第2話

 

 おれは特殊能力を持つ人間を集めた組織で暗殺を生業としている。


 暗殺と謳おうとその実はただの人殺しで、人様に胸を張れるような職業ではないけれど、おれにはこの生き方しかなかった。



 生まれてすぐ両親に捨てられた。

顔も知らない薄情な人達は殺すほどの勇気は無かったらしく、組織の傘下にあたる小さな孤児院におれを捨てた。


 3歳まではそこで過ごした。

おれの人生で唯一の血を見ることのない期間。まあ平和だった気がする。あまり憶えてないけど。


 そして最悪の3歳の誕生日、能力が目覚めた。

ただ人を傷つけるだけのクソみたいな能力。

 突然身体中が痛くなって、呼吸ができなくなった。個人差はあれど能力開花時は自己の能力を自らが受けるらしい。おれはそれが如実に出た。

そしてパニックになって暴走し周りにいた人を傷つけた。それはもうたくさん。


 その件で上に報告があったらしい。この危険な子供をどうしたらよいのか、と。


 それからの展開は驚くほど早かった。

能力者がいると知りすぐに組織が動き、おれを保護した。


 当時のおれは人を傷つけたことにショックを受けて絶望していた。

そんなおれを引き取ってくれた組織はいい所なんだ、と思った。浅はかにも程がある。


 こんなにおれを利用する気満々のジジイ達の巣窟のどこがいい所だ。



 3歳にも関わらず、連れてこられてまず初めにしたことは殺しだった。

動きを封じられた人を指差して「殺れ」と。

その目には何も写ってなかったし多分彼奴はおれのことを子供だと認識していなかった。

 能力を持った人外で傷つけて良いものだと思っていた。


 殺した。殺した。


 たくさん人を殺した。


 知らぬ間に着けられた制御装置で初めから抵抗は出来なかった。

ただ言いつけ通り人を殺して5歳になるまでに千は殺した。

人として扱われず、おれは都合のいい犬で。

勉強なんてしたことのない頭の悪い馬鹿で。



 惨めだった。



 そんなある時、あいつが来た。

最初は少しの興味だった。

あり得ないほど抵抗して抵抗して、屈するもんかと噛みつく彼が新鮮で、興味が湧いたんだ。

おれには到底出来ないことだったから。



「ね、ねえ おまえなんていうの」


「は?お前?初対面でお前とか」



 当時のおれの言語レベルは地を這っていて、自分に使われたことある言葉しか知らなかった。

お前が高圧的な言葉で使うべきでないことも何もかも知らなかった。



「?なんていうの?」


「知らねーよ、話しかけてくんな」



 初対面ではまず嫌われた。


 まあ人殺しに話しかけられて喜ぶ人なんていないよね。その程度の認識だった。




 数日後、上司に呼び出された。

 おれへの用事なんて殺し以外にないだろう。

呼び出しなんてしょっちゅうだし。


 なんとなく気楽な心持ちで、いや殺しを気楽と思ってしまう時点で終わっているけど、とにかくそんな気持ちで向かった。


 扉の前に立つと、詰る声が聞こえた。



 巻き込まれないといいなぁ。



「しつれい、します」



 これだけは叩き込まれた。

上司への礼儀礼節、特定の言葉。



「入れ」



 短い言葉と共に扉が開き、その先には──



 あいつがいた。

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死にたがり暗殺者はただ相棒を愛す なろにろに @76262

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