1-2

 翌朝、駿はいつもと変わらぬ時間に目を覚める。けれど、空気がいつもよりも少し澄んでいる気がした。


 登校して、まだ半分ほどの人しか居ない教室に入ると、直己がニヤニヤしながら話しかけてくる。


「おはよー!駿、どうだ1日目の朝は?」

「いつもの朝と変わんないよ」


 口ではいつも通りと言ったものの、実際はどうしようもなく浮ついていた。


「いやいや、顔が物語ってるけどな」


 苦し紛れに誤魔化すが、直己には通じない。


「直己には敵わね」

「まぁーな」


そんなやりとりをしていると、早川さんが教室に入って来た。


 普段と変わらない様子だったが、たまたま目が遭うと、小さく視線を逸らす。


 それを見て、胸の奥が少し温かくなったものの、結局、その後は何も無いまま1日を過ごして、気付いたら放課後を迎えた。

 

 ため息をついた後、教材をしまう為に机を開けると、小さく折り畳まれた紙が入っていた。


 そこには——

「部活が終わったら倉庫裏に来てね。果奈より」


 その文字を目にした瞬間、頬が緩むのを抑えられなくなる。


 安心していたのも束の間、部活が始まる時間が迫ってる事に気付き、急いで部活へと向かう。


 所属しているテニス部の部室に着くと、コートに向かおうとする辰巳隆二とすれ違う。


 隆二は入部当初からのライバルであるのと同時に友達で、女子からよく告白を受けていたが、本人は気にしていない。


「浅村、来るの遅かったけど、何かあったのか?」

「と、特に何も…」

「絶対、なんかあっただろ」

「本当に無いって!」

「まぁ良い、先に行ってるから、早く着替えて来い」


 朝も直己にバレたし、やっぱり顔に出てるのかと思いながら、着替えを終えてコートへと向かい、練習を始めた。


 1つ1つのメニューを着実にこなしていたはずなのに、隆二が声をかけてくる。


「浅村、動きが鈍いぞ」

「俺はいつも通りにやってるつもりだけど」

「お前、集中していないだろ。どうしたんだ?」

「・・・・さぁな」


 そう言いつつ、心当たりしかなかった。

 

 その後の練習試合は細かなミスが続き、隆二だけではなく、普段勝っていた部員に負けてしまい散々だったが、不思議と気分は沈まなかった。むしろ胸が高鳴ったまま、倉庫裏へと向かっていく。


 練習場所を抜け、夕焼けに染まる倉庫裏が見えた瞬間、距離が縮まるごとに鼓動の音がやけに大きく響いた。

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