3-10

 朝のミーティングが終わって、駿は練習に参加しようとすると、顧問の今江先生に呼ばれ、挨拶もそこそこに、3日間休んだことをまず謝った。


「今江先生、3日間も部活を休んでしまってすいませんでした」

「大会も近いんだからちゃんと体調を管理しろよな。だけど、久々に浅村の元気な顔を見れて良かった。大会に向けて頑張れよ」


 今江先生の表情を見る限り、怒っているというより、自分の顔を見て安心しているようだった。


「分かりました、ありがとうございます」


 そう一言、今江先生に告げてから練習に合流する。


 ストロークの練習をこなした後、後輩である内田祐希とラリー練習する事となった。


 祐希は中学3年時に個人戦で全国大会の一歩手前まで行っており、1年生ながらも上級生の練習に参加していた。


「浅村先輩、復帰したばかりですけど、いつも通りで良いですか?」

「良いよ」


 そう返事をしたものの、内心はペースに付いていけるか不安だった。


「では、行きます」


 その声の後、球が放たれる。ラリーとはいえ、祐希の出す球は早く、数日だけの練習をしなかっただけでも、追いつくので精一杯だった。


「くっ…」


 返そうとしたがタイミングが合わずに降り遅れてしまう。


「すいません、もう少し弱めに打ちますね」

「そのままで大丈夫、もう1回お願い」


 その言葉を聞いて祐希は前回と同じくらいの威力で球を放つ。

 なんとか打ち返し、少しだけラリーを続ける事が出来た。

 感覚が戻ってきているなと感じ、今度は自分がサーブを放ち、ラリーが始まる。今回は更に長続きし、感覚を取り戻すだけではなく、更なる手応えを 掴む事が出来た。


 ラリー練習を終えると、祐希が駿の元へとやって来る。


「最後の方の浅村先輩、凄かったです。実は休んでいる間も練習してたんですか?」

「何も練習していないよ。でも、今日はいつもよりも身体が軽くて自分が思っている球を打つ事が出来た気がする」

「そうなんですか。て事は休んでいた間、何かあったんですか?」


 祐希は自分に何があったのか分からないみたいで、確信に迫るように質問してくる。

 何も質問を返せずに困っていると、隆二が祐希の肩に手を置く。


「どうしたんですか。辰巳先輩?」

「祐希、今から試合形式な」

「ちょっと、いきなり過ぎません?」

「良いから、良いから」


 そう言って、祐希を連れ去って行く途中、隆二が自分の方を見て頷いた。どうやら、祐希を連れ去ったのは隆二なりの気遣いみたいだった。


 練習は個人の模擬戦を行った後、立て続けにダブルスの模擬戦を行う事となった。駿のペアは隆二で、1年生の時からずっとペアを組んでいた。

 結果は5ペアと対戦し、3勝2敗で模擬戦を終えた。

 今回の結果を受けて、隆二と話し合いを始める。


「やっぱ、上位2ペアはやっぱ強いな」

「でも、俺もそうだったが浅村も細かいミスが目立っていた。そこを潰していけば勝機はあると思う」

「確かに…そこを少しでも無くしていけるように互いに頑張ろうな」


 そう言って、隆二に拳を向ける。


「そうだな」


 隆二は拳を自分の拳に軽く当てる。


 その後、終わりのミーティングなどをして、部活を終えると、隆二と共に帰路に着いた。


「そういえば最近、平日に一緒に帰れなくなったのって毎日、早川と帰っていたからなのか?」

「はい、そうです…黙っていてすいませんでした」

「別に良いって。けど、毎日2人で帰る程、2人って凄く仲睦まじいんだな」

「そ、そうかな〜」


 仲睦まじいと言われて、嬉しさと恥ずかしさが混り、変な口調で言葉を返してしまう。


 たわいのない会話で盛り上がっていると、あっという間に別れるところに着き、隆二が改まって話を切り出す。


「実は浅村が部活に来るのが怖かったんだ」

「隆二…」

「浅村が部活来なくなってから、ずっと浅村との向き合い方をずっと考えていた。だけど、何も案が浮かばないまま、今日を迎えて、部活の準備していたら浅村が来て、その瞬間、どうすれば良いのか分からなくてパニックになった。でも、なんとか浅村の名前を呼んだら、反応してくれて、呪縛から解放されたような気分になった。そこから何事も無かったように、いつもの関係に戻れて本当に良かった」


 隆二は自分と仲違いした後の心境を全て打ち明けてくれた。


「ありがう、俺もいつも通りの関係に戻れて良かった。後、さっき隆二は果奈に告白して、かっこいいって言っていたけど、互いに話せない雰囲気の中、話を切り出した隆二もかっこいいと思うよ」

「さっき揶揄った時のお返しかよ」

「さぁな」

「まぁ良いか。それじゃ浅村、また明日」

「また明日。絶対、メンバーに入ろうな」

「あぁ」


 明るく交わしたその声が、夕焼けに溶けていく。

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