僕と柴犬の憧れの犬ライフ

DONDON.

第1話 あの別れのあと、柴犬を迎えることにした

今週は、人生の中でも指折りの――

そんな言葉を使いたくなるほど、最悪の気分だった。


サッカーを辞めなければならなかったからだ。

それも、息子が心の底から愛していたサッカーを。



きっかけは、ある日、同じチームの保護者からかかってきた一本の連絡だった。


「うちの子が、サッカーも学校も行きたくないって言ってるんです。

あなたの息子さんがいるとダメなんです」


――そう告げられた。


うちの子も、相手の子も、小学3年生。

学校も、クラスも、サッカーチームも一緒だった。

ふだんは仲が良くて、よくふざけ合っていたように見えていた。


理由は、うちの子の何気ない言葉だった。

「弱い」「ダサい」――

小学3年生の男の子なら、ふざけて口にしがちな、そんな言葉。


でも、それがその子の心を深く傷つけてしまったらしい。

実は数ヶ月前にも、同じ理由でその子は登校を拒むようになっていたという。

そしてまた、今回も同じことが起きてしまった。


結果、うちの子が「加害者」となった。



その日常は、たしかにあった。

ふざけあって、笑いあって、一緒にボールを追いかけていた。

それなのに――


ある日突然、息子が“壊す側”として見なされるようになった。

そんな展開が待っているなんて、正直、思いもしなかった。


心のどこかで、こんなふうにも思ってしまった。


「ダサいって言われただけで、登校拒否? 弱すぎじゃない……?」


でも、今の時代は違う。

“受け取り方次第で、加害者になる”。


どんなに悪気がなかったとしても、相手が「つらい」と感じたなら、

その瞬間から「加害者」と「被害者」ができてしまう。

その現実を、痛いほど突きつけられた。



そして迎えた、チームに退団の意思を伝える日。


大好きだったユニフォームに袖を通し、号泣する息子。

その背中をさすりながら、私も泣きたくなった。

どこにもぶつけられない怒りや悲しさが、胸の奥にぐっとのしかかってきた。


「なんで、うちの子が……」

「なぜ、ここまでしなければならなかったのか……」


答えのない問いが、頭の中で何度も何度もこだました。



でも、どれだけ悔しくても、

どれだけ納得がいかなくても、

時間は戻らないし、立ち止まってもいられない。


週5で通っていたサッカーの時間が、ぽっかりと空いた。

その時間を、どう過ごしていこうか――そう考えたとき、

ふと、息子の夢を思い出した。


「柴犬、飼いたいなぁ」


小さい頃からずっと言っていた、あの願い。


ならば、今しかない。

その夢を、叶えてやろうと思った。



サッカーを失った喪失感。

その裏にある怒り、不条理、悔しさ。

泣きながらボールを握りしめていた息子の姿。


そのすべてを、前へ進むための“原動力”に変えよう。


これから始まる、柴犬との暮らし。

それが、息子の心にもう一度笑顔を取り戻してくれるように。

そして、私自身も――

この「犬ライフ」を通して、前を向いて歩いていけるように。


……なんて思ったものの、

正直なところ、何から始めればいいのかさっぱりだった。


柴犬って、どこで出会えるんだろう?

ブリーダー? ペットショップ? 保護犬?

そもそも、うちみたいな初心者でも飼えるのかな……?


そんなふうに、手探りではじまった「柴犬探し」の日々。

次回は、あのとき私たちがどうやって調べ、どこへたどり着いたのかを綴ってみようと思います。

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