電気料金の未払いによって得るもの。

@gagi

電気料金の未払いによって得るもの。

 逆巻エジソ子は自称天才発明家だ。


 彼女の拠点である『エジソこラボ』で日夜研究開発に取り組んでいる。


「出来ましたよ助手くん! またしても世紀の大発明ですよ!」


「先生! 今度こそまともな発明品が出来たんですね!」


 エジソ子の呼びかけに答えたのは、ひょろりとした痩躯の優男。


 端整な顔に、罠にかかった獣をいたぶるときのような穏やかな微笑を浮かべている。


「その通りですよ! 今回の発明品は今までの大発明をさらに凌駕しますよ! 

 まさに大大発明! いや、大大大発明……助手くん、お前今なんと言いましたか」


「いやあ、先生の大大大発明! 早く見たいなぁ!」


「ふっふっふ、そうでしょうよ、しょうでしょうよ!

 では、さっそくお見せしますよ!

 じゃじゃーん!」


 エジソ子が手で指し示した先には、ゲーミング○○よろしく毒々しく発光する人型の機械がある。


「これこそが我がラボの新製品!

 次世代型ラーメンタイマー『絶対ラーメンのばさず君』ですよ!」


 説明しよう。『絶対ラーメンのばさず君』とは。


 エジソこラボの技術の粋を凝結させた、ヒューマノイド型のカップ麺用タイマーである。


 各種カップ麺に対応できるよう、タイマーの設定時間は1秒から122年164日まで対応。


 一度の充電で122年164日稼働できる、めちゃめちゃ長持ちバッテリー搭載。


 カップ麺にお湯を注いだ後でうっかり出かけても安心。

 のばさず君が時速44.46km/hで対象者を追跡してラーメンの完成をお知らせする『いつでもどこでも絶対できたてお知らせ機能』(完成したラーメンを持ってきてはくれない)。


 カップ麺にお湯を注いだ直後に地震や津波などの災害が起きても安心。

 のばさず君に搭載された超高性能AIが状況を的確に判断して確実にカップ麺を保持する『いかなる状況でも絶対ラーメンたおさず・こぼさず機能』(完成したラーメンを対象者の避難先に持ってきてはくれない)。


 研究開発費は驚きの9兆1580億円。


 この資金はエジソ子の持てる全てのコネクション(t愛グループとかcウカウファイナンスとか)を駆使して調達したものだ。


 のばさず君一台の販売価格は1億9140万円を予定している。


 原価は5万6285円と2000万円だ。


 5万5千台くらい販売すれば、費用を差し引いてちょろっとおつりが出るだろう。


「我ながら魅力的すぎる製品ですよ……。こんな製品が世に出れば驚異的な販売実績が残りますよ」


「そうですね! 驚異的な販売実績になりそうですね、先生!」




 こうして×025年10月25日に『絶対ラーメンのばさず君』は全世界で販売が開始した。


 そうして2か月が経ち。その期間の販売台数は、


 ――1台。


 驚異的な(大赤字が確約された)販売実績である。




 ×025年12月24日……から25日に日付が変わった頃の深夜。


 競売にかけられるまでの猶予が刻一刻と減りゆくエジソこラボ。


 [ヴゥウウウ――――ン、](ラボ内の全ての機械装置が停止する音)


「だああ、クソがぁ! 電気が止まりやがりましたよ! ちょっとの滞納くらい見逃せですよ!」


「先生、大丈夫です! ガスと水道は生きてます! まだいけます!」


「いけねーですよ! 電気が無いと仕事にならないじゃないですか! 

 あたしは早急に金を稼がないとなんですよ! 

 じゃないとあたしの可愛い可愛い腎臓ちゃんとお別れすることになるんですよお!」


「あー、腎臓取られる前に塩分濃いめのもの食っときます?」


 漂ってくる即席めんの香り。


「オイシイ、オイシイ、ラーメンノデキアガリ!」


 その言葉と共にのばさず君がやってきた。


 電灯の落ちて暗い室内をゲーミング発光が照らす。


「助手くんてめぇ! 商品在庫を勝手に使うなですよ!」


「これ私物です。自前で買ったやつです」


「……一台買ってたやつ、お前だったのですか」




 ラボ内の休憩室。


 エジソ子と助手がソファに並んで座っている。


 そうして二人でカップ麺をすすっている。


 光源は正面の窓から差し込む薄明かりのみ。


 暖房は電化されており使えず。既に室内は冬の寒さによって冷やされている。


「くやしい、くやしいですよ。

 電気を止められて、カップ麺しか食べられず。

 あたしの素晴らしい才能を理解できない凡人どものせいですよ……」


「まあまあ、先生。

 電気が止まったって、いいことの一つや二つありますよ」


 たとえば、ほら。


 そう言って助手が窓ガラスの向こう側を指さす。


 そこには夜空の中心で静かに光を放つ三日月があった。


「月がこんなにも綺麗に見えるじゃないですか」


「そーですね。月が綺麗ですね。

 で? それがなんになるって言うんです?

 お月様がキラキラすることで私の預金残高がモリモリ増えたりするんですか?」


「やさぐれてますね、先生」


 エジソ子はむすっとした顔でずるずるとカップ麺を頬張る。


 助手はそんなエジソ子のことを横目に見る。


 助手の表情はいつもの微笑を湛えている。


 しかし、そこには愚者をからかって楽しむような普段の雰囲気が無い。


「というか助手くん、お前もうちょっとこっちによりなさい。

 暖房が使えず寒いのですから。お前の体温を寄越すのですよ」


「はいはい、先生」


 助手がエジソ子に身体をぴとっと寄せる。


「……お前全然あったかくないですね。皮と骨だけだからかな?」


「あはは、すみません」


「痛、ちょ、痛い。肘が当たってますよお前、痛、なんかわざとやってねーですか?」




 麺を全て食べて汁を飲み干した後も、二人はしばらくソファに座っていた。


「月が綺麗ですね、先生」


「ええ、月が綺麗ですね。

 あの月からsb沢栄一が山ほど降ってきたらなぁ」




 その後、のばさず君からラーメンタイマー機能を取り除いた『のばさず君Ⅱ世』を、助手がAI搭載の高性能人型ロボットとしてこっそり販売した。


 結果、爆売れした。


 その売り上げを元手に腎臓を培養複製してエジソ子の体に収めた。


 万事解決! よかったね。



















人物紹介


・逆巻エジソ子

 自分のことを天才発明家だと思い込んでいる。

 頭が悪い。


・助手

 頭が良くて、実家が太い。

 ダメな女が好き。

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