駿を責めた後、1つの終着点に辿り着く。


(でも、そういう事を普通に言ってくれるところも駿の良いところなんだけどね)


 やっと心が落ち着いて一息置こうとすると、ドアをノック音の後に母親が入ってきて、驚いてしまう。


「そんなに驚く事、無いでしょ。もしかして、例の彼氏君と電話でもしていたの?だったらごめんね」

「ち、違うって!それよりもこんな時間にどうしたの?」


 何で駿と電話していた事が分かるの?と疑問に思いつつも、母親の話を聞く事にした。


「翔太がね、『お姉ちゃんと寝たい!』って言って聞かないのよ。これから彼氏君と電話するなら無理にとは言わないけど」

「分かった。後、いちいち彼氏の事を話題に出さないでよ」

「ごめん、ごめん。とにかく、早く翔太の元に行ってやって」

「は〜い」


 リビングに行くと、翔太が眠そうにしていた。


「翔太、こんなところで寝てないで、お姉ちゃんと一緒に自分の部屋に行くよ」

「うん」


 翔太の手をそっと引き、そのまま翔太の部屋に向かい、2人でベットに横たわる。


「小学生になったんだからお姉ちゃんと寝るのは完全に卒業しないと駄目だよ」

「嫌、まだお姉ちゃんと一緒に寝るもん」


 翔太はわがままを言った後、くっついてくる。


 保育園だった頃はほぼ毎日のように一緒に寝ていたが、小学生になってからは週に2〜3回程になり、これでも少なくはなっていた。


「もう、しょうがないんだから。今日はお姉ちゃんオリジナルの物語を聞かせるね」


 翔太を寝かせる時はいつも物語を聞かせたり、子守唄を歌ってたりしていた。


 物語はシンデレラに似たような内容で、あっという間に読み終えると、眠くなって欠伸が出てしまう。


「ふぁ〜、話をしているこっちが眠くなっちゃった」


 翔太の方を見てみると、さっきよりも眠そうにしていたが、まだ微かに起きていた。


「お話、面白かった」

「ありがとう」


 そう言って、翔太の頭を優しく撫でる。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「なに?」

「お姉ちゃんにもお話に出てきたような王子様みたいな人って居るの?」


 その質問を聞いた途端、真っ先に駿の姿を頭に思い浮かべる。


「居るよ」

「その王子様ってお話に出てきた王子様みたいに強くてかっこいい?」

「うん。でも、話に出てきた王子様みたいに戦いで強かったり、他のお姫様達から惚れられる程、かっこいいって訳じゃないけど、私の王子様は普段は何処にでも居る普通の男の子で、私がピンチになると、話に出てくる王子様よりも強くて、かっこよくなるの。だから私はその王子様が…って、あれ?」

「すーすー」


 気がつくと、翔太はぐっすり眠っていた。


「もう翔太ったら、お休み」


 翔太を起こさないようにひっそりと部屋を出る事にする。

 自分の部屋に戻り、ベッドに横になると、さっきの王子様の話を思い出す。


(ちょっと待って…私、翔太に凄い恥ずかしい事、言ってない?)


 とんでもない事を言ってしまった事に気付き、再び悶いてしまい、なかなか寝付けない夜となった。

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