第4話 DDメディア・SDカード
根山ミチルは文京区の私立小学校に通う小学五年生で、来年の中学受験の為、放課後には御茶ノ水駅近くにある学習塾へ徒歩で、湯島の自宅から通っていた。その徒歩移動の間に、チビと呼ばれている文字通りの小柄な十歳以上の野良老猫が、プラモデル屋の裏側に住んでいて、ミチルは百円ショップで買った猫用の減塩煮干しを、毎日一尾ずつチビの元に持っていき、遊んでいたのが、楽しみであり日課だったという。
しかし、二週間前の日、そのチビが忽然と姿を消したのだ。ずっと煮干しを持っていても、チビの姿が現れないものだから、業を煮やしたミチルは、チビを保護していたプラモデル屋の店主に聞いてみた所、「もう結構な老猫だから、どこかに消えちゃったんだろうね」と言われ、よくある話として、あっさりと片付けられたらしい。
それでも、チビの事を諦めきれないミチルは、地域猫や保護猫活動を行うNPO法人のサービスを知る。去勢手術の際に、耳の中に埋め込まれたマイクロGPSタグによって、猫の現在位置を特定するというもので、ダメ元でチビの情報を入力してみた所、チビと思しき猫の情報がヒットしたのだ。それで、GPSの情報が消失していたら、チビはもう亡くなっていると諦めがつくものだが、スマブラの画面には、チビの存在を知らせるビット表記が、秋葉原の中に存在しているのが分かった。
親や学校でも、秋葉原はとても危険な場所であり、一歩足でも踏み入れたら、腕と脚を奪われてからギカイに改造され、臓器ごと外国に売り飛ばされる地獄のような場所(誇張し過ぎだ)だと、耳にタコができるほど聞かされており、そんな危険な場所だからこそ、チビを早く救い出したいミチルは、チビがいる秋葉原へ向かってみたものの……。
「チビちゃんがいると表記されていたのは、ジャンク大通りのど真ん中……だったという事?」
「その前にちょっと待て……どうして、俺やサツキが念写師、陰陽師である事を知っているんだ?」
「え? それは……ここに書いてあるからです……よ?」
ミチルはスマブラを操作し……サツキが俺の許可もなく、勝手に開設されたCNS……ワープの画面を俺に見せつける。「国家資格を持つ念写師と陰陽師にお任せください!」と、デカデカとプロフに書いてあって、俺はサツキを睨めつけた。
「だ、だって……本当の事だろぉ?」
「はあ……そのGPSの位置情報とやらは、まだ残っているのか?」
「いいえ……それなんですけど……っていうか、本題はコレに関しての相談もあって……」
ミチルは背負っているリュックから、カード型記録メディア……SDカードを取り出した。そのメディアを出した瞬間に、俺のカメラ……ピーモの露出計がキリキリと音を立てながら反応する。
「オワゾウ……コレは……」
「ああ……それは、ただのSDカードじゃないな。どこで、それを拾ったんだ?」
「チビのGPSの場所……その近くの電柱の影に、このカードが捨ててあって……その……それで……中身が……その」
よほどSDカードの中身が言い淀む程の内容だったのだろう、ミチルは俯きながら、俺にカードを手渡す。
「本当は道に落ちてるメディアを読み込むのは駄目だよ。食べ物同様、得体の知れないバイ菌……ウィルスがあって、エンガチョなんだからさ。ロクヨン……古いDD用のPOCがあるから、それに読み込ませなよ」
そう言ってハジメさんは、DD用の受付機の電源を繋ぎ、主電源を起動させた。梵字のようなOS画面が滲んだCRTモニターに表示され、ガリガリという独特なHDD音と共に、「DDメディアヲロードシテ」と、小さな文字が現れる。
「DD……というのは?」
「Different Dimension……異次元の代物だよ、ミチルちゃん。秋葉原の地下から龍脈の影響で生じたこの世ならざる物質の事。もしかしたら、ミチルちゃんが拾ったのは、たまたま地上にまろび出たDDメディアかもしれないから……うん、特に変なウィルスとかは入っていないかも」
サツキはスロットを介さずに、触覚接続だけでDDメディアのスキャンを行いながら、受付機の方のスロットにカードを差し込む。容量がかなりあるのか、一分程の読み込みの後に、画像のインデックス覧が羅列された。
「……ひっ!」と、意気揚々とその画像を覗き込んだサツキが、悲鳴を上げた。無理もないだろう、十六ギガバイト、千枚を超えるその画像全てが、猫の死体と思しき画像で埋まっていたのだから。
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