第41話 魂共鳴率 1
国営第七ダンジョン
九階層。
焼けた石と血の匂いがほのかに鼻を刺す。
だが、その中心で跳ねる小さな影は、そんな空気をものともしていなかった。
「モモッ!(こいッ!)」
土を蹴ったモコの前足が、突進してきた《オークソルジャー》の顎下に綺麗にめり込んだ。
そのまま反動を利用し、丸い体をふわりと回転。低い姿勢のまま、背後から迫る《オークナイト》のふくらはぎに、別の前足でカウンターを叩き込む。
ゴキン、と鈍い音を立てて膝が折れる。
甲冑ごと吹き飛ばされたナイトは、そのまま床に転がり、痙攣したあと動かなくなった。
「モモモ!(まだまだー!)」
残るのは3体。
前衛の《オークガード》と《オークアーチャー》《オークメイジ》が1体ずつ。
誠司は少し離れた岩陰に立ち、静かにその様子を見守っていた。
手は刀の柄から離し、ただいつでも抜ける距離だけを保っている。
(もうほとんど俺の出番はいらんか)
ガードが吠えながら突進してくる。
モコは一歩だけ後退し、地面にこつん、と前足を添えた。
「モモォ――ッ!!(これでどうだ――ッ!!)《
足元の岩盤が膨れ、次の瞬間、地面そのものが爆ぜた。
ズドンッ!
音とともに、土と石片がガードの胴を下から殴り上げる。
爆裂した岩の礫が半円を描くように飛び散り、側面に陣取っていたアーチャーの弓を粉砕し、メイジの詠唱を遮った。
「ギャッ!」「グボッ……!」
吹き飛ばされた3体のオークが、ごろごろと床を転がる。
一番近くに落ちたガードに向かって、モコは迷いなく駆け寄り、
「モモッ!( おわりッ!)」
ずしん、と決定打の一撃。
重量級の前衛が沈黙する。
残り2体。
立ち上がろうとしたアーチャーの手が地面に触れた瞬間、
モコはすかさず《
支えを失ったアーチャーはぐらりと前のめりになる。その隙を逃さず、モコが全体重の体当たりし、アーチャーの後頭部が背後の岩にぶつかり、そのまま意識を手放した。
最後のメイジが、悲鳴混じりの詠唱を再開したその瞬間。
す「モモモッ!(まほう、つかわせない!)」
モコの足元から細い土の棘が奔った。
地を這うように走った土槍が、メイジの足首を貫き、そのまま上半身を軽く持ち上げる。《
宙づりになったメイジは、みっともない声を上げたあと、力なく垂れ下がった。
静寂。
九階層の一角に、短い戦いの終わりを告げる残響だけが消えていく。
誠司は、ようやく一歩前に出た。
「……よくやったな」
「モモッ! モモモ!(やった! かてた!)」
血飛沫で少しだけ汚れたモコの毛並みに、誠司は《
「レベルも上がったな。感覚はどうだ」
「モモ……(なんか、からだのなか、ぽかぽかする)」
足元には、オークたちが残していった魔石と、粗末な武器、防具。
誠司は慣れた手つきで必要なものだけを選り分け、残りは《
その時だった。
胸の奥で、ふっと何かが弾けたような感覚があった。
身体が軽くなるような、魔力の巡りが一段階上に押し上げられるような違和感。
(……レベルアップ? いや、俺は今日はそこまで戦ってないはずだが)
思わず眉をひそめる。
魂のどこかに、モコと繋がった鎖のような感触があり、そこから波紋が広がっている。
「モモモ?(せいじ、どうしたの?)」
心配そうに首をかしげるモコに、誠司は小さく首を振った。
「いや、ちょっとな……」
誠司は久しぶりに自分のステータスを意識で呼び出し確認すると、視界の端に半透明の文字列が浮かび上がった。
魂共鳴率:75%↑
「……おいおい」
誠司は思わず瞬きをした。
最後に見たときは60台半ば。そこから一気に跳ね上がっていた。
(随分とまた駆け足で上がったもんだな……)
しかし、驚くべきはそれだけではない。
“魂共鳴率”の欄に、見慣れない追加項目が並んでいた。
■ 状態
魂共鳴率:75%↑
1. 魔力リンク強化:互いの魔力が深層で同期し、安定性UP。(NEW)
2. 感情共有:言葉を介さず、情景や感情が伝わる。(NEW)
3. 氷術の揺らぎ:共鳴の影響か、誠司の氷術に“本来ない広がり”が発現。(NEW)
4. 遠隔通信 300m:離れていても思念で連絡可能。(NEW)
5. 共鳴バフ:誠司は暴走抑制、モコは防御強化が自然発動。(NEW)
(……なんだこれ、便利すぎるだろ)
そして、さらに下へ視線を滑らせる。
スキル欄。
《氷流一閃》《氷域結界》《凍結圏》《氷盾障壁》……
その下に見慣れない一行があった。
《氷魔法
(……は?)
頭の中で短い声が漏れた。
氷術士。
氷魔法の適性を極限まで高めた超レアジョブ。
しかし、その記録は狭く偏っていた。歴史上の氷術士は数が少なすぎて残された資料も断片的だった。
しかし、その中で共通していたのはひとつ。
「氷術士は攻撃魔法を使えない」
使えるのは、あくまで補助的な氷結・拘束・結界。それらを“直接的な攻撃魔法”として成立させるには、根本的に構造が違いすぎるというのが当時の結論だった。
実際、誠司自身もこれまで一度として「氷属性の攻撃魔法」を習得したことがなかった。
それがどうして……。
(広範囲攻撃魔法……。しかも、よりにもよって《
《氷晶嵐舞(ダイヤモンドダスト)》は、極低温の氷晶を嵐のように巻き起こし、空間そのものを削り取る“氷属性の大魔法”である。
発動すれば広範囲を一瞬で凍結させ、小隊規模の魔物群などまるで存在しなかったかのように氷塵へと還す。
その性質ゆえ、行使できる者は国家戦略級魔導師クラスに限られ、歴史上でもごく僅かしか記録がない。
そんなものがいつの間にかスキル欄にある。
「モモモ……?(ほんとにだいじょうぶ?)」
心配そうに見上げてくる、黒いつぶらな瞳。
誠司はそこで、ふっと肩の力を抜いた。
「……ああ。“ちょっと”、強くなっただけだ」
「モモモッ!(せいじ、やっぱりすごい!)」
素直な称賛にくすぐったいものが胸の奥をかすめる。
(……これも“魂共鳴の影響”だな)
視界の隅に浮かぶステータスを思い返す。
魂共鳴率が75%へ跳ね上がり、新たに記された補正項目。
3.《氷術の揺らぎ》:共鳴の影響か、誠司の氷術に“本来ない広がり”が発現。(NEW)
(本来、氷術士は攻撃魔法を持たない……。だが、“本来ない広がり”が生じているなら……)
最も辻褄が合う。
モコの“癒し”と“土”の魔力。
そして、自分の“氷”と“無”の魔力。
互いが双方の魔力源の深層で混ざり干渉しあい、新しい氷術の回路が勝手に組み替わっているのかもしれない。
もちろん確証はない。
だが、体調も魔力循環も安定している。
(……まぁ、いいか。使える力は使えばいい)
誠司はそこで思考を切り替え、モコの頭を軽く撫で、
「休憩したら、もう一戦ぐらいいけるか?」
「モモモ!(いけるー!)」
尻尾が元気よくブンブンと振られた。
九階層の隅に着くとモコがちいさく前足を上げて魔力を込める。
「モモッ!」
次の瞬間、足元の土が盛り上がり、《
「助かる」
誠司がぽつりと言うとモコは胸を張って尾をふるふる揺らした。
壁にもたれて落ち着いたモコは、芳子お手製の干し芋を口いっぱいに頬張る。
ほくほくした甘みが広がり、目がとろん、ととろけた。
「モモ……(しあわせ……)」
「食ったらまた動くんだからな。腹八分目にしとけよ」
「モッ……(う……)」
名残惜しそうに最後の一切れだけを大事そうに咥えてしっかり噛む。
その様子に誠司は思わず口元を緩めた。
⸻
◆相沢誠司のステータス
相沢 誠司(あいざわ せいじ)
ジョブ: 《
属性: 氷・無(+土・癒共鳴)
性別: 男
年齢: 50歳
レベル: 43
HP: 757 / 757
MP: 823 / 823
筋力: 160
敏捷: 146
耐久: 140
知力: 165
精神: 172
運 : 78
■ 新特性・補正
•《魂共鳴補正》:契約従魔モコの魔力循環と共鳴。精神+12%/MP回復速度+20%/状態異常耐性+15%。
モコが癒し魔法を使うと誠司にも軽い再生効果が及ぶ。
•《癒土波動(リンク・リジェネ)》:一定距離内にいる間、土属性回復魔法の効果を受けやすくなる。地面に立っている状態では疲労回復速度が上昇。
■ 状態
魂共鳴率:75%↑
1.魔力リンク強化:互いの魔力が深層で同期し安定性UP。(NEW)
2.感情共有:言葉を介さず感情や情景が伝わる。(NEW)
3.氷術の揺らぎ:共鳴の影響か、誠司の氷術に“本来ない広がり”が現れ始める。(NEW)
4.遠隔通信300m:遠く離れても思念で連絡可能。(NEW)
5.共鳴バフ:誠司は暴走抑制、モコは防御強化の補助が自然と発動。(NEW)
■ スキル/魔法
•《収格納(ストレージフィールド)Lv6》
空間を生成・圧縮・保存する高度収納術。時間停止領域を併設でき、物質・生体・魔力波を保管可能。戦闘中の「素材即時回収」や「罠無効化」にも応用される。
•《解析収納Lv5》
収納対象を即座に解析・分類・ラベル化。未知の素材も魔素構造から自動判別。
•《氷流一閃Lv5》
一閃の軌跡に氷魔力を凝縮し、敵を一瞬で凍結・粉砕する抜刀術。
氷刃の残滓は数秒間持続し、範囲内にいる敵の動きを鈍化させる。
•《氷域結界(アイスドメイン)Lv4》
広範囲を瞬時に氷結させ、敵の行動を制限。魔力消費は大きいが、持続中は氷属性魔法の威力上昇。
•《静水の構えLv3》
水流の如く揺るがぬ構え。物理・魔法ダメージを軽減し、反射効果を付与する。
•《氷盾障壁Lv4》
氷魔力を結晶化して盾を形成。耐久性能が高く、衝撃吸収率は通常盾の数倍。
•《凍結圏(アイスリング)Lv3》
周囲に氷の輪を展開し、踏み込む敵を自動的に拘束・鈍化させるトラップ系魔法。
•《極冷斬・
新たな刀に吸収された氷核の力を解放する必殺技。斬撃と同時に極低温の結界を展開し、空間ごと封絶。“時間を止めたような静止”を生むが、使用後は一定時間、魔力循環が鈍る副作用がある。
•《霜華癒流(フロスト・ヒール)Lv2↑》
モコの癒魔力との共鳴で発現。氷魔力を媒介にした治癒魔法。治癒速度が向上。打撲・軽い火傷にも有効。
•《氷晶嵐舞(ダイヤモンドダスト)》(NEW)
氷属性の大魔法。極低温の結晶嵐で広範囲を瞬時に凍結させる。
■ 装備
•《氷霞刀(ひょうかとう)》A+級
冷気を纏う青銀の刀。元の刀を吸収し、氷精の核と融合した特異武装。
攻撃+65/氷属性攻撃+30%/水属性適性上昇。
特殊:魔力同調時、使用者の魔力総量に応じて刀身構造が変化(「流刃」「凍刃」「鏡刃」など)。
•《氷霜甲冑(フロスト・エンブレイス)》S級
銀と淡青を基調とした氷結鎧。胸部の雪結晶紋が光を受け白く輝く。Aランクダンジョンの隠し祭壇で封印されていた特異防具。
防御+80/氷耐性+60%/精神安定+20%
特殊:精神波感応による自動温度調整・氷結界展開。極低温時、表面が“薄氷の刃”となり接触対象を凍結。
•《探索者戦闘衣〈ナイトシェル・コート〉》A級
見た目は地味な黒コートだが、内部に魔力繊維を織り込み、氷魔法耐性+50%・土耐性+30%。
戦闘時、自動で温度調整・防護結界を発動する。
•《収納腕輪〈アーク・ストレージ〉》A+級
収格系スキルとの親和性を上げる。
•《防魔脚具〈グレイザー・ブーツ〉》B級
滑り止め+魔力増幅機能。氷上での移動時、加速度が1.5倍になる。 10/知力+5)
■ 装備補正
•《氷霞刀》がモコの魔力に反応し、刀身内に微弱な土光核を生成。
氷魔法使用時、地面からの反発力を吸収して反撃力+10%上昇。
⸻
◆モコのステータス
名前: モコ
種族:
属性: 土・癒(+氷適応共鳴)
性別: ♀
年齢: 2歳(孵化換算)
レベル:15 ↑
HP: 361 / 361 ↑
MP: 342 / 342 ↑
筋力: 79↑
敏捷: 73↑
耐久: 161↑
知力: 87↑
精神: 142↑
運 : 93↑
■ 新特性・補正
•《魂共鳴補正》:誠司とのリンクにより、氷属性魔力に対する耐性+20%。氷術士の魔力波動を一時的に共有でき、行動反応速度+10%。
•《癒導連環(リンク・モフヒール)》:誠司を中心とした半径10m以内で《モフヒール》発動時、対象が複数でも効率が低下しない。リンク対象に優先補正が入る。
■ 状態
魂共鳴率:75%↑
1.誠司の魔力循環に追従。少し離れていても感情通信が可能。
2.戦闘時、誠司の氷魔法の発動タイミングを敏感に感知し、自動で防御陣を展開できる。
■ スキル/魔法
•《ストーンバレット Lv2↑》
拳ほどの石弾を複数作り出し、勢いよく撃ち出す魔法。連射性が高く、牽制や小型の敵への攻撃に向く。石弾の速度・硬度が上昇し、石弾が4発に増えた。
•《ストーンランスLv2↑》
地面から鋭い石槍を生み出し、前方の敵を貫く土属性の攻撃魔法。瞬時に生成された岩の槍が大地を裂き、一直線に突き進む。石槍の硬度・速度上昇。
• 《大地爆裂(アースバースト)》(NEW)
土属性の爆裂魔法。地面の一点を瞬間的に膨張・破砕させ、爆発的衝撃で周囲を吹き飛ばす。牽制・制圧に優れるが、使用には地形把握が必須。
• 《地形変動(アースシェイプ)》Lv2》
地形や地層を自在に操る基礎土魔法。畑の耕作や岩盤成形にも応用できる。精密制御が得意で、掘削時は周囲を傷つけない。足元半径3mの地形を瞬時変化。
•《大地の盾(アースガード)Lv1》
使用者の全身を土の魔力で包み、外からの衝撃を和らげる防御魔法。発動中は淡く褐色の光が体表を覆い、安定した守りをもたらす。
• 《《大地の壁(アースウォール)》Lv3↑》
土魔力を硬化させ、せや自身を包む防御壁を展開。魔力密度に応じて岩壁・鉱壁へ変質。小型ながら防御性能は高い。
• 《土壌再生(ソイルリジェネ )Lv2↑》
汚染・枯渇した土壌を浄化・再生させる。畑を肥沃化し、植物の成長を促す。養分循環が促進され、作物が早く育つ。
家庭菜園では奇跡の効果を発揮。母・芳子のお気に入り。
• 《
触れた者の心を鎮め、疲労やストレスを軽減。
触り心地は規格外(触り心地+999)。過度な接触は“モコロス”を誘発する。
• 《モフヒールLv3↑》
モコの毛並みから発生する癒し魔力を媒介に、対象を包み込んで回復する特殊魔法。癒しの魔力が周囲にも広がり、半径2m以内の味方に安らぎを与える。小動物や植物にも効果あり。
HP小回復+精神回復(大)+幸福度上昇効果。
「モモモ……」という独特の詠唱が特徴で、聞くだけでも癒し効果がある。
• 《土精共鳴 (アース・ハーモニー)Lv2↑》
地属性との親和性を高め、地中の魔力流や罠、鉱脈を感知できる。
戦闘時には地面を震わせて敵の足取りを鈍らせる補助効果。
•《土氷結合 (アース・フロスト)Lv2↑》
誠司の氷魔力と共鳴し、攻撃魔法を冷却変質。
石弾・土槍などに凍結付与効果を得る。
土の防御壁に冷気を纏わせ、物理攻撃を減衰させる。
■ 装備
• 《ふかふか毛皮》
天然装備(地毛)。高い防御力と耐熱・耐寒性を併せ持つ。魔力伝導性があり、回復・土属性魔法の媒介として機能。
• 《首飾り〈やすらぎの鈴〉》C級
芳子から贈られた首飾り。鈴音が鳴ると周囲の動植物が落ち着く。精神安定+5/回復魔法効率+3%。
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