3-2

 人気の無い場所に来ると、駿は果奈に話しかける。


「俺があの時、もっと早く駆けつけてれば……。怖い思い、させたくなかったのに……本当にごめん」

「私こそ、ごめんなさい。辛島先輩から告白を受けていた事を話さなくて…」

「何で果奈が謝るの?果奈は悪くないよ」


 とは言ったものの、果奈が悩みを自分に伝えてくれなかった事にショックを受ける。


「悪いのは私だよ…抱え込まないで駿に相談していれば、こんな事にならないで済んだかもしれないのに」


 話している途中から果奈は泣き始めてしまう。


「そんな事、分からないじゃん!」


 自暴自棄になる果奈の姿と自分の不甲斐なさもあって、つい強い口調で言葉を返してしまう。


 それを聞いた果奈は涙を手で拭きながら、首を横に振った直後、学校内にチャイムの音声が鳴り響いた。


「早川果奈さん。至急、教員室に来てください」

「呼び出されたから私行くね…駿、ほんとごめんね…」


 そう言うと、果奈は深呼吸をしてから、教員室に歩き始める。その後ろ姿は今にも崩れそうなくらい寂しそうに見えた。

 果奈がその場から居なくなったので、教室に戻る事にするが、戻る一歩が鉛のように重く感じた。


 教室の中に入ると、2年生のクラスの近くで問題が起こった事と2人が人気のない場所に向かう際、2年生のクラスの前を通った事もあり、クラスの生徒達が問い詰めて来る。


「浅村、おまえ、早川さんと何処に行ってたんだよ」

「果奈はどうなの?」


 あちらこちらから質問されて、混乱しそうになったが、落ち着いて現状について話す。


「早川さんは教員室行ってるし、俺は大丈夫」


 それを聞いてホッとしたのか野次馬のように騒いでいたクラスメイト達が一気に静まるが、1人の男子生徒が妬んだ口調で話し始める。


「浅村、早川さんと付き合ってたんだな〜」


 その一言によって、静まりが再びざわつきへと変わり始める。


「え、あの早川さんが?」

「いや、マジ?あの2人?」

「最近、果奈の様子がいつもと違うなと思ったけど、そういう事だったのね」


 あっという間にクラスは駿と果奈が付き合ってるという話題で持ちきりとなったが何、て言い返せば分からなく、黙り込む事しか出来なかった。


 黙り込んでいると、教室の中からドン!という大きな打撃音と聞こえてきて、一瞬で教室の中が静まり返る。

 

「おまえら、いい加減にしろ!」


 怒鳴り声の主は直己だった。中学校の時から知り合って来たが、直己が怒鳴るところは初めて見た。


「2人が付き合ってるとかどうでも良いだろ!それに今、俺達に出来る事は2人の噂をする事じゃなくて2人を支える事じゃないのか!?」


 心の底からの怒りをぶつけると、直己はすかさず駆け寄って来る。


「駿、大丈夫か。俺、馬鹿だからこういうやり方でしか2人を支えられないや」


 そう言う直己に親友として心強く感じる。


「ありがとう、直己」

「おうよ」


 その後、午後の授業開始が鳴り、現文の教科担当の先生が入ってくると、皆んな慌てて席に着き始める。


「チャイムが鳴ってるのに席を立ってるって何事だ!早く席に着け!」


 最初、先生からの雷は落ちたがその後は何事も無かったように授業が進められた。


 そして、午後の授業が終わり終礼となったが、果奈の席はまるで今の自分の心と同じように、ぽっかりと空いたままだった。

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