3-13

 3日後の放課後、美生は駿と共に週1回ある大きな買い物をして、駿の家へと向かった。


 家に着くと、駿君の父親の浅村健介さんが帰ってきているのに気付き、駿君が驚く。


「父さん!?何で居るの?」

「何で居るの?は酷いな〜たまにはこういう日もあっても良いだろ」


 健介さんは普段、仕事で22時過ぎに家に帰ってきており、今日のような時間に帰ってくるのは年に数回あるか、無いかだった。


「美生ちゃん、いつも夕飯作ってくれてありがとね。今日は買ってきた食材でおじさんが作るから駿達と一緒に待ってて」

「いえいえ大丈夫ですよ。健介さんこそ、家族とのひとときを楽しんでください」

「まぁまぁそんな事言わずに、たまには美生ちゃんにも息抜きが必要なんだから、今日は任せて」

 

 健介さんの方が息抜きが必要なのでは?と感じた。


 仕方なく、夕飯作りを健介さんに委ねる事にするが、何か手伝いが無いのか聞いてみる。


「では、少しだけお手伝いさせてください」

「美生ちゃんがそこまで言うなら、野菜とか切るのお願い出来る?」

「はい、分かりました」


 そう言って、共に台所へと向かい、調理を始めた。


 調理を始めてからしばらく経つと、健介さんが話しかけてくる。


「美生ちゃん、改めてありがとね。平日の夕飯の調理だけじゃなくて日用品の買い物や結の勉強に付き合ってくれたりしてくれて」

「仕方ないですよ。健介さんも毎日、平日の夜遅くまで働いているのに、休日も駿君や結ちゃんの面倒を1人で見ないとじゃないですか。それにこうやって駿君と結ちゃんと過ごす毎日が家族と居るひとときみたいで、私にとって幸せなんです」


「・・・・」


 ありのままの心境を話したつもりなのに、健介さんは険しい顔をして黙り込んでしまった。


「健介さん、どうしました?」

「うんうん、何にも無いよ。野菜も切り終わったみたいだし、後はおじさんに任せて」

「すいません、後はお願いします」


 台所を後にしようとすると、健介さんが大きくため息をする様子が見えた。


 しばらくして、夕飯が出来上がり、その他の準備をして4人で、夕飯を食べ始める。

 気のせいか、健介さんも居る事で、いつもよりも明るい雰囲気が食卓に漂っていたように感じる。


 夕飯を食べ終えて、結ちゃんに勉強を教えたりなどした後、家へと帰った。


 家の中は真っ暗で誰も居なく、駿君達と夕飯を食べた時と真逆のような雰囲気が漂っており、さっきまでの笑い合っていた時間が、夢みたいに遠く感じた。


 家に上がり、仏壇の向かうと、お母さんの島内伽耶の遺影の前で手を合わせる。


 お母さんは6歳の時に事故によって亡くなってしまい、今はお父さんの島内拓也と2人で暮らしている。

 お父さんも健介さんと同様に仕事で帰ってくる時間が遅く、たまに会社で泊まってそのまま次の日も働く事も少ないだけではなく、休日が平日と重なる日も多々あり、他の家庭と比べて、家族と接する機会が少ない方だと、心の中で思っていた。


「お母さん、ただいま」


 部屋の中で自分の声が静かに響いた。


「今日、健介さんが久々に帰ってきて、駿君や結ちゃんと皆んなで夕飯食べて、何か良いなって感じた…」


 再び、部屋の中に沈黙が漂い始める。


「それじゃあ、おやすみなさい。お母さん…」


 そう言った後、仏壇の水や明日の準備などをして1日を終えた。

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