もう一度、やり直せるなら

青サバ

プロローグ

「早川さん。…俺と、付き合ってください」


 放課後の上野高校2年4組の教室。静まり返った空間に浅村駿の声が僅かに震えながら響ていた。


「・・・・」


 告白された早川果奈は一瞬驚いたように目を見開き、茶髪のポニーテールを揺らして俯き黙り込む。


 秒針の針の音がやけに大きく聞こえる。心臓は痛いほどに脈打っていた。


「・・・・入学式の時、道に迷っていたところを早川さんが案内してくれて、あの日から、ずっと早川さんのことを意識してて…気付いたら、どうしようもなく…好きになってました」

 


 更に声が震える。でも、逃げたら後悔すると、誰より本人が分かっていた。

 覚悟を決めて、好きになった経緯を早川さんに伝える。


 沈黙のあと─

 

「・・・・付き合っても、良いよ」


 早川さんの小さな声が夕方の教室にそっと落ちた。

 顔を上げた彼女の頬は赤く染まり、恥ずかしそうにしていたが、それでもまっすぐだった。


「実は…私も浅村君のこと、気になってたんだよね」

「本当に!?ありがとう!よろしくお願いします!」

「私こそ、よろしくね、駿」


 胸の奥がじんわり熱くなるが、全身が軽くなったような感覚が広がる。


 こうして、早川さんとの恋が始まった。


 その瞬間、世界は確かに変わった。これからの日々に何が待っているのか——幸せな事もあれば、辛い事もあるかもしれない。心の中に期待と不安が渦巻くなか、静かに夕陽が差し込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る