3-9
目覚ましが鳴る10分前、駿は自然と目を覚ます。久々に胸の奥に淀みのない朝に感じた。
ある程度の準備を終わらせて朝食を食べていると、結が眠そうにしながら起きてきた。
「兄さん、おはよう。今日は部活行くの?」
「流石に今日は行かないとな。部内戦が近いし」
「気持ちは吹っ切れた?」
「吹っ切れた。心配かけてごめん」
「ほんとそうです、兄さんは元気が1番なんだから」
口調は刺々しいものだったが、結なりに自分の事を心配していたのだと伝わった。
その後、全ての準備を終わらせて家を出た。学校に着き、部室に入ると、そこには隆二が姿があった。
ロッカーは隆二の近くにあり、共に準備する時はよく話していたが、今日は沈黙を貫いたまま準備を進める。
隆二が先に準備を終わらせると、1回、深呼吸をしてから、口を開く。その仕草を見ただけで謝罪の言葉が来るのだと悟った。
「浅村」
「どうしたの、隆二」
隆二が勇気を持って話しかけてくれたのだから、無視しちゃ駄目だと思い、何も無かったかのように返事に応じた。
「実は浅村が早川の手を引いて走って行くところ見ていたんだ…なのに、浅村の力になれなかった。挙句にその前は2人が付き合ってるのに、自分勝手な頼みをしてしまってごめん」
隆二が頭を下げて謝ってきた。
「そもそも、隆二に言ってなかったから、知らないのはしょうがないし、俺もあの時、逆上してしまってごめん」
自分にも非があった事を認め、同じように頭を下げて謝った。
隆二と同じタイミングで顔を見合わせると、互いに何かから解放されるように自然と笑みが溢れる。
「あ〜スッキリした。浅村とずっとギスギスした関係でいるのは無理だわ」
「俺もだよ」
ついさっきまで、話しかけられないでいたのに、気付けば、いつものように会話が出来ていた。
話を続けていると、隆二がとある質問をしてくる。
「話変わるけど、1つ聞いて良いか?」
「良いけど、何?」
「どっちから告白したんだ?」
自分と果奈が付き合ってるとは知ったとはいえ、隆二は果奈に告白しようとする程、想いを寄せていた為、そこら辺の事情は気になるみたいだった。
「俺から告白した」
「そうなんだ…告白する時、緊張したのか?」
一瞬だけ隆二の表情が険しくなったように見えた。
「緊張したし、告白する時以外も告白する為に早川さんに話しかけた時も緊張した」
「色々と苦労があったんだな…全然、俺よりもかっこいいじゃん」
「それ、揶揄って言ってる?」
「普段だったら冗談でもそんな事言わねーよ」
会話が盛り上がっていると、隆二が部活の時間が迫っている事に気付く。
「そろそろコートに行くか。久々の練習だからって、手は抜かないからな」
「勿論、ビシバシ頼む」
隆二と共にテニスコートへと向かった。コートに向かう足取りは数日前よりもずっと軽く、色んな意味で新しい一歩を踏み出す事が出来た。
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