心霊体験について

奥行

私の人生における「心霊体験」について



怖い話をするにあたって、誰しも1つや2つ何かしら持ちエピソードのようなものがあると思う。


話を始める定型文としては、「地元の先輩の友達」や「親の知り合いから聞いた」などが多いだろうと思うが、私の場合はほとんどのエピソードが実体験である。


……いや、実体験というと誇張がある。

正確に言うと、理屈はよく分からないけどなんか変な事が起こって科学的に説明出来ないのでもしかしたら心霊現象かもしれない、という風な出来事に遭遇する。

なのでオチもない。

実は、ホラー短編で投稿している「賑やかなる旧家」も家族構成に若干のカモフラージュはあるものの、起こった出来事は全て事実に基づいている。


と、こういう話をするとじゃあ幽霊を見た事があるの?と尋ねられるが、幸いにもまだお目にかかったことはない。

唯一それらしきものを見たのは、幼少期に、目が覚めると目の前にクレヨンでぐちゃぐちゃに書いたような大きな黒い丸が空中に浮かんでいるのを見た時くらいである。

それも寝起きであるので寝ぼけていた可能性が高い。

目を覚ますと空中に黒い丸が浮かんでいて、怖いと思うより先に反射的に隣の部屋へ逃げ出して、服置き場と化していたベビーベッドに飛び込んでわんわん泣いた。

私と同じ部屋に母と弟が寝ていた。何故か強烈に「見捨てて逃げてしまった!」「ごめんなさい!」と、それだけが頭を巡って涙が止まらなかった。

泣いて泣いてしばらくして落ち着いてから、「何故こんなに泣いているのだろう」と泣いている理由もよく分からなくなりテレビを付けて明け方のニュース番組を見ていた。5時くらいだった。

寝ぼけていたんだと思う。


その時住んでいた家でよく起こっていたのが、賑やかなる旧家のラジコン事件である。

電池を抜いたラジコンが夜中に動き出すので対応に四苦八苦していた。

あまりにも堂々と目の前で変な事が起こると、心霊現象だ!怖い!と思うよりも先に、「よく分からないが自分が説明出来ないだけで理にかなっている事が起こっているんじゃないか?」と考えるので実際はあまり怖さを感じない。

矛盾しているようだけど、たぶん科学の力!と、もしかしたら心霊現象!は、その時その時で都合のいい判断をしている。

どうせよく分からないので。

この事件に関しては、電池が無くても動く理由があったのだろうと未だに思っている。

そういえば書いていて思い出したが、大人になってから1度だけ、寝起きに横を見ると半透明の赤ん坊が泣いていた事があったが、瞬きすると消えたのでおそらくあれも寝ぼけていたんだと思う。


父方の祖母が亡くなった時に、霊柩車に祖母の棺を乗せていざ出棺という段になって車のエンジンがかからなくなった事があった。

運転手さんがボンネットを開けたりして20分程でエンジンはかかったが、「鳩の羽がボンネットに入っていました」との事だった。

父親に「羽入ってたって?」と聞くと、「まぁ、入って、は、いた」と返された。羽毛みたいなフワフワの羽が1枚入っていたらしい。

親族達は、あぁばあちゃんがまだ家に居たいってグズってるんだなぁ、と思うことにしたようだった。実際そっちの方が気持ち的には良かった。

車が羽毛1枚で動かなくなる方が怖いので、これはたぶん心霊現象だったのだ。


そのくらいの頃に、母がアルコール依存症の治療で隔離病棟に入院していた。

私が物心ついた時にはもうアルコール依存症を患っていたので、その時既に何度目かの入院だった。今思い返してみたけれど、もうどういった経緯で入院したかは思い出せない。警察に通報してからだったか、病院に無理やり連れて行ったかのどちらかだと思う。

よく暴れてよくヒスる元気いっぱいの母だったが、何故か分からないけど本当によくモテた。離婚する前から彼氏がコロコロ変わって、それは離婚してからもそうだった。

「AさんとBさん、付き合うならどっちがいいかな?」と聞かれた事もあった(確かどっちでもいいと答えた)。

記憶する限り途切れた事が無かったと思う。

その何人目かの彼氏と私とで、一緒に隔離病棟へ見舞いに行った事があった。

隔離病棟は言葉通り隔離されているので、出入り出来るような入口は全て閉じられている。横3mくらいの大きなシャッター扉が1つと、そのすぐ横に、人が出入りする用のノブが付いたアルミっぽい扉があり、さらにその横に扉を開けなくても対応出来るように小窓とインターホンが付いていた。小窓にはカーテンがかかっていたので、インターホンを押してしばらく待っていた。

しかし待てど暮らせど誰も出てこない。

「忙しいのかな?」とか「聞こえてないのかな?」とか言いつつ何度かインターホンを鳴らした。

あまりに誰も出てこないので、小窓に耳を近づけて鳴らして「いや鳴ってる鳴ってる」と言った頃に、カーテンが開いて対応して貰えた。

中はとにかく生臭かった。糞尿のようなこもったような生臭さで、消毒液の匂いと混じって凄まじい臭さだった。他の患者も出歩いている中に長テーブルがいくつか置いてあって、そこに座って待つように言われた。

長テーブルに座って、病棟内から入ってきた扉の方をみると、扉と小窓のすぐ横が事務所のようになっていて、事務所の中で「こんなんじゃ帰っていいって言えないよ!年末帰れないよ!」と看護師さんが患者の肩を掴んで言い聞かせているのが見えて、あぁこれは忙しそうだなと思った。

しばらくして母が来たので、まぁまぁ当たり障りのない、最近どうですかお変わりないですか、という話をした。その間、常にどっかの病室から言いようのない呻き声とギリギリ何か日本語喋ってるなと分かる罵声が響いていたので、雑談に集中する余裕は無かった。

インターホンも常にピンポンピンポンなりっぱなしで、病棟側だとこんなにうるさいんだな、見舞い来る人意外といるんだなぁ、と思っていた。

が、もうそろそろ帰るという時になっても他の見舞いが誰も入って来なかった。小窓は私たちを対応した時のままカーテンが開けっ放しだった。

インターホンは小窓のすぐ横にある。だから押す時には必ず小窓の前に立つ。ピンポンは常になりっぱなしで、その時も鳴り続けていた。

「ねぇ、そこから窓見える?」と彼氏に聞いた。「見える」「誰かいる?人が見えないんだけどそっちから見える?」「いや、見えない!」

ものすごくキッパリ言われたのを今でも覚えている。「誰もいない!」

ははぁ、と腑に落ちた。これだけ鳴って、対応しに行ったら誰もいないんじゃそりゃあ出てこないわ、と思った。


インターホンで思い出したが、弟が結婚して家族と暮らし始めたアパートのインターホン(ディスプレイ付き)も誰もいないのに鳴るという。

故障だろうという事で、設備の仕事もしていた弟が自分で替えているのだが、何度付け替えても鳴るから「インターホン代」がかかって鬱陶しいと言っていた。あと普通に誰かが訪ねてきて押しているかもしれないので、対応しない訳にはいかないらしい。

他の部屋は同じ症状が出てないのか?と尋ねたが、「他の部屋は関係ない、インターホンは独立してるから他の部屋と連動するなんて事は無い。とにかく対応しに行って誰もいないのが問題」との事だった。インターホンはそういうもんなのかもしれない。


以上。

この程度の事をあげつらえて心霊体験と呼ぶなんて、と思われる方もいらっしゃるとは思うが、せっかく覚えているので記録として残しておく事にした。もちろん、ちゃんと科学的に説明がつく出来事も含まれていると思う。ラジコンもインターホンも車も電気が通う物だし、何らかの原因があって一時的に通電や停電したのかもしれない。

が、結局の所は「よく分からない」のだ。

今後万が一増えた際はその都度書き残しておこうと思う。


まぁ増えないのが1番良いけれど。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心霊体験について 奥行 @okuyuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ