第4話

 あれからエリエゼルに急かされ、とりあえず食堂を作って考えることにしたのだが、食堂って一口に言っても色々あるよな…。


 個人的にはやっぱり良い雰囲気の個室タイプの居酒屋が良いが、エリエゼルはカフェチックな店が好みのようだ。


 迷う。


 まあ、まずは俺の服だけどな!


「バーテンダーっぽいのに憧れるが…服装が思い出せん。居酒屋しか行かないからなぁ…」


 俺はそんな自らに対する愚痴を呟きながら服を想像した。


 黒いスーツのズボンに白いカッターシャツ…あとは、肩の部分が無いベストみたいなのを…あ、パンツと革靴も…!


 そんな想像をしながら念じると、俺の眼の前にスーツが現れた。


 殆どクールビズタイプのスーツである。普段仕事で着ているせいか、頭にはスーツが浮かんでしまうのだろうか。


「な、何かが違う気がするが、まあ良い」


 俺はそそくさと服を着込み、鏡の前に立った。フレッシュマンフェアだ!


「何かが違う。何だと思う、エリエゼル?」


 俺がそう尋ねると、エリエゼルは小首を傾げ、俺の姿を下から上まで眺め見た。


「…あ、食堂ですので、エプロンなんてものはどうでしょうか?」


「ああ、なるほど!」


 エリエゼルにそう言われ、俺はすぐにエプロンを想像した。


 すぐに眼の前に具現化したが、そのエプロンは白くてフリル付きの可愛らしいものだった。


「な、何かが違う…」


 俺はエプロンを眺めて頭を抱えた。


「あの、ご主人様。恐らくそのエプロンは私用だと思います。ですので、ご主人様はご主人様用に、腰から下を覆う黒い前掛けをお作りになっては如何でしょう?」


 黒い前掛け?


 俺は首を傾げながらも、すぐにその黒い前掛けを想像し、念じた。


 現れた黒いヒモ付きの布を腰に巻くと、なんと! バーテンダーっぽい格好になった!


「こ、これだ! テレビで見たことがある!」


 俺が喜んで鏡の前でバーテンダーっぽい格好をしていると、エリエゼルに拍手された。


「良くお似合いです。これなら大丈夫ですね」


「いやぁ、照れるなぁ…はっはっは!」


 俺は後頭部を片手で掻きながらそう言って笑った。


 場が心なしか和やかな空気に包まれた気がする。


 やっぱり美少女に誉められると嬉しいよね…と、そんなことで和んでいる場合ではなかった。


「いかん。早くダンジョンに見えないように偽装しないと!」


 俺がそう言うと、エリエゼルはハッとした顔になって何度も頷いた。


「そ、そうですね。早くしないと見る人が見たらすぐにバレてしまいます」


 俺とエリエゼルはその場でワタワタと小躍りし、店舗改装計画を練った。


 とりあえず、誤魔化しが利くように、ダンジョンの入り口を整備することにした。


「人が二人通れるくらいの階段にして、壁に手すりを付けたら出入りし易いよな?」


「そうですね。ダンジョンっぽくはありませんが…」


 苦笑するエリエゼルに笑い返しながら、俺は早速出入り口で階段を想像した。


 雰囲気の良い感じに…あ。


 俺は頭の中で階段のイメージが固まった瞬間念じたが、やはり、個人的に利用する居酒屋のようになってしまった。


 ご丁寧に階段の片側から階段を照らす間接照明まで付いてやがる。


「まあ、素敵ですね。ご主人様」


 階段を見上げ、エリエゼルがそう誉めてくれたが、違うんだ。もっとこう、階段の踏み板と踏み板の間にスペースがある感じとか、ガラスっぽいスマートな感じとか…!


 いや、ダメだ。イメージが出来ないから俺には作れそうにない。


 俺は諦めると、ダンジョンの出入り口に片手で左右に開閉出来るスライドドアを付けた。


 普通に木製のスライドドアだが、ドアの上に鈴を付けているので開けたら可愛らしい音が鳴る仕組みである。


 男っぽい居酒屋になりそうなのを防ぐせめてもの抵抗だ。


 エリエゼルは鈴の音が気に入ったのか何度か一人で開け閉めしていたが、俺はそちらはスルーして店舗内を見回した。


 すっきり見やすく、どうせなら厨房から見えるようにした方が良いか?


 俺は頭を捻りながら店内を想像する。


 テーブルを壁際にピッタリくっ付けて設置。真ん中は歩くスペースもしっかり考慮して四人掛けのテーブル席。


 天井からよくわからん小型の照明が垂れてるやつも憧れるよね。絶対無駄なんだけど。


 そういえば、天井でクルクル回ってる風が出そうに無い扇風機みたいなやつもいるな。雰囲気的に。


 後輩が言うには、シーなんちゃらファンとか何とか言うらしい。空調に大変な効果があるとか。


 天井でクルクル回るヤツで良いだろうに。


 俺は余計なことも色々考えつつ、理想の食堂をイメージした。


 念じてみる。


 出来た。


 ヤバい。達成感も何もあったものではない。


 気がつけば、あの洞窟の中のようだった我がダンジョンが、シックで落ち着いた雰囲気の居酒屋風に様変わりしている。


 いや、どちらにせよダンジョンという意味ではおかしいんだが。


 その光景にエリエゼルですら唖然としていた。


「な、な、なんでもうこんなに出来るんですか!?」


 エリエゼルは見た目の年相応に目を丸くして驚いた。そんなエリエゼルを見て、俺も首を傾げる。


「魔素とかいうやつが多いからじゃないの?」


 俺がそう尋ねると、エリエゼルは顔を左右に振った。


「あ、ありえません。魔素の量もそうですが、これだけ詳細なイメージをすぐに出来るようになるなんて…! それも、部屋丸ごとですよ」


 エリエゼルはそう言って戸惑いも露わに店内を見回している。


 そんなエリエゼルを横目に、俺は申し訳ない気持ちで口を開いた。


「えっと…エリエゼルさん? 悪いんだが、そこの壁の所に行ってみてくれ」


「え? あ、は、はい」


 エリエゼルは俺の指示に従い、挙動不審気味にだが壁側に移動した。


 出入り口から見て左側の壁だ。


「顔の高さくらいの部分に手を当てて、横にスライドさせてみてくれるか?」


「あ、はい」


 そう言ってエリエゼルが壁に手を当てて横に動かすと、壁の一部がスライドして高さ1メートル、横2メートルほどの隙間が出来た。


 そして、その奥には白い壁とステンレス製のキッチンなどが見える。


「キッチンもついでに作りました」


 俺がそう告げると、エリエゼルはキッチンとこちらの部屋を繋げる隙間に顔を突っ込んで絶叫した。


「え、えぇええっ!?」


 こちらの部屋と同じくらいの大きさのキッチンを絶叫しながら眺めるエリエゼルの背中に、俺は追加情報を投げ掛ける。


「そっちの角に目立たないけどキッチンへ向かう扉があるぞ。後、部屋を作った時に、何となくだけど魔素の溜まる感覚が分かってきた気がする」


 俺がそう言って笑うとエリエゼルはまるで珍獣を見るような目で俺を見てきた。


「なるほど…身体を最高のモノに作り変えられずとも、ご主人は充分に規格外だったようですね」


 エリエゼルはそう言うと、乾いた笑い声を上げて俺を見ていた。


 何故だ。褒められている気がしない。


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