放浪編 【5】

 京の座に入り主人に座の札を見せて、「これから井ノ口の町に行くのですが、どの交易品が売筋でしょうか。」


 「文句なしに茶だね、どこの町でもかなりの利益がでる。他には茜がおすすめかな。」


 「なるほど。馬一頭で無理なく運べる量を仕入れたいのですが、如何ほどが良いかな。」


 「茶を10箱に茜を5箱ぐらいでいいのじゃないかな。」


 「承知しました。それでお願いします。」


 「もし井ノ口からまた京に戻るなら紙を20箱仕入れてくれないか。」


 「かまいませぬが、向こうで少々難しい仕事を受けているので帰りがいつになるやら、、、」


 「それってもしかして、隠し蔵元かい。」


 頷く双葉に「以前にうちの座で同じ依頼を受けたことがあってな、かなりの腕利きが探せなかったよ。酒造りに清水は欠かせないから川の中、上流を探したらしい。

 美濃の国には長良川、揖斐川、木曾川があって探してないのは長良川だそうだ。」


 「おぉ、貴重な助言かたじけない。」


 「いいってことよ。見つかるといいな、隠し蔵元。」


 双葉は、深々とお辞儀をして座を出た。


 (さて、北野天満宮にむかうとするか。ケロのやつ、大人しくしていればいいが、、、)

 

 預かり所に着くと主人が「あんた、これ見てくれよ。」と腕をみせた。

ケロの歯形がくっきりと。


 「申し訳ござらぬ。これで勘弁してやってくれ。」と預かり賃を倍額払うと

「金輪際、あんたの馬は預からないよ。」といいながらも許してくれた。


「この調子だとどこも預かってもらえなくなるぞ。」


(しったことか、ぼけぇ!)と言わんばかりにそっぽを向いた。


(こ奴は気に入らないことを言われたときは、なんとなくわかるみたいだな。)


ケロに積荷を載せて北野天満宮に向かうことにした。


 京の町を北に向かうと、まさしくこれぞご先祖様=道真公の総本社、北野天満宮の入り口に着いた。

 少し季節は遅くとも、さすがに見事な梅林が、その香りをあたり一面に届けている。

 上品な、いや貴品さえ感じる梅の香り。

 

 広い境内の奥に立派な本殿のお社があり多くの人が参拝している。

再拝,二拍手、一拝

(ご先祖様、どうか良い出会いに巡り合えますように。)


こうゆうときに一番似合う歌といえばやはりこれだな。


この度は ぬさもとりあえず 手向たむけ山

 もみじの錦 神のまにまに

            菅原道真


 双葉は特にこの歌がお気に入りで、ぼんやりと物思いにふけっているときなど、知らず知らずのうちについ口にしてしまう。 

 ときには鼻歌まじりで。

 

 念願の総本社にへの参拝を済ませ満足気な双葉に「もしや、貴殿は菅公ゆかりのお方でしょうかな?」と社の神官らしき人物に声をかけられた。


 「はい、、、ああ、この本家家紋の剣梅鉢ですね。確かに筑紫国から出てきたばかりの子孫です。」


 「やはり。なにやら、熱心な御祈願の様子が、つい気になってな。」


 「なにぶん、上方では新参者。なんのつてもござらぬゆえ、良き人との出会いを。」


 「これから何処に向かうおつもりかな。」


 「美濃の国でござる。」


 「ならば、美濃に人あり。今孔明こと竹中半兵衛重治殿なら申し分なし。あともう一人。少し寄り道になるが、鞍馬山の義経ゆかりの地辺りに滅法強い武芸者がいるらしい。通称鞍馬の小天狗。会ってみて損はないと思われるが。」


 「今孔明に鞍馬の小天狗! 是非とも会ってみたい。助言感謝いたす。」


 「礼には及ばぬが、また参拝に来なされ。」


 「報告も兼ねて必ず。」深々と頭を下げてその場を去った。


 北野天満宮から鞍馬山へは美濃に向かう際にそれほど遠回りでもない。


(滅法強い武芸者か。語り合うより剣を交える方がてっとり早いか。いずれにしても会うのが楽しみだ。)


 

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真・東風吹かば⁈ @kerobotch

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