2-4

 次の週の月曜日、駿が登校していると、果奈から「昼休みに倉庫裏に来て」というLINEが来ている事に気付く。


 「分かった」と返信して学校に向かうが果奈が何をしようとしているのか気になり過ぎて、午前中の授業は心が上の空の状態で受けた。


 待ちに待った昼休みが始まり、浮ついた気持ちを散らせながら倉庫裏に向かう。

 倉庫裏に到着してから、1〜2分後、果奈が姿を現す。


「ごめん、待たせちゃった?」

「うんうん、全然待ってないから大丈夫」

「そ、そう…」


 いつも以上にソワソワしてる果奈を見て不思議に感じる。


「その…渡したい物があって…」

「渡したい物?」


 果奈は後ろに隠していた弁当袋を駿の目の前に出した。


「これって弁当?」

「うん…」


 今にも沸騰しそうな表情で、首をゆっくり縦に振りながら話した。


「ありがとう、凄く嬉しい」


 その後、倉庫裏の近くにある座れる所に移動して、弁当を食べる事にする。


 弁当は2段弁当になっており、1段目には肉巻き、ブロッコリー和物などのおかずが入っていて、2段目は一面がご飯で真ん中に梅干しが置いてあった。


「いただきます」


 彼女の作った弁当を食べれる幸せを感じながら、肉巻きを口にする為に箸でつまむと、果奈がじっと見つめてくる。その視線に軽く緊張しながら、口に運ぶと、今まで経験した事ない塩辛さに襲われる。


「どう…美味しい?」


 果奈が不安そうに聞いてきた。


「うん…美味しいよ…」


 果奈に不味かったと思われないようにする為に、感情を押し殺しながら応える。


「全然、美味しそうに見えないんだけど」

「本当に美味しかったよ」

「絶対に不味そうな表情してた!」


 果奈に何を言っても信じてもらえそうに無いので、正直な感想を控えめに話すことにする。


「ちょっとしょっぱいように感じたかな…」

「本当にちょっと?」

「本当に本当」

「調味料の量、間違えたかな〜」

「もしかして、大さじと小さじ間違えた?」

「大さじと小さじはちゃんと調べたんだけど、それを目分量で入れたのが、こうなった原因なのかも…」


 弁当がどんな味付けされているのか気になった果奈が弁当を食べ始める。


「う、まっず!こんなにしょっぱくなってるなんて思わなかった」

「味見とかしなかったの?」

「やろうと思ったんだけど、作り終わった時間がぎりぎりで出来なかった…」


 果奈も弁当を食べるのを辞めて、2つの弁当が中途半端に残った状態になり、その光景を見てると、じわじわと悲しい気持ちになってくる。


「無理して全部食べなくて良いよ….後は私が何とかするから…」


 朝から駿の為に頑張って作った弁当が失敗してしまい、果奈は今にも泣き出しそうなくらい、悲しい表情を浮かべていた。


 そんな果奈の様子を見て、居ても立っても居られなくなり、弁当に再び手を付け始める。


「駿、何してるの!?」


 正直、凄くきつかったが、果奈の為にも無心で食べ続け、そのまま2つの弁当を食べ尽くした。

 

「よし!この味を忘れないように、覚えた」

「どういう事?」

「そうすれば、果奈の成長が分かるでしょ」


 果奈を安心させる為に出来るだけの笑みを浮かべて、言葉を返した。


 一方の果奈はどう反応すれば良いのか分からなくなり顔を俯けるが、その手には空になった弁当箱をぎゅっと持っていた。


「果奈、大丈夫?」

「今、感情が複雑過ぎて変な顔になってるから見ないで…」


 謎の返答にどう言葉を返せば良いか戸惑ったが、果奈が落ち着くまで待つことにした。


 しばらくすると、気持ちの整理をした果奈が顔を上げる。


「本当に大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「ごめん俺、変な事、言ったよね?」

「そんな事無い、駿がそう言ってくれなきゃ私、もう弁当作れなかった。でも、次こそは駿を納得させるような弁当作るから楽しみにしてね」

 

 さっきまで悲しい表情を浮かべていた果奈がいつもの表情に戻っていた。


「次に作る果奈の弁当、楽しみに待ってる」

「後、今度から昼休み、ここで2人で過ごさない?学校で会うのが帰り道だけなのも少し寂しいし。それに…」


 一瞬の間の後、果奈が再び話し始める。


「もっと駿と一緒に居たいから」


 弁当の味よりも、その言葉に胸を撃ち抜かれそうになる。


「うん、今度からそうしよう」


 果奈の弁当が上手くいかなくて一時はどうなるかと思ったが、果奈とこれからの昼休みを過ごす事が決まり、終わってみれば、かけがえのない時間となった。

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